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第24話 ライオネル様が容赦ありませんわ!!

「殿下」

「うっ……なんだ、ライオネル」


 ライネル様の追及は終わらない。今度は王太子殿下に視線を向けた。


「頼んでいたものは用意できてますか?」

「ああ、もちろんだ。ローザ、テオフィル、もうよい。こちらへ」

「「御意」」


 マリアン様の取り巻きだったローザ様とテオフィル様が、王太子殿下のもとで跪く。それを見たマリアン様はこれでもかと両目を見開いていた。ゆるゆると首を振り真っ青な顔で震えている。


「マリアン、お前はやり過ぎた。これ以上は私が許さない。覚悟はいいな?」

「……っ! 〜〜っ!」

「ああ、口を塞いだままだった」


 ライオネル様がパチンと指を鳴らすとマリアン様にかかった魔法が解けて、自由になったそばからわめき散らした。


「お、お兄様! 違うの! 私はただ、みなさんのためにやったことなのよ!!」

「言い訳は不要だ。ローザ、映像水晶を」


 王太子殿下の指示でローザ様が手にしていた水晶に魔力を込めると、なにもない空間に映像が流れ始めた。


 映像にはドリカさんが映っていて、キラキラとした瞳でマリアン様を見つめている。


『いい? 思いっきり憎い相手を思い浮かべて魔力を流すのよ。そうしたらこの古代の魔道具が貴女の望みを叶えてくれるわ』

『それでは、思い浮かべる相手は、ハーミリアですね!』

『今日はタイミングが悪いから、明日の朝にしてほしいの』

『はい、承知しました!』

『そうね、明日の朝に生徒会室の鍵を開けておくから、そこで試すといいわ』

『はい、任せてください! 必ず成功させてみせます!』


 あれはマリアン様が仕向けたことだったの……確かにやり過ぎですわね!

 お陰さまでライル様と相思相愛だと知ることができましたけど!


 次に流れてきたのは、生徒会室の映像だった。この流れだと、あの日マリアン様が相談があると言ってライル様を連れていった後のようだ。


『これは?』

『王家が所有する禁断の魔道具ですわ。ある装置につけると魔物を呼び寄せる効果がありますの。石の大きさによって呼び寄せる魔物の強さも変わるものですわ』

『うっかり落としてきてしまうかもしれませんわね。例えば、東の川の向こう側とか』

『だが、そんなことをすれば多くの民に被害が出てしまいます』

『ライオネル様が私の婚約者になれば、民に被害が出ることはございませんわ』


 こんなことがあったなんて……東の川の向こうって、マルグレンの領地ではないの! ライル様はわたくしの実家の領地まで守ってくださったのね。本当に愛しさが止まりませんわ!


  その他にもと、ローザ様とテオフィル様から次々とマリアン様の悪事の証拠が明らかにされていった。


「ちょっと! もうやめて!! お父様、お兄様を止めてくださいませ!」

「マリアン……それは無理だ」

「どうしてですの!?」

「これ以上ライオネル様に逆らえば、この国は滅びる」

「そんなの大袈裟ですわっ!」


 マリアン様がどんなに叫んでも泣き喚いても、もう手を差し伸べる者はいなかった。


 静かに王太子殿下が諭すように言葉を続けた。


「マリアン、魔神を敵に回すということは魔法連盟を敵にするということだ。世界中のトップクラスの魔道士たちを敵にして生き残る道はない」

「嘘よ……嘘……こんな……」


 マリアン様は真っ青な顔で床に座り込んだまま、項垂れている。そんな彼女に王太子殿下が最後の沙汰を言い渡した。


「マリアン、お前にはふたつの選択肢がある。最北の地にある修道院で命尽きるまで神に仕えるか、海の向こうにあるシュラバン王国の第十五妃として嫁ぐか。好きな方を選べ」


 最北の地にある修道院は主に罪を犯した女性が送られる場所で、この国で最も過酷な環境の中にある。半数は逃げ出すが山を越える際に魔物に食われるか、飢えや寒さで命を落とすか、そんな場所だ。


 もうひとつのシュラバン王国は一夫多妻制で、今の国王には十四人の妃がいる。でも相次いで妃が亡くなるため入れ替わりが激しく、王妃だけでも二度は代わっていた。一度嫁げば二度と帰ってくることはない、黒い噂の絶えない嫁ぎ先だ。


 どちらにしても生き地獄のような環境だ。


「……シュラバンに、嫁ぎます……」


 それでもマリアン様が選んだのは、王族としての暮らしだった。消え入りそうな声だったけど、しっかりとそう答えた。


「わかった。ではマリアンはシュラバンに嫁ぐまでの間、西の塔にて謹慎を命じる。……連れていけ」


 ほんの一瞬、王太子殿下の瞳が悲しげに揺れたように見えた。


 でもこれで終わった。クリストファー殿下も、さすがにおとなしくしている。


 わたくしの前に濃紫のローブを羽織ったライル様がやってきて、そっとその腕に包み込まれた。


「これですべて片付いた。やっとリアとの時間を過ごせる」

「ライル様……! わたくしの実家の領地まで守ってくださりありがとうございます!」

「リアの大切な人たちがいるのだから当然だ。これからも僕が守るよ」


 わたくしは込み上げる気持ちをそのまま言葉に変えた。なにも飾らずにただ、わたくしの心の声を伝える。


「ライル様……愛してますわ」

「っ!!」


 ライル様は言葉に詰まって、みるみる頬を染め耳まで赤くしていた。


 こんなライル様は初めて見る。


 そういえば、こんなにストレートにわたくしの気持ちを言葉にするのは、ライル様が泣いて縋ってきた日以来かもしれない。


 いつも好意を前面に押し出していたので、うっかりしていた。


「リア……すまない、ちょっと嬉しすぎて……」

「ふふ、こんなライル様もかわいらしくて素敵ですわ」

「僕はリアには格好いいとか、強いとか言われたい」

「もちろんライル様はカッコよくて、魔法の腕も世界屈指でお強いですわ」


 ますます顔を赤くするライル様にさらに愛しさが込み上げて、もっとわたくしの言葉で心を乱してほしくなる。


「リア、もう……これ以上は……」

「ダメです。わたくしのこのあふれる気持ちをお伝えしないと気が済みませんわ」

「いや、でも」

「わたくし、ライル様が隣にいなくてずっと寂しかったのです。これからは決してそばから離れないで?」

「も、もちろんだ!」

「ふふ、わたくしのすべてを捧げてライル様を愛しますわ」

「す、すべて……!?」


 ライル様はピシリと固まってしまった。なにかおかしなことを言っただろうか?


 わたくしを抱きしめるライル様の腕に力がこもる。


「僕もリアを愛してる。世界で一番、誰よりもリアだけを愛してる」

「ライル様……」


 鋭いアイスブルーの瞳は、激情の炎を灯してわたくしを射貫くように見つめている。

 いつもの甘くとろけるような瞳とは違う、獲物を狙うような視線に目が逸らせない。

 わたくしの火照った頬にライル様の手のひらが添えられる。少しだけひんやりして心地いい。


「リア、僕の女神」


 掠れるような熱のこもった声に、そっと瞳を閉じる。


 そして、ライル様の柔らかな唇が、わたくしの唇に優しく触れた。



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