李斗がやって来て、かれこれ一週間。
彼は毎日薫のために、せっせとお弁当を作ってくる。
お前は恋する乙女かっ、と薫も突っ込まざるを得ないのだけど、どうにも餌付けされている感は否めない。
でも李斗の料理の腕前はプロ級で、毎日楽しみにせずにはいられないわけで。
昼休みのチャイムが鳴る。
同時に薫のおなかも鳴った。
薫は教科書やノートを机の中にいそいそとしまいこみながら、隣に座る李斗に尋ねた。
「李斗、今日のお弁当なに?」
「今日はねぇ、セロリと牛肉のオイスターソース炒めと、生春巻きだよ」
「セロリぃ〜? むうぅ……。でも、おいしいんだよねソレ」
「食べればわかるよ」
彼は机をガタガタと動かして、薫の机と向かい合わせにくっつけ始めた。
……まんまとヤツの思うつぼだぞ、コレは。
そう思っていても、薫に抗う術はなかった。
親友の美季がやってきた。彼女もまた、李斗の弁当のおこぼれ目当てだ。
美季は手慣れた様子で近くの席の机とイスを拝借し、薫の隣にくっつけた。李斗は机の上に重箱を並べ、お皿やお箸を置いたり、お茶を入れたりしている。
なんだかずっと昔から、こんな風に過ごしていたような気がしてしまう。
何故なんだろう? だって自分が美季と出会ったのは、引越をした後なんだから。
薫は不思議な既視感を覚えた。
――何かお返ししないと、かなぁ。
李斗が言い出したこととはいえ、こんなに豪勢なお弁当を毎日作ってくるなんて、やっぱり薫としては申し訳ない気分になる。
「おうおう〜、雪宮君のお弁当は毎日愛がこもってますねぇ〜」
美季が余計なことを言う。
「もちろん! だって薫ちゃんを愛してるもんっ」
李斗も負けじと余計なことを言う。
「バ、バカっ、声大きいよ。しぃーっ」
薫は人差し指を立て、李斗に注意した。
……が、もう遅かった。
教室内に残っていた生徒全員に聞かれてしまったのだ。
「勇者だ!」
ふいに男子生徒が李斗を讃えはじめた。
続いて他の男子も、漢だ、猛者だ、チャレンジャーだ、などと口々に李斗に賞賛の言葉を投げる。
「え? な、なに?」
周囲を男子生徒に囲まれ、李斗が事情が分からず困っている。
一人の男子がポン、と李斗の肩を叩き、
「雪宮、時田はお前に任せた!」
と、白い歯を輝かせながら、満面の笑みで語りかけた。
それで薫はようやく事情が飲み込めた。
怒りで顔がひきつってくる。
だけど、この場で全員にグーをお見舞いしたい気持ちを必死にこらえた。そんなことより早く弁当を食べたかったから。
……このクソどもめ……。あとでボコボコにしてやる。
だが李斗は全く気にとめた様子もなく、しれっと。
「君らに任されるまでもなく、僕は彼女を全身全霊で護ってるつもりだけど?」
「え……。そ、そう。まあ、が、がんばれ」
男子たちは李斗のあまりの清々しい態度にドン引いて、ぞろぞろと教室から出て行った。
――どうやら、アンタの大事な女性が、クラス中の男子に愚弄されていることに気付いていませんね?
このネギ頭めっ。あとでお仕置きしてやる……!