コンビニデートの後、その晩も由希乃は多島くんにメッセージを送った。
「あした、あしたの朝、まで、がまん……がまん…………ううう……」
すぐに返事が来ないと分かっていても、つい何度も見てしまう乙女心。
「はやく寝なさい! もー、そんな液晶ばっか見てると眠れなくなるのよ? あした学校で眠くなってもママ知らないからね!」
「はいはいわかりましたー」
ぶつぶつ言いながら由希乃は、居間から自分の部屋に引っ込んだ。
――翌朝。
「あ、ああ! 来たー!」
目覚めてすぐ、由希乃がスマホを確認すると、メッセージ着信の表示が。
「え……。なにこれ……」
二日かかって届いた返事は、たった一行だけ。
期待が大きかったぶん、由希乃はひどくがっかりした。
学校に着くと、由希乃は早速友人に相談してみた。
「それさー、ありえなくない?」
開口一番、友人は多島くんのことをバッサリ。
「んー……でも、忙しいのは確かだし……」
「私ならムリだなー、その彼氏」
(そっか……普通はムリなのかな……)
夕方、いつもの場所で多島くんが由希乃を待っていると、彼女の様子がおかしいのに気付いた。
「や、由希乃ちゃん……?」
「……こんにちは」
「元気ないな」
「……べつに、大丈夫です。じゃ」
ぺこりと頭を下げて、由希乃はその場から立ち去ってしまった。
「あ、ちょっと……。一体何があったんだ……」
結局その夜は、退勤後の由希乃とは話が出来なかった。
多島くんの顔を見ると、彼女は一言おやすみなさい、とだけ告げて逃げるように去っていったからだ。
「俺、マジで何やらかしたんだ? もうどうしたら……」
コンビニ前で頭を抱える多島くんだった。
◇
帰宅した由希乃は、バスタブの中で激しい自己嫌悪に陥っていた。
「私のバカバカバカ……。多島さん、なにも悪いことしてないはずなのに……」
……ぶくぶくぶく。
「でも……やっぱ返事返してくれないのって……なんか雑に扱われてる気がしちゃって……」
……ぶくぶくぶくぶく。
いくらお湯の中で泡を吹いても、気が晴れることはなかった。
由希乃が風呂から上がると、スマホに通知が……。
「あれ? もしかして……」
急いでトークアプリを開いてみると、多島くんからだった。
「うあ……長文……」
ひと目で数百文字あるのが分かる。
改行が少なくて、漢字が多くて、びっしり……。
「そんな……」
それは、多島くんからの、初めてのラブレターだった。
正直、由希乃には少々重いと感じるほどの。
概要は、
『気に障るようなことをしていたらごめん。
こういうのに慣れておらず、知らずに君を傷つけていたのかもしれない。
出来れば、顔を合わせて話がしたい。
俺は本気で君のことが好きだ。
このまま疎遠になるのは絶対に嫌だ――』
文字で語る多島くんは、普段からは全く想像出来ないほど、固くて、愚直で、大人で、男で。
普段は照れ屋なくせに、この差は一体???
由希乃は多島くんに返事を送った。
『でも、顔を合わせてると言いにくいこともあるし……』
素直に許すのもしゃくだし……と思っていると、すかさず返信が。
「うそ……。まだ起きてたんだ」
由希乃は驚いた。
『そうか……なるべく君の意に添えるよう努力する。お休み』
今度は、思いのほか短い返信だった。
怒らせちゃったかな、と少し心配になった。