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第285話 禁書庫



 自分のことを何よりも優先して、考える


 アルの言葉を聞きながら……。


 簡単なようで、そのことを難しく感じてしまうのは、将来の私自身がどうなっていようときっと、そこに欲とか、願望とかを何一つ感じないからなんだ、と思う。


 私の傍にいてくれる大切な人達のことを、という感情だけが先行していて。


 これから先、自分が何をしたいのかとか、どうしていきたいのかとか。


 そういう『自分を主体に考える』という根本的な感情自体、巻き戻し前も含めて一度も叶えられることがなかった生活を送っていく中で。


 真っ先に、諦めることを覚えて……。


 ――本当に欲しい物は、いつだって手に入らないのだと……


 どこか、身体の奥底に染みついてしまっていることで、執着みたいなものも含めて、殆ど欠落してしまっているのだということは、自分でも理解していた。


 それに、巻き戻し前の軸を含めて考えれば、今の自分を取り巻く環境は本当に雲泥の差くらい違うものだし。


 私自身、を享受している分……。


 これ以上の幸福は貰いすぎているようにも感じてしまって、そこまで、望もうとも思えなかった。


 だから、アルが今かけてくれたその言葉にはすぐに答えることが出来ずにいた。


 何を優先して行きたいかと言われれば、私の答えはいつだって決まっていて……。


 ――私の傍にいてくれる人達だと、言い切れるし。


 自分のことよりも、みんなのことを考えてしまうのは……。


 未来の軸で私の代わりに、死ななくても良かった筈のローラが命を落としてしまった現場を、まざまざと目の当たりにしてしまった所為なのもあるけど。


 家族として、お兄様がいてくれて。


 いつだって、セオドアや、アルや、ローラが私のことを大切に思って接してくれて。


 エリスや、ロイも私のことを気に掛けてくれている。


【本来では、あり得ないくらいに恵まれているというのは感じているし、その分、誰かにお返ししたいと思うのは、変、だろうか……?】


 自分のことに関して、どうしてもおざなりになってしまうのは、こういう風になっていたいっていう将来設計だとか、確固たる意思も無いからなんだと思うんだけど……。


 それでも、前にルーカスさんと教会で会って、赤を持つ子達が生活しているのを見て思ったことがあるように、皇女としての役割を私自身がきちんとこなしていくことで。


 あの教会だけでなく、『赤を持つ人達のことを、しっかりと保護する』ような、そんな基盤が整えられることが出来ればという気持ちはある。


 その想いは、ベラさんと出会ってから更に、日に日に私の中で加速していた。


 アルの言ってくれているように、自分のことを大切にするだとか、自分のことを優先的に考えるという意味では違うと思うんだけど。


 それでも、私自身が、そんな大それたことが出来るかは分からないなりに……。


 これから先、彼女達の為に何が出来るのかを考えることで、私自身がどうしていきたいかという目標にはなっていた。


 そのためには、幾つもしなければいけないことがあると思う。


 先ずは、今の段階で、仮面の男や私の裏にいる人達のことを炙りだすことを成功させて、私自身、自分に降りかかる危険を可能な限り減らすということ。


 それから、私に賛同してくれる人を増やしていく中で……。


 長期的に見ても、彼女達が生きやすい生活を送ることが出来る世の中になれば、それに越したことはないだろう。


 一先ず、そのための一歩としてお父様が許可してくれた禁書庫に行って、何か魔女の寿命に関しての手がかりを見つけることが出来ればいいんだけど……。


「ありがとう、アル。

 私は今が充分幸せだし、私もみんなが幸せだったら、凄く嬉しいな」


 口元を緩めながらふわりと笑みを溢して、アルにお礼を伝えたあとで。


 私は、セオドアに付き合って貰っていた護身術の練習を切り上げて、訓練場から出たあと、その足でみんなで一緒に禁書庫へと出向くことにした。


 セキュリティーが万全なその場所の鍵は、お兄様が事前にお父様から借りて持ってくれていたので、すんなりと入ることが出来ると思う。


 私達がお父様に教えて貰った禁書庫に辿り着くと……。


 扉の前に、1人、見張りをしていたのだろう騎士の人が立っていて。


 お兄様の姿を見つけたその人は、一度、私達に最上級の敬礼をしてからスッと退いてくれた。


 今日ここに入るのが許されているのは、私とアルとお兄様とセオドアの4人だけなので、彼はそのまままた、扉の前で見張りを続けてくれるのだろう。


 元々、禁書庫に入れる訳にはいかないと言われていたのだけど。


 私達が見ることの出来ない書類の方が少なかったことから……。


 事前に、見てはいけないとされる書類などについては、お父様が更に鍵付きの別の部屋へと移動させてくれている筈なので、今日ここにある書類については全て私達でも見ることが許可されているものになっていた。


