翌朝、多島くんからの返事はなかった。
由希乃からメッセージを送ったわけではないから、返しがないのは当然で。
なのに、なぜか理不尽な気持ちにさせられる。
――多島くんは何も悪いことをしていないのに。
もやもやした気持ちのまま学校に行くと、友達が声をかけてきた。
「まーたイラついた顔してんね、由希乃。あの彼氏のこと? 返事くれないとか」
「え? あ、いや……そういうわけじゃ、ないんだけど……メッセージとかそういうの慣れてないっていうか……」
スマホの中の多島くんと、普段の多島くん。
あまりにもギャップがありすぎて、そっちの意味でももやもやしてしまう。
なにか、自分が全く知らない顔があるような、そんな。
「あのさあ、由希乃のこと、あんまちゃんと考えてくれてないんじゃないの?」
「そんなことないよ! 毎日、顔は合わせてるし……いつも私が来るの待っててくれるし……」
「ふうむ……ま、がんばって。結局自分でどーにかするしかないわけだし」
「そ、そうだね、ありがと……」
(自分で、どうにか、って言っても……。
でも、このままじゃ私も多島さんもどうにかなっちゃいそうだし)
放課後。
由希乃が、バイト前にいつものコンビニに寄ると、今日は多島くんがいない。
「どうしたんだろ……こんなの初めてだよ」
自分が困らせたせいなのか、もう愛想つかされたのか、でもだったらあんなラブレター送ってこないだろうし――と、頭の中がゴチャゴチャになってくる。
走って弁当屋まで来ると、
「あ! いた!」
カウンターの中に多島くんが。
慌てて店内に入ると、少し照れくさそうに声をかけてきた。
「やあ、おつかれ。ごめんね、叔父さんがちょっと留守だから店あけられなくて」
「なんだあ……むっちゃ心配して損したあああ」
「俺のこと? ごめんね。叔母さんが具合悪くて、叔父さんが病院に連れて行ってるんだよ」
「そう……」
「ん、どうかした? 麦茶でも飲む?」
「いらない」
「まだ機嫌直らない? プリン食う?」
「それ売り物でしょ」
「俺のおごりで」
結局由希乃はプリンで餌付けされてしまった。
「ねえ……由希乃ちゃん」
「なんですか(もぐもぐ)」
「どうしたら機嫌直してくれる?」
「……そういう、問題じゃ……ないし……」
「じゃあどういう問題? やっぱ具合悪いの?」
「ちがうし」
「あのメッセージでは伝わらなかったのかな……。正直、何が正解か分からないんだ。頼むから、教えてよ」
「わ、わたしにだって、わかんないし! どうしてこんな……わかんないし……」
由希乃は泣きながら飛び出して、向かいの本屋に駆け込んでいった。
「マジかよ……。もう、俺の方が泣きたいよ」
途方に暮れつつ、由希乃が半分残したプリンを急いで掻き込む多島くんだった。