1☆白い青年
その夜。
どこからともなく月明かりの中を真っ白いシルクハットをかぶり、真っ白い燕尾服を着た青年が滑るようになだらかな道を歩いて来ました。青年は窓からもれる灯りを頼りに一軒の家を捜しあてました。
夜遅くまでその家の中では少女が一生懸命織り機を使って織物を織っていました。
「こんばんは」
「まあ、誰かしら?」
少女が作業の手を止めて扉を開くと、そこに全身白ずくめの青年が立っていました。
「こんばんは。昼間のお礼に来ました」
「昼間のお礼?なんのことかしら?」
少女は不思議そうに尋ねました。
「あなたのお陰ですっかり元気になりました。お礼に、僕の国へあなたをお連れします」
「えっ?」
少女がびっくりしていると、青年は少女の手をとって、外へといざないました。
「僕についてきてください」
歩いて行くうちに少女はびっくりして言いました。
「不思議ね!足がとっても軽いわ。まるで空を飛んでいるようよ。どこまでも、いつまでも歩けそうよ」
「僕の手を離さないで。離したら迷子になってしまうから」
青年は月光に照らされて、にこやかに微笑みました。