私は焦っていた。
勝利に敵の狙撃を指示されたものの、動きが速すぎて標的を捕らえることが出来ないのだ。
狙えと言われたのは、四肢をつなぐ中心部分。
だが、Lサイズピザ程度の大きさのソレはひどく丈夫な脚に守られ、その隙間から弾を命中させることは難しい。
対物ライフルがあれば脚ごと射貫くことも出来たかもしれないが、手持ちの装備ではそれも不可能だ。側に勝利がいるため、弾をバラ撒くことも叶わない。
太く毛むくじゃらなその脚は、化け物並な勝利の攻撃がほとんど効かないという。銃も剣も打撃もだ。
それだけで敵の強さが計り知れないということが分かる。
現に彼は今、その化け物によって打ちのめされている。
――私には、何も出来ないのか――
口惜しい。
この、自由に動かぬ腕と脚が恨めしい。
敵を目で追いながら、私は無力感を必死に噛み殺していた。
普段クールを装っているが、愛息子が目前でボロボロにされて平静でいられる母親などいない。出来ることなら代わってやりたい。
だが、彼は私を信じて囮を続けているのだ。
『足止め出来なくて済まない……』
苦しそうな勝利の声がインカムから聞こえてくる。
違う、悪いのはこの四つ足野郎を射抜けない私の方だ。
「言うな」
たとえお前が食われようとも、一人で死なせはしない。
いざとなれば、道連れに自爆という手もある。
最悪のケースを考えるのは、何年ぶりのことだったか。
――だが、彼に諦めるなと教えたのは、この私だ。弱気になるなど、落ちたものだ。
「止めるかひっくり返すかしろ。これでは当てられぬ」
『俺に構うな。もっと撃て。簡単に死にゃしない』
「分かっている」
勝利は入り口ゲートの柵にワイヤーを絡め、体ごとウインチで巻き上げて、自分をエサにずるずる地面を這っている。
まるでトローリングのようだ。その後ろを、化け物が蜘蛛のように這い寄ってくる。彼に撃たれたためか、微妙に移動速度が遅くなっている。これならば。
――今度は、外さない。
私は銃口を敵に向け、異界獣が足下に近づくタイミングを待った。