「てんちょー、氷ノ山神社の雪宮さんから、ダブルベジタブルL、二枚入りましたー」
「よし、俺が行くよ」
「……は?」
ぽかんとしている新人バイトを横目に、和也は手早くピザを焼き上げると、梱包してバイクに積み込んだ。
◇
二号店に異動になって一ヶ月、彼は今や本物の店長だった。
しかし実際は、あの先輩が店長に内定していたのだ。
元々気乗りしていなかった彼は、
『ナンパ出来ない人生なんて死んだも同然』と言って断ったのだとか。
和也に言わなかったのは、同情で職を譲られたと思わせないための、先輩なりの配慮なのだろう。結局は後で店長の口からバレたのだが。
そして、結果的に和也と美貴を復縁させるに至った彼は、美貴との約束どおり、氷ノ山神社の兎の護符を嬉々として貰い受けたとか。
――やはりあの男の頭の中身は不可解だ。
ちなみに、先日和也が美貴に贈った指輪は、和也の母親が倒れる直前、美貴の誕生日プレゼントにと買っておいたものだった。彼は何度も捨てようと思ったが、どうしても捨てられずに持っていたのだ。
――しかし、あんな形で贈ることになるとはな。近々向こうのお袋さんにも、婚約の挨拶に行かなければ――。
諸々の事象が重なり合い、和也と美貴は再び結ばれることになったが、これも神の采配とやらなのだろう、と和也は思った。
◇
和也が氷ノ山神社に着き、長い石段を昇ると、社殿の前であのガキ、いや、神職姿のご祭神様が、呑気にアイスを食いながら彼を待ち構えていた。
白い玉砂利からの照り返しが、十年前のあの時のように彼の銀髪をキラキラと輝かせている。
ご祭神は和也に気付くとニヤリと笑った。
そして和也もニヤリと笑い返した。
そう、あの日マンション前で日干しになっていたのは、十年前に結婚式を挙げてくれた、あの時の神サマだったのだ。
和也は結婚式の記憶とともに、あの子供の正体にようやく気づいたのだ。
後で聞いた話だったが、旧友の薫は、この神サマと結婚しているのだとか。そんなこともあるものかと驚いたが、目の前の物体を見るに、実体があるのだから結婚も出来るのだろう、と納得するしかなかった。
和也は帽子を取って、深々と頭を下げた。
「毎度、ピザキャットです。……ご注文の品、奉納に参りました」
――今日は俺の
(了)