中高一貫制の男子校で、閉塞的な環境で教職員も男性しかいないせいなのか、同性愛者が非常に多い。良家の子息ばかりが通うお金持ち高校であり、娯楽は少ない。
そんな桜瑛学園に、俺は中等部一年で入学した。父が卒業生で、その勧めだ。それまでは、ドイツ人とのハーフである母と共に、俺は海外で暮らしていた。我が家は祖父がドイツ人で、外資系の会社の社長をしている。父方は旧華族で、父自体は古武術の師範として日々を過ごしている。
比較的自由な家であり、俺も日本で言う小学生までの時代は、飛び級して大学に行くなどしつつ勉強と研究をしていれば、何をしても許される生活を送ってきた。ただし父の教えで武術の稽古は欠かさなかった。
が――こんな生活であり、周囲には同年代もいなかった為、心配した家族が、同年代の友人を作り社会性を養うようにと、中等部一年の時に、日本に連れてきて、俺を桜瑛学園に放り込んだという次第である。
「
声をかけられて、思考が途切れた。それまで風紀委員会室の執務机の前に座っていた俺は、指を組んだまま顔を上げる。
珠碕というのは、父方の苗字だ。俺の日本名である。
現在高等部二年生、俺は風紀委員長という存在になった。
「旧東館二階で未遂事件です!」
「被害者の保護は?」
「完了して、保健室に連れて行きました」
「加害者は拘束したのか?」
「はい!」
風紀委員からの報告を聞きながら、俺は辟易した気持ちになった。
いくら同性愛が盛んだとは言っても、さすがに犯罪行為は許容できない。
――……この
風紀委員会は中高共通なのだが、俺は中三時から、本来高二が務める委員長をずっと続けてきた。そうして漸く今年、適正といえる高二になった。来年は受験がある(俺は海外で卒業しているので進学は迷っているが、多くの生徒の場合)ため、後任を指名可能だ。
来年の二月まで頑張れば、晴れて自由の身だ。
別に風紀委員長をやりたくないわけではないが、多忙すぎて疲れるというのが本音だ。風紀委員の特権に、授業免除が無かったならば、俺は転校を希望していたかもしれない。
とはいえ、空き時間には書類整理や事情聴取、そうでなければ見回りがある。
よって本当の自由時間は、(学生なのに)激務を終えて、寮に帰宅してからとなる。
この日、俺が風紀委員会の仕事を終えたのは、午後七時を回ってからの事だった。
寮に戻ると、基本的に俺は、まず最初にシャワーを浴びる。
すると疲労が溶け出していく気がした。温水で俺の黒髪が濡れていく。この一時は特別だ。食事は、ルームサービスも頼めるのだが、俺が帰宅する時間帯には大抵終了しているので、学内にある高級スーパーから食材を購入して、俺は簡単に自炊をしている。
今夜はパスタにした。そう凝った品を作るわけでは無い。ソースもレトルトだ。
それを食べ終えてから、俺は寝る準備を整えて――リビングのソファに陣取る。
テーブルの上には、丁度充電が終わったスマホがある。
風紀委員長の特権で、俺は一人部屋だ。現在、午後十時手前。
ここから就寝までが、俺にとっての自由時間となる。
唯一といって良い、俺の趣味の時間の始まりだ。
***
▲ログイン
▲ショップ
▲お知らせ
▲掲示板
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手に取ってスマホのアプリを起動すると、ムービーが終わってからログイン画面が表示された。そう、俺の趣味は、ゲームだ。中でもMMORPGと呼ばれるゲームが好きだ。
現在ハマっているのは、【Time×Chronus】というゲームである。
読み方は、【タイムクロスクロノス】だ。【TCC】とも略される。
多人数参加型のRPGでメインクエストを進めたりレベル上げをしながらキャラクターを育成して遊ぶゲームだ。他にサブクエストがあったり、ギルド機能やPvP機能などもある。
趣味はゲームとはいうが、実際には俺は、他のゲームはした事が無い。
人生初ゲームかつ多分他には機会が無ければやる事も無いだろう。
俺と【タイムクロスクロノス】の出会いは、五年前だ。五年前、日本にやってきた俺は、たまたまテレビを眺めていて、そこでたまたまこのゲームのCMを目にしたのである。今年で【タイムクロスクロノス】も五周年、俺の日本での思い出の半分は、桜瑛学園、残りの半分はこのゲームと言っても過言では無い。
一人につき三キャラクターまで無料で作成出来て、そのキャラクターごとに職業につく事が出来る。【タイムクロスクロノス】にはいくつかの職業があって、俺のメインキャラクターは叡銃士だ。
SFと剣と魔法の世界観、とでもいうのか……。
一貫性は無い。
メインシナリオによると、以下の時代の流れがあったらしい。
最初が科学文明時代。
第二に、白紙の時代。
これは、科学文明が崩壊し、記録が残っていないという事のようだ。
そして第三に魔法文明時代。
魔術や聖術、錬金術や死霊術、召喚術などの、ファンタジー要素が強い時代だ。
第四に空白の時代。
上述の魔法文明が突如として消えてしまったかのようになった、何があったのか不明な時代だという。
最後が現在――の、ゲーム軸だ。
メインシナリオの開始時点である。メインシナリオは、都会のビル群の合間を歩いていると、目の前に白い兎が現れる所から始まる。そうして砂嵐のムービー後、プレイヤーは【冒険者】として、【はじまりの街】に立っている所から始まる。
そこから先は、各時代の遺跡の調査だったり、NPCからの依頼だったり、ボス討伐だったりを繰り返しながら、メインシナリオが進んでいく。大長編だ。
そんな内容のゲームにおいて、俺は第一の科学文明時代の遺物とされる【叡銃】を使用する、【叡銃士】という職業についている。どんな職業かというと、火力だ。
この【タイムクロスクロノス】では、パーティを四人まで組めるのだが、大体の場合、壁役・火力役・回復役・と、場合によりもう一人という構成になる。この火力職の一つが【叡銃士】だ。範囲攻撃も単体攻撃も可能だ。ゲーム内でも、【魔術師】と並び立つ高火力の職業である。
俺は迷わずログインを選択した。