俺は【星の
状態異常は、回復役やバフ役がいれば解除して貰える事も多いが、俺の場合は固定で組んでいる相手が居ないし、ほとんどスズカと二人で遊んでいるため、必須だ。
操作して【叡銃士】の範囲火力スキルを放ちながら、俺は【ハネロバ】を倒していく。すぐに入手アイテムが入る【鞄】がいっぱいになったので、【庭】にアクセスして、【倉庫】に素材をしまった。その繰り返しで、すぐに日が暮れた。昼食は食べるのを忘れた。
本日は、スズカの姿は無い。なんだかんだで、奴はテスト前最後の勉強をしているのだろう。基本的に、努力家だというのは、話していると分かる。発言は俺様臭がするようにも見えるのだが、よく聞いてみると、かなり頑張っているのが分かる。
私生活のネタからそう思うわけでは無い。
ゲームで頑張るというのもおかしいかもしれないが、欲しい装備の為に、必死に連戦をしたり金策をしたりする姿勢がすごい。昨日スズカは切磋琢磨と話していたが、俺にもそれが少し分かる。俺だって、スズカと一緒に楽しく遊べるように、常に最前線にいたいと思っているからだ。
負けたくない、というのとは、少し違う。
――並び立ちたい。
――対等でいたい。
こういう感覚だ。
同世代の相手が居なかったというのもあるが、俺にはこういう感覚はこれまで無かった。【タイムクロスクロノス】は、ある意味で俺にそれを教えてくれた、大切なゲームでもある。
「よし、そろそろ良いか」
素材集めに満足した俺は、午後六時過ぎに、一度ログアウトした。
そしてこの日は、八宝菜を作った。我ながらよく出来たと思う。
「それにしても思ったより素材が集まったな……」
理由は分かっている。スズカがいなかったからだ。スズカがいたら、一緒に遊んだだろうから、素材をここまで集中しては集めなかったと思う。逆にスズカに手伝って貰ってもっと短時間で終えるという場合もあったかもしれないが。
「……」
あいつ、一位、とれると良いな。
俺は一人内心で祈ってみた。
「明日も奴なら勉強してるだろうしな。俺は何をするかな」
食後、皿を洗いながら呟いた。考えてみると、スズカとばかり遊んでいて、他のフレを交える時も必ずスズカはいるため、俺は単独だとかなり孤独だ。それが寂しいわけではない。ゲームはソロでも楽しい。
ただ、俺の中で、【タイムクロスクロノス】とスズカがイコールになりつつあるのが怖い。
「どんな奴なんだろうな、スズカ」
最近では、音声通話などをしながらゲームをするのが流行しているようだ。
オフ会をする場合もあるようだ。
ただどちらも、閉塞的な寮生活では、厳しい。通話は、俺は一人部屋だから出来なくは無いが、率先してしようという気持ちには今のところなっていない。
だが最近、一度でいいから、直接話してみたりしたいと思う事がある。
ゲームの中でくだらない日常の学園生活の話をしたりしていると、とても気が楽になるからだ。もしかしたら、良い友達になれるんじゃ無いかと、リアルでも友達になれるのでは無いのかと、期待してしまう。
「夏休みになったら、切り出してみるか」
実家に居る時にでも――と、考えて俺は苦笑した。
昨年もその前の年も、夏になる度に同じ事を考えたからだ。
桜瑛学園は、冬休みと春休みが少し短めで、かつその二つは風紀委員会が忙しいため、どうしてもチャンスは夏休みとなる。果たして今年は、切り出す事が出来るだろうか?
「って、俺はどれだけスズカの事を考えてるんだよ。好きすぎるだろ……」
顔も声も知らない、知っているのは女の子のアバターだけ(なお中身はタメの男)。
それでも、多分俺にとってスズカは特別だ。
そう考えながら皿洗いを追えて、俺は再びログインした。
そしてこの日は、更に追加で素材を集めてから、シャワーを浴びて就寝した。
翌日曜日は、ボスのドロップ品を集める事にした。やはりスズカの姿は無い。だが、ソロボスも俺は得意だ。本日は、【爪術士】を稼働させている。
この【タイムクロスクロノス】というゲームには、ドラゴン型のボスが多い。今回は銀色のドラゴンを倒しながら、俺は第二ドロップ品の回収に励んだ。
するとすぐに日が暮れ、本日も昼食を忘れる形で、俺は夜を迎えた。
同時に週末の終わりにも等しい。
「明日からテストか……」
俺は溜息をついてログアウトした。スズカと二日も顔を合わせないのは、久しぶりだ。大抵それはテスト前だ。俺は勉強部屋に入り、チラリと卓上の参考書を見た。俺が一番苦手な科目は、国語関連だ。
「一応見ておくか。スズカも頑張っているんだしな」
参考書を手に取り、俺はパラパラと捲った。授業には出ていないが、この参考書自体を入学前に丸暗記しているので、困った経験は今のところ一度も無い。それに俺は、勉強の順位に、実を言えばこだわりも無い。
ただ(ゲーム内だが)知っている相手が頑張っているため、自分も少しは気合いを出そうと思っただけだ。
「明日からの一週間が終われば、またスズカと遊べるんだしな」
俺は一人頷き、参考書を閉じた。