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第1話

「どうしよう……クラスの出し物、メイド喫茶になっちゃったよお……」


 一年A組の橘由希乃たちばなゆきのは、真っ青になっていた。

 つい数分前、HRで文化祭の催し物が決まったばかりだった。


「せっっっっかく、多島さんを呼んで、ラブラブ文化祭を堪能しようと思ってたのにぃ!! メ、メイド服姿なんて見せられないよおっ!!」


 彼女の甘い目論見――最近つき合い始めたばかりの年上彼氏、バイト先の本屋のお向かいのお弁当屋でバイトしてる、多島くんとの文化祭デート計画は、木っ端微塵になってしまった。


「ヤバい。ものすごくヤバい。彼から文化祭の存在を隠しとおさなければ……」


 由希乃は一目散に自宅へ帰った。


     ◇


 その頃、由希乃のバイト先、本屋の向かいにあるお弁当屋さんでは――



「今年のx高の文化祭、そろそろ屋台のネタ決まってるんじゃないか? 仕入れのリスト作らないといけないだろ」


 弁当屋の店主が、甥の多島くんこと、由希乃の彼氏・多島勝也たじまかつやに訊ねた。

 x高の飲食系資材の仕入れは、ほとんどこの店の仲介で行われているのだ。


「あー、生徒会からFAX来てますね。ふむふむ……。今年は焼きそば少ないな。去年盛大に鉄板焦がして怒られた組がありましたからねえ。なるべく失敗しない方向で選んでるようです」


「若いんだからチャレンジすりゃいいのに」


「食べ物を粗末にされるよりいいでしょ。そういうのは別の機会にチャレンジすればいいんです」


「んだよ若いのにジジ臭いこと言うなよ、勝也」

「叔父さんがガキっぽいだけですー」

「そういや、由希乃ちゃんの高校もここだったな。行くのか?」

「いや、聞いてないっすね。まあ当人が来て欲しいなら誘うでしょ」

「んだよ誘われろよ」


「ムチャ言わないで下さい。文化祭の忙しさも知らないで。いたずらに知人を呼びつけても、相手が出来ない部署だったらどうすんです 。無責任でしょ?」


「……なんだ、経験ある言い方だな」


「まあね。別に俺は毎日彼女の顔見てるから、わざわざ学校まで行かなくてもいーですし?」


「おー言ってくれるな」

「「ははは」」


 とはいえ、ちょっとは気になる多島くんだった。


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