 壁に背を付ける形で四方に棚が並び、真ん中に書類を確認する為に執務室にあるようなアンティーク調のテーブルとソファが置いてあるこの部屋で、私達は取りあえず手分けをして魔女に関連していそうな書類を探すことからスタートさせる。


 実際、この部屋に置いてある書類は魔女のことに関してだけじゃなく、これまでのシュタインベルク自体の歴史などについての重要文献などが書かれた本についても含めて沢山あり……。


 それについては、近代に影響を及ぼしたとされる国内での施策や政治に関するものから、諸外国との戦争の歴史なども含めて様々だ。


 その一つ一つが、他国に流出させることが出来ないような、かなり重要な書類であることは間違いないので、丁重に扱わなければいけないと思って、一冊、手に取るだけでもかなり緊張してしまう。


「ふむ、魔女関連の書類か。

 ザッと見た限り、こっちに置いてあるものは違うみたいだが。……アリスの方はどうだ?」


「あ、えっとね……。

 全部を見ることが出来た訳じゃないけど、私の方も結構、内容が違うかも……」


 それから、暫く経ったあと……。


 アルに問いかけられて、私は首を横に振る。


 幾つかの資料を、一冊、一冊、丁寧に棚から出して、その場で立ったまま、ザッとページを捲って何が書かれているのか確認してみたけれど。


 私が担当した所にある書類は、戦争なんかの歴史について書かれているものが大半で、特に目立ったような魔女に関する記述みたいなものは何処にもなかった。


 もしかしたら、私の方もアルと同じく、特に魔女に対する記述に関しては置いてないのかも……。


 と、思いながらも……。


 気を取り直して、同じ棚でも、段が違えば何か違う記述があるかもしれないと思いながら、更に一つ一つ確認していけば……。


 その中の一冊に、歴代の『シュタインベルクの皇族』に関する歴史の資料を見つけて、私は思わずそれを手に取ってゆっくりと中を確認する。


 今は、魔女のことが書かれているような物を探しているから、特に関係のない資料ではあるんだけど。


 何となく気になってしまって、これまでの歴代の皇帝陛下から、皇太子、皇女に至るまでのページを確認していて、気付いた。


「……あれ、?」


「アリス、どうした?

 何か、気になるようなことでもあったのか?」


 思わず口をついて、疑問の声が出てしまったのが聞こえたのか。


 お兄様に声をかけられて、私は一度、否定するようにやんわりと首を横に振ったあとで……。


「あ、えっと……。いえ、魔女のことに関してではないのですが。

 偶然、これまでの歴代の皇族に関する資料を見つけてしまって……」


 と、戸惑いながらも声に出す。


「ふむ、これまでの歴代の皇族に関しての資料か」


 私の言葉を聞きながら、アルが興味津々といったように自分の手を止めて、一番に私の方へとやって来てくれる。


 そうして、アルが、私の傍へと来てくれたのを皮切りにして……。


 一応、お父様から許可はされているものの、自分は騎士だから下手にそういった資料を見ることは出来ないと……。


 律儀に、この場所に入ってからも、背表紙に書かれたタイトルだけを見て魔女の資料を探してくれていたセオドアと。


 別の場所で資料のページを捲って色々と探してくれていたお兄様が書類を元の場所に戻した上で、私を囲うようにして周りにそれぞれ集まってきてくれた。


「あの、そこまで、大したことじゃないかもしれないんですけど。

 これまでの、歴代の皇族に関して……、人達が多いんです。

 それも、みんな、比較的生まれて直ぐの頃に……」


 それから、みんなが傍に来てくれたことを確認して、私が声を出すと、私の手元にある資料を一緒に見てくれようと覗き込んでくれていたお兄様が。


「昔は、今ほど、医療の発展もしていなかったからな。

 そういう意味でも、生まれて間もない頃に、亡くなっている人間が多いのは頷ける話だが……」


 と、声に出して説明してくれる。


 確かに医療の発展がしていなかったと、言われてみれば、その通りのようにも感じてしまう。


 だけど、1歳の誕生日を迎えた皇族と、そうじゃない皇族とを比べてみた時には明らかに1歳の誕生日を迎えることもなく亡くなってしまっている皇族の人達が多いのは偶然なんだろうか。


