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第12話 親睦

「ごちそうさま」

 食後、手を合わせた涼鹿を見て、綺麗な食べ方だったなと漠然と思った。どことなく品がある。

「ああ。皿を洗ってくる」

「手伝うか?」

「パスタをゆでた事がなくとも、皿は洗った事があるのか?」

「無い」

「結構だ。この後の行き先でも考えておいてくれ」

「この後もここにいて良いのか?」

「ん? 帰るか?」

「あ、いや……――任せておけ。検討しておいてやる!」

 涼鹿が笑ったので、俺も笑顔で頷き返した。それからキッチンに皿を運び、流してから食器洗い機に入れていく。

 俺は急いで片付けてから、リビングに戻った。すると涼鹿が口角を持ち上げた。

「【お知らせ】に新しい情報が来てるぞ」

「なんて?」

 聞きつつも、俺は自分のスマホを手に取った。見る方が早い。

「――!! レベルキャップの開放!」

「おう。Lv.355がキャップになるらしい」

「アニバの直前だな」

「楽しみだな。アニバにもイベント新ボスが実装されるだろうしな」

 レベルキャップの開放は、来週のメンテナンスの後のようだった。夏休み前の最後の週でもある。何かと風紀委員会としては今学期最後といえる打ち合わせの会議などもあるが、寮に帰ってくればゲームは可能だ。

「来週は気合いを入れてレベルを上げないとな」

 俺が思わず両頬を持ち上げると、楽しそうな顔で涼鹿も頷いた。

「そうだな。林間学校の最終調整があるから、生徒会は残業予定だ――が、俺様にかかればどうという事は無い」

「こちらは金曜日にOKを貰っているから、だいぶ気が楽だ」

「相変わらず仕事が早いな」

「ゲームをする時間を作るためならば気合いも入る」

「そ、そうか……俺様は思ったよりも、いや思っていた通りではあるんだが、珠碕が思いのほかガチ勢というかゲームに生きていて驚いていないと言えば嘘だ」

 涼鹿が僅かに引きつった顔で笑った。なんだか気恥ずかしくなってしまう。

「珠碕にゲームをするイメージは全く無かった」

「お前の中で、俺はどんなイメージだったんだ?」

「完全無欠だが私生活が一切不明」

「そうか。基本的に風紀の仕事とゲームしかしていない。それは毎晩ログインして隣に居たお前が一番よく分かっていると思うが」

「そ、そうだな。お前がアズだとすれば――俺は、誰よりもお前と親しい自信がある」

 それを聞いて、俺は嬉しくなった。涼鹿も俺と親しいと思っていてくれたらしい。という事は、結局詳細は聞く事が出来ていないが、涼鹿の片思いの距離があるという相手より、俺の方が仲が良いかもしれない。俺にも多少は脈があるんじゃ無いか? 涼鹿の隣は渡さない。

 そう考えて、俺は改めて思案した。涼鹿のライバル兼好きな相手というのは誰なのだろうか。成績面で、だと、俺が一位の他は、確かに三位の副会長である、遠賀遙人オンガハルトは、中等部時代は、涼鹿を抜いて二位になる場合もあった。だが、副会長は会長の女房役だ。距離があるようには見えないし、そんな情報も聞いた事は無い。

 しかし同じクラスで成績を争っていると相手といえば、俺を除いたら遠賀副会長くらいしか該当者はいない。もっと詳しくスズカの話を聞いておくべきだった。しかし今後、涼鹿がスズカとしてのチャット時でも話してくれるかと考えると怪しい。相談しにくいから先程言葉を止めたのだろうし。ならば、そのライバルとは俺にとっては恋敵となるのだし、自分から率先して聞いてみるべきだろうか?

 俺は恋愛経験は無いに等しいが、自分から頑張る方だ。努力、嫌いじゃ無い。

「なぁ、涼鹿」

「なんだ? この後はまずは――」

「ん? ああ。先に予定を話してくれ」

「先に? 何か言いたい事があるなら先に言え。俺様が聞いてやる」

「結局お前の好きな相手というのは、誰だったのかと思ってな」

「っ」

「必死で考えたが、遠賀しか思いつかなかった。副会長との間に距離があるというのは大変だな」

「違う! 生徒会に不和は特にない!」

「距離って、不和な相手なのか?」

 俺はスマホを見たままで尋ねた。とりあえず、【シルフィ村】にログインする。

「そうじゃねぇけどな……なんで? どこからどうして遙人になったんだよ?」

「他にお前のライバルが思い浮かばなかった」

「……まぁ、ライバルだと思われていない相手だという事だな……」

 すると涼鹿の声が沈んだ。なんだか俺は傷を抉った気分になってしまった。しかし分からないのだから仕方が無い。

「まぁ良い。別に競って打ち負かしたいというわけでも無いしな。単純に対等でいたいだけだからな……」

「そうか。それで? 来週は昼食には誘えそうなのか?」

 さりげなく俺は尋ねた。生徒会長が一般生徒と昼食をとれば、絶対的に噂になる。悪くすれば親衛隊が制裁をするだろう。風紀委員会としては見回りを強化しなければならない、と思う反面、これで相手が誰なのか俺は確定できそうだ。

「昼食……――そうだ、珠碕。ら、来週! 一緒に学食に行かないか?」

「学食? 俺は頻繁に舞戸と昼は学食に行くぞ」

「その……二人で」

「何のために? ああ、なるほど、そういう事か」

 俺はここに来て、やっとピンと来た。

「そういう事だ。もう分かっただろう……?」

「レベル上げをしたいという事だな?」

「違う! いや、違わないが、ち、違……っく」

「違うのか? じゃあどうして?」

「え」

「?」

「っと、テストの話とかをしようかとな。俺様もたまにはな」

「テスト? そんなもの【タイムクロスクロノス】の重要性の前にはどうでもよくないか?」

 思わず本心を告げると、涼鹿が目を据わらせた。

「……親睦を深めるためにはテストの話でもと言ったのは何処の誰だ? あ?」

「それはお前とお前の好きな相手の場合だ。俺と涼鹿の親睦はどう考えてもゲームの方が深まるだろう? 俺だって五年もの付き合いのお前とリアルで会えた以上、今後はもっと親しくなりたいが、テストに興味は無い」

 きっぱりと俺は伝えた。

 実際に、俺は涼鹿に対して好意を抱いていると言って良いし、頑張りたいが、テストには全く興味がそそられない。

「分かった。じゃあ、レベル上げに付き合ってやる」

「ソロでも上げておくから、涼鹿こそ後れを取るなよ」

「誰に言ってんだよ。俺はお前の相棒だろ?」

「そうだな」

 相棒という言葉が嬉しくて、俺は笑顔で頷いた。すると目を丸くしてから、涼鹿が顔を背けて頬に朱を指した。照れているみたいだ。可愛い所が有る奴だ。

「メンテ後という事で、水曜日の昼はどうだ?」

 俺が提案すると、涼鹿が視線を逸らしたままで頷いた。

 他にも理由はある。昼休みに、月曜日は風紀委員会の定例会議、火曜日は林間学校前最後の桜瑛学園高等部二年生のクラス委員と生徒会と風紀委員の合同会議が入っているからだ。

「分かった。楽しみにしていてやる」

「ああ。それで、この後はどこに行く?」

「【茶葉の色丘】でレアモブを狩るのはどうだ?」

「良いな」

 レアモブというのは、フィールドにランダム出現するボスの名前だ。待ち構えていて、周囲の雑魚を殲滅していると出てくる。俺達は、気球でそのマップに移動する事に決めた。

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