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第286話 魔女に関連した資料



 それから……。


 私達は、一先ず、皇族に関する資料を部屋の中にあるテーブルの上に置いて、引き続き魔女に関する資料を探すことにした。


 改めて誰も、口には出して言わないけれど……。


 きっと、私でも思いついたくらいだから。


 マリアさんのことだけじゃなく、もしかしたら、この件に『太陽の子』が大きく関わっているかもしれないということは、みんな、理解していると思う。


 もしも、マリアさんが“書類上”の表記で死んだことにされていて、裏で国の為にその力を奮っていたのだとしたら……。


 必然的に、一歳の時に亡くなったとされる『他の皇族達』も、恐らく死んでいなかったということの決定的な証拠になるだろうし。


【特にお兄様は、自分のルーツが関わってくる問題だから、きっと知りたいと思う気持ちが強いんじゃないかな……】


 こういうとき、普段から、あまり表情に変化が無くて分かりにくいけど。


 今はお兄様の気持ちが手に取るように私にも理解出来る。


 自分が何者なのか、どういう風に生まれることになったのか。


 身体的な特徴として、特殊な能力と赤を持っている以上……。


 ――その手がかりだけでも知りたいと思うのは、当然のことだと思うから。


 それから、暫く黙々と、みんなで一緒にあちこちの棚を手分けして魔女に関する資料を探していると、膨大な資料の中で……。


【魔女の能力について】


 という、それらしき資料を発見して、私は思わず手を止めた。


 よくよく見れば、シュタインベルクにいた歴代の魔女に関して書かれているような本は、この本の他に更に同じ棚に2冊あり……。


 国が建国された当初の古いものから、年代別に区分けがされているみたいだった。


 私は上下じょうげ2箇所に丸い穴を開けて、黒い紐でくくってある、年季の入った冊子を3冊、棚から引き抜いて、部屋の中心にあるテーブルの上へと持って行く。


 他にももしかしたら、別の所で魔女関連の資料が見つかるかもしれないと思って探してみたけれど。


 結局、私が見つけることが出来たのは、この3冊だけだった。


 因みに、アルも一生懸命探してくれていたけど、該当するような書類は一つも見つからなかったみたいで……。


 セオドアはさっき私が見つけたのとはまた違う、皇族の歴史について書かれていた本を1冊見つけてきてくれた。


 それから、お兄様が国が保有している『魔女の能力や寿命に関しての研究成果』などが纏めてある本を2冊発見してくれて。


 合計、6冊の本がテーブルの上に置かれたのだけど……。


 改めて、みんなで調べるにしては、特にお兄様が見つけてくれた資料に関してはかなり分厚く。


 半日かけて手分けをして見るにしても、かなり根気のいる、骨を折りそうな作業になりそうだった。


 救いなのは、各冊子に、ある程度きちんとした年代を記述してくれている所だろうか。


 100年ほど前に『黒の本が作られた』ということと、マリアという皇女がいた年代を照らし合わせれば、ある程度どの辺りのページを開けばいいのかは、私にも見当をつけることが出来る。


「とりあえず、私が見つけた年代別の歴代の魔女のことが書かれているものから、見てみましょうか?」


 一度、みんなに声をかけた後で。


 私は自分の持ってきた本を確認するように、そのページをゆっくりとめくっていく。


 表情には極力出ないように気をつけていたけど、内心では凄くドキドキしていた。


【マリア・フォン・シュタインベルク】


 ――100年ほど前に、この国にいたかもしれない魔女


 もしかしたら、私以外の皇族に魔女の人がいたのかもしれない、と思うと何だか凄く不思議な感覚がしてくる。


 それも、のように。


 彼女がアルの半身であるアルヴィンさんと共に生きた魔女なのだとしたら……。


 その人生は一体、どんなものだったんだろうと、どうしても気になってしまう。


【私とアルにどうして、魔女の能力が書かれた黒の本を残してくれたのかということも、詳しく調べれば分かるんだろうか……?】


 頭の中で、知りたいという気持ちと、相反あいはんする『もしも、彼女の人生が悲惨なものだったとしたら、知るのが恐い……』という、どこか漠然とした不安を感じながらも。


 私は、パラパラと、該当の箇所を探すためにページを捲る指を動かしていく。


 ……暫くして。


 ――に関しては、特に苦労をすることもなく、簡単に見つけることが出来た。


『未来予知の魔女』


 この本に載っているのは魔女の能力のみで、名前に関しての記載については、どこにもなかったけれど。


 その、簡潔な一文は……。


 およそ100年ほど前に、確かに『その魔女』がこの国にいたのだという情報を私達にもたらしてくる。


 そうして、その下に、簡単な説明にプラスして……。


 皇女であるマリアさんが一体、この世で何をしたのかなど、更に詳しい記述がされていて……。


 その情報に、私は思わず驚いて目を見開いた。


【……未来を予知する能力のある魔女。

 その予知能力で、難しいとされる事件を幾つも解決した功績を持つ。

 主な事件の内容は以下に記載の通り。

 1, :::

