「地獄ってこんなに美しいものなのでしょうか」
有翼の女神をして、地獄と言わしめるそれは。
闇夜を裂き、大地から吹き上がる、無数の虹の柱。
極彩色の光を放ちながら螺旋を描き屹立するその様は。
後に『虹の螺旋階段の惨劇』と呼ばるる禍々しき光の奔流。
1900年初頭の帝都・東京をぐるりと囲むように立ち上る、幾本もの虹の柱は、滅亡の前触れだった。直径数十キロメートルにも及ぶその円の中から、今にも次元の壁を突き破り巨大な魔物が出現せんとしていた。
「私があの異界人に騙されたりしなければ……。ごめんなさい、ぼうや。産んであげられなくて」
「猊下、儀式を開始いたします」
女神は白装束の男たちに向かって小さく頷いた。
それは、女神の体を千々に分割し、虹の柱の吹き出す門を塞ぐ秘術だった。
「ぼうや、この身が形を成すことがあれば、その時こそ会いましょう……」
彼女は愛おしそうに腹を撫でると、虹の柱の描く円の中心に設えられた祭壇に身を横たえた。
儀式を執り行う男たちが唱える。
「我が蒼き女神の血に贖いの炎を――」
女神の体は細切れになるや青い光球と化して、帝都の周囲へと飛び散った。