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第3話 俺の日常

 それにしても、毎日が忙しい。

 ゲームの一時とシャワー時しか、俺に安らぎは無い。朝、一人寮の部屋で、日課の武術の稽古に励みながら、俺は溜息をついた。今日もまた、日常が始まる。

 とはいえ、テスト前の委員会と部活が休みの(なお生徒会と風紀委員会と親衛隊活動はそれらから除外されている)期間なので、見回り自体は少し楽だ。

 だが俺の場合は、見回り結果の報告を聞いたり、書類仕事がメインなので、結局多忙さは変わらない。それに林間学校は学年単位で出かけるため、二年の行き先の見回り計画案を早く終わらせて、顧問に確認を取らなければならない。他の学年の案の最終チェックもある。高等部と中等部の三年生は修学旅行だったので、無いが。

 稽古後、朝のシャワーを浴びてから、俺は身支度を整えて朝食にした。

 パンとサラダ、どちらも購入したものだ。時間があれば作りたいが、作る時間があるならば俺はゲームにログインしたい――という欲望をそのままに、食べ終えてから出かける前の数分間、俺はログインした。毎日ログインボーナスも貰える。

 他のキャラの最終ログイン時間も閲覧可能なのだが、見ればつい先程、スズカがログインしていたらしいというのが分かった。

 ちなみに現在俺は、風紀委員の活動が忙しすぎて、ギルド戦などに出られないという事もあり、特定のギルドには所属せず、自分のソロギルドに三キャラクターを入れて、一人でまったりと活動している。

 一方のスズカは、大手のギルドに入っているようだ。何度か加入を誘われたが、俺は上述の理由で断った。

「さて、行くか」

 首元のネクタイを締め直し、俺はログアウトしてスマホをしまった。

 そうして朝の七時には、風紀委員会室に入った。

「おはよう、委員長」

 すると副委員長の舞戸侑李マイトユウリが既に来ていた。色素の薄い茶色い髪をしている舞戸は、俺と同じ学年・同じクラスで、俺とセットでずっと副委員長をしている。頼りになる片腕だ。

「おはよう」

「来週からテストだね」

「そうだな」

 頷きながら、俺は風紀委員長の執務机に自分の鞄を置いた。昨夜スズカともそういう話をした事を思い出す。

「委員長、勉強してる?」

「普通に過ごしている」

「本当に? なんでそれで、一位の成績をキープ出来るの? 僕は泣きたいよ」

 舞戸は、副委員長の席で、参考書を広げている。そうは言うが、舞戸も常に学年で十位以内の成績を維持しているのだから、俺は十分だと思う。ちなみに俺はスマホを取り出した。決してゲームのためではない。風紀委員会の連絡用のトークアプリの確認だ。

 ちなみに授業免除の時間は見回りや仕事をこなしていれば、他には勉強していようがゲームをしていようが自由ではある。だが、俺は中々ゲームをする時間がとれないでいる。それくらい風紀委員は多忙だ。

 各地の見回り状況に、『異常なし』という発信があったのを確認してから、俺は机の上のノートパソコンを起動した。昨年と行き先は同じなので、昔から蓄積されてきた強姦被害多発地域のリストに目を通す仕事から始まる。

 確かに学内や学園活動中の強姦は犯罪だ。

 しかしながら、恋愛まで取り締まるものでは無いので、常識的に、相思相愛になってからことに及べば良いのだろうと俺は思っている。

 俺は最終的に現在の身長は176cmだが、二次性徴が早く――初体験はこの国でいう小六の頃に、年上の美女と済ませたっきりで、それが最初で今のところ最後の性体験だが……一応あの時も、俺側には好意はきちんとあった。残念ながら相手には無かったようで、俺はその一夜しか経験が無いという寂しい思い出だが。

 その後日本に戻った後は、すぐにこの学園に来たので、女性との出会いは消滅した。長期の休みに実家に帰った時に、招かれて断り切れなかったパーティなどでたまぁに出会う程度だが、普段会えない事もあり続くわけでも無いし、俺はすぐに人を好きになったりは中々しない。一目惚れをした事がなく、じわじわと好きになる方だ。

 別段女性が相手で無ければダメだと思っているわけでも無い。この学園にいると、特にその点の感覚は麻痺すると思うし、親戚には様々な性的な指向の持ち主もいる。だが俺は風紀委員の活動とゲームに忙しすぎて、恋をする余裕が無いのだろう。

 性欲が無いわけではない。

 興味が無いわけでもない。

 ただ、ゲームにより興味があるというのは大きいし、悲しいながら右手を恋人としても色々と事足りている。そんな俺にも、いつか新しい恋は訪れるのだろうか? 何度か考えた事があるが、答えが出たためしがない。

 そんな事を考えながら、俺は昼休みになるまでの間、リストを確認し、見回り案の作成に力を入れた。なんとか草案が完成したのが、丁度昼休みに入った時の事だった。

「委員長、お昼どうする?」

「ちょうど一段落した」

「もう購買に行くには遅いよね。学食に行く?」

「そうだな」

 俺が頷くと、舞戸が立ち上がった。舞戸はずっと参考書と向き合っていたらしい。

 幸い本日の午前中は、特になんの事件も起こらず平和で何よりだった。

「行くか」

 俺はパソコンの電源を落として立ち上がった。舞戸が先に扉に向かっている。

 こうして俺達は、学食へと向かう事にした。

 桜瑛学園の学食は、二階席が、風紀委員と生徒会の専用席となっている。入り口前に立ちながら、俺と舞戸はチラリと視線を交わした。この学園は、学食に俺達が二人で入ると奇声が上がる。

 静かに扉が開いた。すると、視線が俺達に集中する。

「きゃー!」

「風紀委員のお二人!」

「委員長かっこいい!」

「副委員長美人!」

「眼福です!」

「お二人は付き合ってるのかなぁ」

「ご一緒したいけど、特権が無い!」

 ざわざわと高い声が特にチワワ達から上がる。チワワというのは、容姿が可愛い系の生徒の事だ。最早何を話しているのか聞き取る事が不可能なほどのざわめきがすごい。

 舞戸は微笑している。俺は特に笑うでもなく、真っ直ぐに二階席を目指した。舞戸もすぐについてきた。二階席は静かだ。生徒会のメンバーは来る日と来ない日があるし、風紀委員も見回り担当者は朝の内に昼食を確保して、風紀委員会室で食べる事の方が多い。よって、この二階席は、多くの場合、俺と舞戸しか使わない。あくまでも、多くの場合であり、時には生徒会のメンバー達や、他の風紀委員も来るが。

「委員長、何食べる?」

「天丼」

「僕は煮魚定食にしようかな」

 そんなやりとりをし、舞戸が控えていた給仕の人に注文をしてくれた。

「ねぇ、委員長」

「ん?」

「どうして学園中の多くがさ、僕と委員長が付き合ってるって誤解してるんだろうね?」

「暇なんだろう」

 俺はあまり興味が無いため、適当にメニューを眺めた。

 舞戸が苦笑した気配がする。

「委員長は僕と誤解されていても平気なんだ?」

「特に問題は無いな」

「寧ろ虫除けになっていいとか考えてる?」

「まぁな」

「――僕はね、好きな相手がいるから、はっきり言うと迷惑極まりないんだけど」

 その時、不意に舞戸が言った。さすがに俺も驚いて、顔を上げた。

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