有能を自負するマスクは、寧ろ元の高雅よりも早く処理をしていったが、静間と坂崎が帰っても、まだ報告書の作成は終わらなかった。時間がどんどん過ぎていく。時々溜息をつきながら、マスクはサンドイッチを囓った。一つは残して家で食べようかと考える。
すると会議を終えた様子で梓藤が入ってきた。
「調子はどうだ?」
梓藤が自分の真後ろで立ち止まったのが分かる。パソコンを覗きこもうとしているのだろうと、マスクは考えた。
「あと十分の一程度なので、一応今夜中には終わるかなって」
高雅らしく、マスクは苦笑するような声を放つ。そして画面を見ながら、マウスで現在作成したファイルの一覧を表示した。
「こんな感じです。見て下さい!」
今度は努めて明るい声を発し、マスクが振り返ろうとした時のことだった。
ひんやりとした感触を、後頭部に感じた。
ピーピーピーと電子音が鳴り響く。
『現在の対象の脳波は、マスクです。繰り返します、マスクです。すぐに排除すべきです』
気づかれたことに、マスクは狼狽えた。
「やっぱりな」
梓藤の呆れたような声が続く。
「ど、どうして……」
「イチゴ味のチョコすら食えない高雅が、買うわけがないだろ、イチゴ味のサンドイッチなんて」
「!」
「ああ、マスクはイチゴジャムがお好きだったな」
呆れた声が、ずっと続いている。マスクは反論を持たなかった。こんな些細な事で、露見するとは思ってもみなかった。
「全く、高等知能が聞いて呆れる」
「なっ、俺は――」
バン、と。発砲音がした。梓藤が反論を聞かずに、排除銃を放ったのである。
高雅だった体に接着していたマスクは、頭部を破壊されたため、沈黙した。それは即ち、死である。頽れた高雅の体を、いいや既にマスクだった遺体を、梓藤は抱き留めると、血飛沫を全身に浴びながら、ゆっくりと床に寝かせた。
「死ぬなって言ったのにな」
梓藤の声が、淡々と響いて、本部の宙へと静かに溶けていった。