吉岡先輩は、ちょっと不思議な人だった。
携帯は「電磁波が体に悪いから持たない」っていうし、デートはいつも近所の公園とかショッピングセンターの屋上だった。
中学生みたいな健全デートだけど、私はそれが無性に楽しかった。
「唯ちゃん、もう遅いから家まで送るね」
まだ夕方なのに、先輩はそう言って今日も家まで送ってくれる。
お開きの時間まで中学生のようだ。紳士なのはいいんだけど、お付き合いを始めて一ヶ月も経つのに、先輩は未だキスもしてくれない。
……私、そんなに魅力ないのかな。
「あの……、お茶でも飲んでいきませんか?」
家に着いた私は、思い切って言ってみた。
先輩は「簡単に男を部屋に通すもんじゃない」なんて親みたいなことを言うけれど、やっぱり不安なんだもん。