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【6】ヤバい、餌付けされちゃう!

 李斗がやって来て、かれこれ一週間。

 彼は毎日薫のために、せっせとお弁当を作ってくる。

 お前は恋する乙女かっ、と薫も突っ込まざるを得ないのだけど、どうにも餌付けされている感は否めない。

 でも李斗の料理の腕前はプロ級で、毎日楽しみにせずにはいられないわけで。


 昼休みのチャイムが鳴る。

 同時に薫のおなかも鳴った。

 薫は教科書やノートを机の中にいそいそとしまいこみながら、隣に座る李斗に尋ねた。


「李斗、今日のお弁当なに?」

「今日はねぇ、セロリと牛肉のオイスターソース炒めと、生春巻きだよ」

「セロリぃ〜? むうぅ……。でも、おいしいんだよねソレ」

「食べればわかるよ」


 彼は机をガタガタと動かして、薫の机と向かい合わせにくっつけ始めた。


 ……まんまとヤツの思うつぼだぞ、コレは。

 そう思っていても、薫に抗う術はなかった。


 親友の美季がやってきた。彼女もまた、李斗の弁当のおこぼれ目当てだ。

 美季は手慣れた様子で近くの席の机とイスを拝借し、薫の隣にくっつけた。李斗は机の上に重箱を並べ、お皿やお箸を置いたり、お茶を入れたりしている。


 なんだかずっと昔から、こんな風に過ごしていたような気がしてしまう。

 何故なんだろう? だって自分が美季と出会ったのは、引越をした後なんだから。

 薫は不思議な既視感を覚えた。


 ――何かお返ししないと、かなぁ。


 李斗が言い出したこととはいえ、こんなに豪勢なお弁当を毎日作ってくるなんて、やっぱり薫としては申し訳ない気分になる。


「おうおう〜、雪宮君のお弁当は毎日愛がこもってますねぇ〜」

 美季が余計なことを言う。

「もちろん! だって薫ちゃんを愛してるもんっ」

 李斗も負けじと余計なことを言う。

「バ、バカっ、声大きいよ。しぃーっ」

 薫は人差し指を立て、李斗に注意した。

 ……が、もう遅かった。

 教室内に残っていた生徒全員に聞かれてしまったのだ。

「勇者だ!」

 ふいに男子生徒が李斗を讃えはじめた。

 続いて他の男子も、漢だ、猛者だ、チャレンジャーだ、などと口々に李斗に賞賛の言葉を投げる。

「え? な、なに?」

 周囲を男子生徒に囲まれ、李斗が事情が分からず困っている。

 一人の男子がポン、と李斗の肩を叩き、

「雪宮、時田はお前に任せた!」

 と、白い歯を輝かせながら、満面の笑みで語りかけた。

 それで薫はようやく事情が飲み込めた。

 怒りで顔がひきつってくる。

 だけど、この場で全員にグーをお見舞いしたい気持ちを必死にこらえた。そんなことより早く弁当を食べたかったから。


 ……このクソどもめ……。あとでボコボコにしてやる。


 だが李斗は全く気にとめた様子もなく、しれっと。

「君らに任されるまでもなく、僕は彼女を全身全霊で護ってるつもりだけど?」

「え……。そ、そう。まあ、が、がんばれ」

 男子たちは李斗のあまりの清々しい態度にドン引いて、ぞろぞろと教室から出て行った。


 ――どうやら、アンタの大事な女性が、クラス中の男子に愚弄されていることに気付いていませんね?

 このネギ頭めっ。あとでお仕置きしてやる……!

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