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第6話 ホットサンドと助手席の嘘

 被害が確認されている、マスクがいる可能性が非常に高いその学校は、高岳学園高等部だった。中高一貫制かつ全寮制の、今となっては珍しい男子校で、高等部からは必ず寮に入らなければならないそうだ。大学で学ぶ事柄まで範囲としている進学校で、名前だけは梓藤も耳にした事があった。全国的にも有名で、偏差値の高い大学進学率も目を瞠るものがあるようだ。

 運転席に乗り込んだ梓藤は、ハンドルに手を添えながら、助手席に乗り込んだ斑目を一瞥する。斑目がシートベルトを締め、膝の上にタブレット端末を置いたのを眺めてから、前を向いて、梓藤は車を発進させた。

 スマートフォンを繋いだナビの案内の元、高速道路を使い順調に進んでいく。

 そして少し休憩にとパーキングエリアに入ってから、お互いに食事を購入して車に戻った。梓藤はホットサンドを片手に、斑目を見る。

「廣瀬」

「なに?」

「よく覚えていたな」

 高雅と斑目のやりとりを思い出しながら、梓藤はホットサンドを口に含む。そして梓藤が咀嚼してると、幕の内弁当を食べていた斑目が、四角く黄色い玉子を割り箸で口に運んでいた手を止め、吐息に笑みを載せた。

「僕が覚えてるわけがないじゃないか。タブレットで経歴を確認しただけだよ」

 なんでもないこと、当然のことであるように、斑目は笑っている。

 いつも通りの穏やかな微笑が、崩れることはない。

「……お前ってそういうところ、あるよな。要領がいいというか、腹黒いというか」

 呆れた思いで、梓藤はホットサンドを食べていく。シャキシャキのレタスと、ベーコンやソーセージの味が、たまらなく美味しく思えた。空腹は最高のスパイスと言うが、それは間違いないと実感する。

「人間関係は円滑に進めた方がいいからね。冬親は、本当は覚えてたんじゃないの?」

「当たり前だろう。マスクは人に接着したら、元の人間の顔になるんだぞ? 自分が撃ち殺した相手の顔を忘れられるほど、俺は図太くないんだ」

 追憶に耽るような眼差しで、正面を見ながら梓藤が答える。

 すると優しい声で、斑目が声を放つ。

「優しいよね、冬親は。それなら高雅くんにも、そう言ってあげればよかったのに。僕なんてすぐ忘れちゃうから」

「仕事中に、無駄なお喋りをする気はないんだ」

「僕以外には、本当に冷たく見える態度をするよね。高雅くんだって配属されたばかりで緊張してるだろうし、ご飯でもご馳走してあげたら?」

 そんなやりとりをしながら食事を終え、再び車を走らせる。

 その後三十分ほどで、目的の学園の校舎が見える場所まで進んだ。

 学園の駐車場を目指してそのまま走り、梓藤は車を無事に停車させた。隣には、坂崎達が乗る車が見える。彼らの方が先に出発していたから到着が早かったようだ。あちらの車内には、既に二人の姿がない。

「さて、行くか」

「うん、そうだね」

 こうして一つの事件の捜査が、幕を開けた。

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