 2, :::

 3,未来予知の能力により、かねてよりヴィクトール伯爵のことを要注意人物としてマークしていたが、ヴィクトールの自己破産によって、公的文書の改造、横領や殺人の罪など、その悪行の殆どを暴くことに成功。

 リュミエールがいにあるヴィクトールていの地下にて、衰弱した魔女を複数人救出。

 譫言うわごとのように、『人ならざる者に、破滅に追いやられた』と説明しているが詳細は不明。

 当人は酷く錯乱しており、妄言の類いとみて間違いないと判断、伯爵と夫人を斬首刑に。

 また“収集家”として複数の魔女を自宅にコレクションし、満足に水や食べ物さえ与えていない劣悪な環境下に置いており、国で保護→要観察。

 今回見つかった魔女の中には、もおり、今後の魔女に関する研究がより一層見込まれる可能性大】


 ――


 彼女の功績に関しては幾つもあり、他にも過去にシュタインベルクで起こった様々な事件を解決しているみたいだったけど……。


 私が、その一文に目を奪われたのは、前に、似たような内容の話を聞いたことがあったからだった。


「ねぇ、セオドア。……これって、のことなんじゃないかな、?」


 戸惑いながらも、以前、スラムでエプシロンから聞いた話の内容と……。


 ここに書かれている記述があまりにも酷似している気がして、セオドアに声をかければ。


 セオドアも私の言葉に直ぐに反応して、頷いてくれた。


「あぁ。……確かに、スラムの屋敷の事件に似通ってるな。

 特に魔女を複数人“収集”している所とかな……」


 そうして、セオドアが私の言葉に眉を寄せ、険しい表情を浮かべて声を出してくれるのを見ながら。


 私も思わずつられて、難しい表情になってしまった。


 確か、エプシロンから聞いた話が正しかったのだとしたら……。


 あのお屋敷に住んでいたとされる貴族の人は、魔女に対して酷い扱いと手荒な真似をしていたって有名だった、んだよね?


 それで、在る日、そういった魔女の怒りを買ったのか、借金に苦しんで、住んでいる家族全員に色々な災難が降りかかって、結局、惨めに没落した……。


 っていう、話だったと思う。


 まさか、あの話の裏に国が関わっているとは全く思ってなかったんだけど。


【もしも、この事件に皇女である“マリアさん”が関わっているのだとしたら、裏でアルヴィンさんも関係していたんだろうか……?】


 アルとお兄様が私達の話を聞きながら、理解出来ずに首を傾げるのを見て……。


 私はスラムでエプシロンから聞いた話を、改めて2人にも分かるように説明する。


 私の説明を聞いて、考え込むように黙ってしまったお兄様とは対照的に。


「ふむ……。

 もし、その話が本当なら、確実にアルヴィンはその事件に関わっているだろうな」


 と、アルが声を出してくれた。


 確かに、ヴィクトール伯爵という人が『人ならざる者に、破滅に追いやられた』と言っている以上は、アルヴィンさんが関係していても可笑しくはないだろう。


 前にエプシロンから聞いた話にも『身体的な特徴で人を傷つけるようなことをしたら、人ならざる者に呪われる』なんていう言葉があったと思うから。


 精霊が基本的に赤を持つ者に対して好意的なのだということは、私達の間では周知の事実だし……。


 ――それがアルヴィンさんのことを指していたのだとしたら、納得することが出来る。


 でも、だとしたら、アルヴィンさんは……。


 


「アルヴィンさんは、自分がマリアさんの傍に付いていたことを、他の人間には誰にも話してなかった、のかな……?」


 この事件のあらましを確認するに、この本を作った人はヴィクトール伯爵の発言をとして切り捨ててしまってる。


 仮にアルヴィンさんの存在を認知していたのだとしたら、ヴィクトール伯爵の妄言を、きっと本に残すことさえしないだろう。


 もしも、同じ状況が起きたとして、お父様だったら、後生こうせいにアルの存在を匂わすような記述を書くこと自体、許さないと思うから。


 だからきっと、周囲の人達は、アルヴィンさんと皇女であるマリアさんが一緒にいるのは知らなかったと見て間違いないと思うんだけど……。


 そうなってくると、この事件はヴィクトール伯爵の罪を暴くことが目的だった訳じゃなくて……。


 実際は、のが、マリアさんとアルヴィンさんの本当の目的だったのかもしれない。


「そういや、お前、自分の半身と連絡が取れなくなったのっていつくらいなんだ?」


「……う、うむ。……そっ、その、だな、?

