これ以上薫に幻滅されても困るので、李斗は薫の父親探しに本腰を入れることにした。このままではただのエロウサギ、本気で捨てられてはたまらない。
きっと母親への遠慮などもあったのだろう。
薫は、父の居場所を母から聞き出したことはないという。あの優しい男とどんな確執があったのか分からないが、せめて娘には会わせてやってもいいじゃないか、と李斗は思った。
そんな薫の父親の消息は、プロが調査を始めてあっさりと判明した。
この結果に、李斗は驚きを隠せなかった。――事態は思ったよりも深刻かつ複雑な様相を呈していたからだ。
☆
「薫、お父さんの件なんだけど……」
李斗は薫の部屋で、言いにくそうに切り出した。
薫と正式に付き合いだして、二週間ほど経った頃のことだった。夕方には母親が出勤して留守なのをいいことに、李斗と薫は学校から帰ると彼女の部屋で毎日飽きもせずにじゃれ合っていた。
薫には、もう子供じゃないんだから、ちゃん付けはやめてくれ、と言われたので、今は彼女を呼び捨てにしている。自分としてはどっちでもよかったのだけど。
「見つかったの?」
彼女の顔が期待でパっと明るくなった。
「それが……もう新しい家族と外国に住んでて……。だから……会うのは難しい。お願い、叶えてあげられなくてごめん……」
嘘だ。もっともらしいことを言って、薫に諦めさせるための嘘。
――僕は、初めて薫に嘘をついた。大きな嘘を。
「そっか……。もう八年も経ってるし、しょうがないよね。うん。元気ならいいよ。ありがとね、李斗」
気丈に振る舞っているけど、やはりショックは隠せないようだ。
「ううん、大口を叩いておいて申し訳ない。その代わり、僕がずっと一緒にいるから……」
「そうだよね。パパに負けないくらい、幸せになればいいんだよね」
泣きたいのを必死にガマンして、笑顔を見せている。こんな彼女を騙している、そう思うと胸が痛い。
「大丈夫、薫は僕が責任を持って幸せにするから」
そう言うと、李斗はポケットから小箱を取り出して、薫の手を取った。
「僕のお嫁さんになって下さい」
小箱の中から指輪を取りだし、薫の指にそっとはめた。
特注の銀色のリングだった。飾り彫りが施してある。
ちょっと職人に急がせたけど、李斗としては仕上がりに満足してる。薫は感極まったのか言葉が出てこなくて、うんうん、と何度もうなずいている。
――僕は卑怯だ。嘘を隠蔽するために、薫にとって大事なイベントを利用してる。僕は最低だ……。しかし、この嘘の真相だけは、冥府に行ったとしても誰にも言うまい。
彼女の父親はもう――。