「もう大丈夫だよ、ミラ」と彼の声。
恐る恐る顔を上げると既に妖魔の姿はなく、肩で息をしながら私に手を差し伸べる先輩の姿があった。
彼のコートはあちこちが裂け、隙間から覗く白い肌には血が滲んでいた。
そして周囲には、私たちを避けるように、黒い塵と瓦礫の山が出来ていた。
……先輩の『僕がこの身にかえても護る』という言葉は、本当だったんだ……。
ふと見ると向こう側には、ドヤ顔で猟銃を構えるクリスがいた。
そうか、きっと彼女の一発が、彼にチャンスをくれたのね!
それから先輩は、通報を受けてやってきた警察官に、現場の引き継ぎをした。
私は、彼に勝手に出歩いたことをこっぴどく叱られ、死ぬほどギューっと抱き締められた。苦しくて何度も咽せたんだけど、彼はしばらく許してはくれなかった。
おしおきが終わると、彼は今夜の一部始終を教えてくれた。
一回目の脱走後に私と別れた後、彼が街に出て教授を探していたら、教授が私と一緒に歩いていたのを発見、屋敷までそのまま尾行した。
急いで私を救出しようとしたら、何故か先に、捕まっていたクリスと他の被害者達を見つけてしまい、解放した。
――ってバツの悪そうな顔で言ってた。
クリスはというと逃げもせず、犯人に『一矢報いたい』と教授の猟銃を拝借して屋敷をウロついてたら、合流したってことみたい。
彼女って一体何者なの?
*
「休日の朝っぱらから騒々しいわねぇ……」
私は玄関先で、数日ぶりに顔を出した先輩と二人がかりで荷物を運び込む父を見つけた。
「やあミラ。ボク、クビになっちゃった!」
「は、は*あ%ぁぁ#@▲☆ーッ!?」
「部屋も追い出されてしまったから、今日からここでお世話になることになったんだ」
クビになったのは特別執行官の方。
彼は、『
「というわけで、君の先輩じゃなくなったよ」
「そっか。学院にはもう来ないのね……」
「そんな寂しそうな顔しないでよ、ミラ」
と、彼は私の頭をポンと叩いた。
「明日から僕は、王立ローデア錬金術学院高等部の新任教授、……君の担任だ」
(了)