 引きこもりをしていた期間が長い所為もあってか、僕自身、正直言って“いつ頃、連絡が取れなくなった”とか、そんな細かい所まで一々覚えていないのだ。

 そもそも、僕達にとって時間の概念などあってないようなものだし……。

 アルヴィンとの繋がりが途絶えてしまってかなり久しいから、恐らく100年以上は前だったと思うのだが、その辺り、どうにも、あやふやでな……」


 それから……。


 セオドアがアルに向かって、アルヴィンさんと連絡が取れなくなった時について聞いてくれると。


 しどろもどろになりながら、申し訳無さそうにアルが私達に向かって声を出してくれる。


 確かに悠久とも思える時を過ごしているアルからすると、時間なんていうものは本当にあってないようなものだろう。


 それに関しては、本当に仕方が無いと思えるんだけど。


 お兄様とセオドアとアルの間で、何とも言えない微妙な空気が流れてきたのをそっと打ち消すかのように。


「あのっ、でも……。

 だとしたら、もしかすると、アルと繋がりが切れた後も、アルヴィンさんは生きていた可能性があるんだよね?

 それに、マリアさんが100年前に生きていて一緒に行動していたのなら、アルヴィンさんも少なくとも、その年代までは生きていたってことになるだろうし」


 と、私が声を出せば……。


「うむ……。

 ここに書いてあることと、お前達の話を総合して考えてみても、その推測は正しいと僕も思う。

 それに黒の本の制作に、未来予知の魔女だけではなく、魔女の能力を知ることの出来る魔女も関わっていたというのは分かっているし、ヴィクトールとやらの、その事件に、アルヴィンが確実に絡んでいるのは間違いないだろう。

 もっともアルヴィンが仮に今も生きているとしたら、僕に一度もコンタクトを取ってこないというのは有り得ぬことだから……。

 やはりその辺りの年代で何かが起きて、もう既にこの世にはいないと考えるのが妥当な見解だろうが」


 と……。


 アルが現状、分かっていることを纏めて説明してくれた。


 長いこと苦楽をともにしてきたような自分の半身が、改めてもうこの世にいないと知るのは辛いことだと思うんだけど……。


 きっと、もうずっと前から覚悟していたことだと思うから、アルの表情に落胆の色は見えない。


「話をぶった切って悪いんだが、問題はお前の半身がどこまで予想して、俺たちに自分たちのことを伝えようとしてきたか、だろ……?

 今日、俺たちがここに来ることも予測して、それも全て計算の内に入ってたと思うか……?」


「うむ。……推測でしか語れないが、それもまた難しい問題だな。

 スラムでお前達が、その話を聞いてなければ、今日僕達が此処に辿り着いた所で……。

 アルヴィンと未来予知の能力を持っている皇女の結びつきについては、“確実”とまではいかなかったかもしれぬし。

 だが、僕達にこの国の皇女とアルヴィンが過去に共に過ごしていたという情報を教えたかったとして。

 仮に、これらが全て計算された上で、事前に立ち回っていたとしてもだ。

 そもそも、アルヴィンが何故そうまでして、こんなにも回りくどい遣り方を採用しているのか。

 その行動の意味も、何を伝えたいと思っているのかさえ、今の段階では全く理解出来ぬ」


 そうして、セオドアの言葉に慎重に返事をするアルの説明を聞きながら……。


 確かに、どれだけ頭を巡らせてみても。


 アルヴィンさんと皇女であるマリアさんが、のちの世の私達に、黒い本を残した理由も……。


 こんなにも、彼女達の存在に、かなり遠回りして気付かせてくるような方法を取っている理由も……。


 私には何一つ、思いつくことが出来なかった。


 ――唯一、有り得るかもしれないと思ったことは。


 私とアルにきちんと黒の本が届けられるようにしたくて、万が一にも他の人間には誰にも知られないようにしたかった、とかだろうか……。


「アルフレッド、一つ聞きたいんだが、お前は、太陽の子との関係性についてはどう見る……?」


「ふむ、それもまだよく分からぬな。

 だが、この資料で少なくとも、未来予知の魔女がマリア・フォン・シュタインベルクであり、一歳の時に亡くなったとされる皇女であるということは殆ど証明されたようなものだ。

 恐らく、一歳で亡くなったとされる男の皇族はみな、それに準ずるもの……。

 つまり、太陽の子であったと考えるのが妥当だろう」


 そうして、お兄様の問いかけに、アルが答えてくれたことで。


 分かっていたことだったけど、国のために過去に裏で暗躍していた人達が、皇族だったことが殆ど確定的になってしまった。


 だとしたら、歴代の皇族がみんな『金』を持っていた理由も、今なら理解することが出来る。


 表に出て政治を動かしているのは『金』を持っていた皇族で、お兄様のように『赤と金』の、オッドアイを持つような皇族は裏の暗部として……。


 私のように、魔女だった場合も同様に……。


 ということなのだろう。


 何だか、知ってはいけない部分を思いがけず知って、いけない事をしてしまったようなそんな感覚がしてくる。


 それでも、ここまで来てやめるという選択肢はどこにもなく。


 アルヴィンさんのことや、お兄様の太陽の子に関係するようなこと……。


 それから、ベラさんの寿命を何とかする方法など……。


【他にも何か重要な手がかりが見つかればいいんだけど……】


 と、内心で思いながら、私たちは目配せをし合って次の本の冊子に手を掛けた。



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