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第4話 学食での恋バナ

「舞戸、そうだったのか? 前はお前こそ『虫除けで楽』と話して……そ、そうか。いつの間に? いつから付き合ってるんだ?」

「まだ付き合ってないよ。最近好きになって、僕の片思いだからね」

「そうか。ちなみに、誰か聞いても良いのか? 聞かない方が良いか?」

 一応俺は風紀委員長なので、全校生徒を記憶している。

 俺の言葉に、舞戸が片手で頬を撫でた。

「聞いて欲しい。他に相談できる人もいないし、委員長には話そうと思ってたし」

 そう言われて悪い気はしない。

 ゲームと仕事ばかりだが、学園内に限って言うのであれば、俺の一番の友人といえるのは、確実に舞戸だ。ほぼ常に一緒に行動しているし(風紀の仕事だが)、舞戸は気心が知れている相手だと、少なくとも俺は思っている。

「青波なんだよね」

「――ほう」

 この学園において、青波という苗字の持ち主は一名だ。青波亘あおなみわたる、生徒会の会計だ。下半身ユルユルのチャラ男会計として噂になっており、親衛隊を日替わりでセフレにしているという悪評が立っているが、それはあくまで噂かつネタだと風紀委員会では把握済みだ。前任者とその前任者がそういうタイプだった結果、青波も勘違いされているだけだ。確かに青波も雰囲気はユルいが、風紀委員会に取り締まられるような行為はしない。少なくとも俺が委員長になってからは、間違いなく。

「きっかけは?」

「春休みに、実家が花見を開いてさ」

「ああ」

 舞戸の家は、茶道の家元だったと思う。頷いて聞きながら、俺は続きを待った。

「そこに、取引先の関係で、青波が来たんだよね」

 世間とは狭い……わけではない。

 国内屈指の良家の子息の集まりなので、この学園内部で構築される人脈まであるほどだ。外資が主体かつ父方はめったに人前に顔を出さない旧家の俺には、あまり馴染みは無いが。それに父方も、旧華族関連の親戚はあまり武道を嗜まないため、父は変わった目で見られているしな。我が家は、ちょっと自由過ぎるのかもしれない。

「それがきっかけかな。それから毎日連絡してて、気付いたら気になってて」

「上手くいきそうなのか?」

「分からないけど、夏休みに遊ぶ約束をしてるから、そこで勇気を出してみるよ」

「そうか。応援する」

 そんなやりとりをしていると、昼食が運ばれてきた。輝くような海老天を一瞥してから、俺は手を合わせる。舞戸も手を合わせた。『いただきます』と、お互い口にする。

「委員長は、僕を虫除けにするくらいだから、好きな相手はいないんだ?」

「いないな」

「気になる相手は?」

「自分が恋をしたからと言って、他にも強制するな」

「そういうつもりじゃないけどさ……委員長、暇さえ有ればスマホ見てるし、恋人かなって」

「残念ながら、誰かと連絡を取っているわけじゃ――」

 と、言いかけて俺はふと思った。

 基本的に(めったに無いとはいえ)空き時間にはゲームにログインを試みていて、ログイン出来た場合は、それが長時間だと高確率で、俺はフレンドのスズカとチャットをしている。ログイン時間が被っていない場合も、ポスト機能を用いて手紙を送ったりして遊んでいる。考えてみると、俺はスズカと連絡を頻繁に取っていると言える。

「――ないわけではないが、恋人ではないな」

「ふぅん?」

「それで、青波のどこが特に好きなんだ?」

「優しいんだよね。気遣いがすごいっていうか」

「脈はあるのか?」

「……みんなに、ああだと思う。だから青波は、学園一のチャラ男なんて呼ばれるほどモテるんだよ」

 舞戸が溜息をついた。確かに青波はモテる。それは間違いない。

 この学園には、抱きたい・抱かれたいランキングなるものが存在するのだが、青波は抱かれたいランキング堂々の二位だ。なお一位は、生徒会長だ。ちなみに風紀委員会メンバーはランキングから除外なので、俺や舞戸の順位などはさっぱりだが、生徒会役員は例外なくモテる。何せランキングと家柄などを加味して生徒会役員は選ばれるのだから。

 俺は恋はしていないが、実を言えばモテないわけではない。

 なおこれは、自画自賛ではない。

 よく告白されるから、夢でも見ていない限り間違いないだろう。

 ただ多くの場合、『舞戸副委員長とお付き合いされているのは知っていますが』と枕詞につけられる。だから本当に勘違いされているのだろうと思う。

「しかしお前らが付き合ったら、学園中が騒然とするだろうな」

「……青波、みんなに優しいからね。フラれる確率の方が高いとは思うんだよね」

「珍しくネガティブだな」

「今はまだね。これからが勝負だと僕は思ってる所」

「頑張れ」

 舞戸は根気強いし、粘り強い所があると思う。見た目は線の細い美人であるが、ある意味男前だと俺は感じている。

「委員長も誰か好きな人が出来たら教えてね。僕も応援するから」

「そうか」

 そう言われて悪い気はしないが、俺は人に恋愛相談をした経験はゼロだ。恋愛相談をする自分が上手く想像できない。ただ、力を貸してくれるというのは嬉しいことだ。いつか悩む日が来たら、相談してみよう。

 そのような話をしながら食べた天丼は、非常に美味だった。

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