「多島さん、SNSなにやってます? ラ〇ン? イ〇スタ?」
「いや俺ケータイ持ってないから……」
「えええ!!!」
「由希乃ちゃん、声おおきい……」
「ご、ごめんなさい……」
商店街の本屋でバイトするJK、由希乃と、そのお向かいの弁当屋でバイトする、年上彼氏の多島くん。
二人は毎晩の逢瀬で利用している、商店街のコンビニ内イートインでイチャコラしていた。
「だって俺、家には光回線のパソコンとIP電話あるし、ポケットWi-Fiとタブレットがあれば外でもネット出来るんでスマホとかあんま必要がないというか……」
「そーいう話じゃなくってえ」
「ん?」
「普段はこうして休憩時間に会ってるだけだから、あんま長く話とか出来ないし……。っていうか、スマホで連絡取る人とかいないの?」
「あはは……」
多島くんは苦笑した。
「い、いなくても、べつに悪いとかそういうんじゃなくて……その……」
(も、もしかしてぼっち? 私、悪いこと聞いちゃったかな……)
「ふむ……。それじゃあ、ぜんぜん使ってないんだけど、アカウント教えるから。それでいい? ただ、返事はリアルタイムとかムリだからね」
「やったー! ありがとう、多島さん!」
「お、おう……」
微妙に不安がよぎる多島くんだった。
◇
帰宅後、由希乃は早速多島くんのアカウントをフォローし、メッセージを送った。
「うーん……まだ仕事だろうし、すぐには返事こないよね……」
スマホを見つめてじっと待つ。
「うーん……まだかな……」
さらにじっと見つめる。
「……ってまだ五分しか経ってないし!」
――さらに一時間後。
「ううううう~~~~~~ん! まだこなーい!」
隣の部屋から、早く寝なさいと母親の声がする。
「仕方ない、あしたの朝みよっと……おやすみ、多島さん……」
◇
そして翌朝。
「う~~~~ん、来てないじゃーん! どうなってるの?! もー!」
「なに騒いでるの! ケータイなんか見てないで、はやくご飯食べなさい!」
「はーい……」
――さらに昼休み。
「……来てない。マジで見てくれてるのかな……もうやだ……」
ひとり教室でうなだれる由希乃だった。
◇
放課後、商店街のコンビニに行くと、多島くんが待ち構えていた。
由希乃の出勤時と退勤時に会うのが二人の日課だったのだが。
「やあ、由希乃ちゃん」
缶コーヒー片手の多島くんが声をかけた。
「ども」
「あれ? どうしたの? どっか具合でも悪い?」
「あの、メッセ、見てくれました?」
「えーっと……あ、ああ、あー……ごめん。見てない。昨日遅くまで勉強してたから……」
「そう……ですか。勉強してたんなら、仕方ないですね」
「ごめん、うち帰ったら確認するから」
「…………一言くらい返事くれてもいいのに」
「ごめん、最近あんまり勉強出来なかったんでつい……ごめん」
「……じゃ、そろそろお店行くんで」
「うん、またあとで。由希乃ちゃん」
終始むすっとしたまま、由希乃は本屋へと去っていった。
「まいったな……。俺、やらかした?」
残ったコーヒーを飲み干して、多島くんは空き缶をゴミ箱に放り込んだ。
◇
仕事を終えた由希乃がコンビニにやってくると、いつもどおり弁当屋のエプロンをつけた多島くんが待っていた。
「お疲れ、由希乃ちゃん」
「ども」
「中はいろっか」
「はい」
多島くんは由希乃を店内のイートインへと促すと、コーヒーメーカーでホットコーヒーを二つ淹れた。いまだ由希乃は機嫌が悪いようだ。
「ほい」
由希乃の前にカップを置くと、多島くんは彼女の隣に腰掛けた。
「ありがとう」
「あのさ……」
「うん」
「返事返せなくてごめん。それで……なんて書いたの? いま返事するよ」
「やだ、口で言うとか……はずかしいじゃん」
「なんだよそれ……。とにかく今日はちゃんと返事出すから。機嫌直してよ」
「……うん」
「俺、ああいうの慣れてないから……その、すぐ忘れるし、メールならまだ見るんだけどさ、SNSは……」
由希乃がどんどんむくれ顔になっていく。
「あ、あの、だけど、その、これからはちゃんと見るから、だから、ごめん」
「うん。せめて、朝、それでもだめならお昼には……返事欲しい」
「わかった」
由希乃はうん、とうなづいた。