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第7話 やきたて・おとどけ

「てんちょー、氷ノ山神社の雪宮さんから、ダブルベジタブルL、二枚入りましたー」

「よし、俺が行くよ」

「……は?」


 ぽかんとしている新人バイトを横目に、和也は手早くピザを焼き上げると、梱包してバイクに積み込んだ。



     ◇



 二号店に異動になって一ヶ月、彼は今や本物の店長だった。

 しかし実際は、あの先輩が店長に内定していたのだ。


 元々気乗りしていなかった彼は、

『ナンパ出来ない人生なんて死んだも同然』と言って断ったのだとか。


 和也に言わなかったのは、同情で職を譲られたと思わせないための、先輩なりの配慮なのだろう。結局は後で店長の口からバレたのだが。

 そして、結果的に和也と美貴を復縁させるに至った彼は、美貴との約束どおり、氷ノ山神社の兎の護符を嬉々として貰い受けたとか。


 ――やはりあの男の頭の中身は不可解だ。


 ちなみに、先日和也が美貴に贈った指輪は、和也の母親が倒れる直前、美貴の誕生日プレゼントにと買っておいたものだった。彼は何度も捨てようと思ったが、どうしても捨てられずに持っていたのだ。


 ――しかし、あんな形で贈ることになるとはな。近々向こうのお袋さんにも、婚約の挨拶に行かなければ――。


 諸々の事象が重なり合い、和也と美貴は再び結ばれることになったが、これも神の采配とやらなのだろう、と和也は思った。



     ◇



 和也が氷ノ山神社に着き、長い石段を昇ると、社殿の前であのガキ、いや、神職姿のご祭神様が、呑気にアイスを食いながら彼を待ち構えていた。

 白い玉砂利からの照り返しが、十年前のあの時のように彼の銀髪をキラキラと輝かせている。


 ご祭神は和也に気付くとニヤリと笑った。

 そして和也もニヤリと笑い返した。


 そう、あの日マンション前で日干しになっていたのは、十年前に結婚式を挙げてくれた、あの時の神サマだったのだ。

 和也は結婚式の記憶とともに、あの子供の正体にようやく気づいたのだ。


 後で聞いた話だったが、旧友の薫は、この神サマと結婚しているのだとか。そんなこともあるものかと驚いたが、目の前の物体を見るに、実体があるのだから結婚も出来るのだろう、と納得するしかなかった。


 和也は帽子を取って、深々と頭を下げた。

「毎度、ピザキャットです。……ご注文の品、奉納に参りました」


 ――今日は俺のおごりだ。神サマよ。



(了)

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