目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
MMOのフレに会ったら、生徒会長だった。
猫宮乾
BL学園BL
2024年07月22日
公開日
79,635文字
完結
 風紀委員長として多忙な俺の唯一の趣味兼息抜きは、スマホアプリのゲーム(MMORPG)だ。俺はゲームのガチ勢だ。まさにヒューマンドラマ! ちなみに現在は、ゲームの中のフレンドのスズカの事が気になっている。これは最早恋だ。そう思っていたらスズカとリアルで会う事になり、待ち合わせ場所に行くと、犬猿の仲と噂されがちの(実際には接点がほぼ無い)生徒会長の姿があったので、退いてもらおうとした。※現代全寮制男子校のボーイズラブです。

第1話 俺の背景

 桜瑛オウエイ学園は、都心から離れた山間部に存在している。

 中高一貫制の男子校で、閉塞的な環境で教職員も男性しかいないせいなのか、同性愛者が非常に多い。良家の子息ばかりが通うお金持ち高校であり、娯楽は少ない。

 そんな桜瑛学園に、俺は中等部一年で入学した。父が卒業生で、その勧めだ。それまでは、ドイツ人とのハーフである母と共に、俺は海外で暮らしていた。我が家は祖父がドイツ人で、外資系の会社の社長をしている。父方は旧華族で、父自体は古武術の師範として日々を過ごしている。

 比較的自由な家であり、俺も日本で言う小学生までの時代は、飛び級して大学に行くなどしつつ勉強と研究をしていれば、何をしても許される生活を送ってきた。ただし父の教えで武術の稽古は欠かさなかった。

 が――こんな生活であり、周囲には同年代もいなかった為、心配した家族が、同年代の友人を作り社会性を養うようにと、中等部一年の時に、日本に連れてきて、俺を桜瑛学園に放り込んだという次第である。

珠碕タマサキ委員長!」

 声をかけられて、思考が途切れた。それまで風紀委員会室の執務机の前に座っていた俺は、指を組んだまま顔を上げる。

 珠碕というのは、父方の苗字だ。俺の日本名である。

 珠碕梓タマサキアズサ、これが俺の名前だ。

 現在高等部二年生、俺は風紀委員長という存在になった。

「旧東館二階で未遂事件です!」

「被害者の保護は?」

「完了して、保健室に連れて行きました」

「加害者は拘束したのか?」

「はい!」

 風紀委員からの報告を聞きながら、俺は辟易した気持ちになった。

 いくら同性愛が盛んだとは言っても、さすがに犯罪行為は許容できない。

 ――……この正義感というか、誰にでも有りそうな一般道徳だと思うが理由で、俺は何度か強姦犯罪を阻止した。腕には自信があるからな。そうしたら、結果として風紀委員会にスカウトされ、前風紀委員長の指名で、風紀委員長になってしまった。

 風紀委員会は中高共通なのだが、俺は中三時から、本来高二が務める委員長をずっと続けてきた。そうして漸く今年、適正といえる高二になった。来年は受験がある(俺は海外で卒業しているので進学は迷っているが、多くの生徒の場合)ため、後任を指名可能だ。

 来年の二月まで頑張れば、晴れて自由の身だ。

 別に風紀委員長をやりたくないわけではないが、多忙すぎて疲れるというのが本音だ。風紀委員の特権に、授業免除が無かったならば、俺は転校を希望していたかもしれない。

 とはいえ、空き時間には書類整理や事情聴取、そうでなければ見回りがある。

 よって本当の自由時間は、(学生なのに)激務を終えて、寮に帰宅してからとなる。

 この日、俺が風紀委員会の仕事を終えたのは、午後七時を回ってからの事だった。

 寮に戻ると、基本的に俺は、まず最初にシャワーを浴びる。

 すると疲労が溶け出していく気がした。温水で俺の黒髪が濡れていく。この一時は特別だ。食事は、ルームサービスも頼めるのだが、俺が帰宅する時間帯には大抵終了しているので、学内にある高級スーパーから食材を購入して、俺は簡単に自炊をしている。

 今夜はパスタにした。そう凝った品を作るわけでは無い。ソースもレトルトだ。

 それを食べ終えてから、俺は寝る準備を整えて――リビングのソファに陣取る。

 テーブルの上には、丁度充電が終わったスマホがある。

 風紀委員長の特権で、俺は一人部屋だ。現在、午後十時手前。

 ここから就寝までが、俺にとっての自由時間となる。

 唯一といって良い、俺の趣味の時間の始まりだ。

 ***

 ▲ログイン

 ▲ショップ

 ▲お知らせ

 ▲掲示板

 ***

 手に取ってスマホのアプリを起動すると、ムービーが終わってからログイン画面が表示された。そう、俺の趣味は、ゲームだ。中でもMMORPGと呼ばれるゲームが好きだ。

 現在ハマっているのは、【Time×Chronus】というゲームである。

 読み方は、【タイムクロスクロノス】だ。【TCC】とも略される。

 多人数参加型のRPGでメインクエストを進めたりレベル上げをしながらキャラクターを育成して遊ぶゲームだ。他にサブクエストがあったり、ギルド機能やPvP機能などもある。

 趣味はゲームとはいうが、実際には俺は、他のゲームはした事が無い。

 人生初ゲームかつ多分他には機会が無ければやる事も無いだろう。

 俺と【タイムクロスクロノス】の出会いは、五年前だ。五年前、日本にやってきた俺は、たまたまテレビを眺めていて、そこでたまたまこのゲームのCMを目にしたのである。今年で【タイムクロスクロノス】も五周年、俺の日本での思い出の半分は、桜瑛学園、残りの半分はこのゲームと言っても過言では無い。

 一人につき三キャラクターまで無料で作成出来て、そのキャラクターごとに職業につく事が出来る。【タイムクロスクロノス】にはいくつかの職業があって、俺のメインキャラクターは叡銃士だ。

 SFと剣と魔法の世界観、とでもいうのか……。

 一貫性は無い。

 メインシナリオによると、以下の時代の流れがあったらしい。

 最初が科学文明時代。

 第二に、白紙の時代。

 これは、科学文明が崩壊し、記録が残っていないという事のようだ。

 そして第三に魔法文明時代。

 魔術や聖術、錬金術や死霊術、召喚術などの、ファンタジー要素が強い時代だ。

 第四に空白の時代。

 上述の魔法文明が突如として消えてしまったかのようになった、何があったのか不明な時代だという。

 最後が現在――の、ゲーム軸だ。

 メインシナリオの開始時点である。メインシナリオは、都会のビル群の合間を歩いていると、目の前に白い兎が現れる所から始まる。そうして砂嵐のムービー後、プレイヤーは【冒険者】として、【はじまりの街】に立っている所から始まる。

 そこから先は、各時代の遺跡の調査だったり、NPCからの依頼だったり、ボス討伐だったりを繰り返しながら、メインシナリオが進んでいく。大長編だ。

 そんな内容のゲームにおいて、俺は第一の科学文明時代の遺物とされる【叡銃】を使用する、【叡銃士】という職業についている。どんな職業かというと、火力だ。

 この【タイムクロスクロノス】では、パーティを四人まで組めるのだが、大体の場合、壁役・火力役・回復役・と、場合によりもう一人という構成になる。この火力職の一つが【叡銃士】だ。範囲攻撃も単体攻撃も可能だ。ゲーム内でも、【魔術師】と並び立つ高火力の職業である。

 俺は迷わずログインを選択した。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?