 私が資料を見て気付いたことに関して、お兄様も思うところが無かった訳じゃないのか……。


「だが、一歳の誕生日を迎えず、ほぼ同時期に、これほどの人間が死亡しているのは、確かにどこか不自然だな」


 と、私の言葉を否定することもなく、同意するような声を出してくれた。


 だからといって、何があるのか、と言われれば、その根本的な内容に関しては直ぐには思いつかなかったけど。


 それでも、私自身、どことなく引っかかりを覚えて気になってしまった部分があるのは否めなくて。 


 暫く、色々と頭の中を悩ませつつ、より、手元にある資料について詳しく見てみれば……。


 他に分かったことと言えば、女性の皇族に比べて、亡くなっているのは男性の皇族の割合が圧倒的に多いということだろうか。


 その因果関係については分からないなりに、何かそこに意味があるのかもしれない、とは思う。


「むっ……」


 私達が、一冊の資料を中心に、パラパラとページを捲りながらも、何が原因で亡くなっているのかと頭を捻って色々と考えていると。


 突然、アルが何か気付いたとでも言うかのように、声をあげ……。


 私が捲っていたページを何ページか戻したあとで……。


「アリス、見てくれ……。

 ここに記載されている、この年代に死亡したとされる女の子供なんだが……」


 と、資料の中に書かれていた、1人の“皇女”に向かって指を差して、どこか興奮したように声を出してきたのが見えて私は首を傾げる。


 皇女の名前は“マリア”という名前で、やっぱり他の皇族の人達と同じように一歳になる前に亡くなっているのが私から見ても確認できた。


 当然、幼い頃に亡くなっている所為で、それ以外のことについて、詳しく記載がある訳ではないんだけど……。


 年代的に言うのなら、今から遡って100年くらい前の人だろうか。


 どうして、アルがその人に目を留めたのかその理由が分からなくて、『この人がどうしたの……?』と、問いかけるようにアルに視線を向けた私に対して……。


「実はな、アルヴィンが残してくれた“黒の本”があっただろう?

 あれの解析がまたほんの少し進んだのだが。

 黒の本に隠されたにアルヴィンの名前と並んで“マリア・フォン・シュタインベルク”という名前が記載されていたのだ。

 マリアだけならば、そう思わぬが……。

 確か、その後に続く“フォン・シュタインベルク”というのは、この国の皇族だけを差し示す姓なのだろう?」


 と、アルが此方に向かって説明してくれる。


 確かに、アルの言うとおり……。


 フォンというのは我が国では皇族の姓の初めに冠する称号であり、前置き詞として使われ『~出身』という意味がある。


 それに対して国の名前でもある、『シュタインベルク』が私達の姓になっているのは事実だった。


 基本的にこの国に暮らしている人だったら、知らない人はいないくらい……。


 周囲の人達からしても常識的なことなので、私自身、改めて、自分のフルネームを滅多に誰かに話すようなことはないけれど。


 精霊である、アルには前に人間の常識なんかを話すタイミングで自分の本名について話したことがあった。


 私が『アリス・フォン・シュタインベルク』だったり、お兄様が『ウィリアム・フォン・シュタインベルク』という正式な名前を持つように……。


 この国で、国の名前であるシュタインベルクを自分たちの『姓』にしているのは、皇族である私達以外には存在しない。


 だから、アルのいう黒の本に『』という記載があったのだとしたら、それは確実に、シュタインベルクの皇族のことを差し示す名前で間違いないと思う。


 マリアというのは、この世界では特別珍しい名前ではないけれど、歴代の皇族を見ているとマリアという名前を持つ皇族は、今、アルが指差してくれている人しか該当しなかった。


 ――でも、もしも、アルの言う通り、それが事実なのだとしたら、矛盾が生じてしまう


「オイ、アルフレッド。

 もしも、お前の言う通り、マリア・フォン・シュタインベルクっていう皇女が……。

 お前の半身と一緒に、黒の本を作った人間なら、可笑しくねぇか?

 だって、その皇女は、この本に記載されていることが正しければ、ことになってるんだぞ?」


 セオドアが直ぐにその事に気付いて、アルに向かって問いかけるように声を出してくれた。


 それを見て、1人、お兄様が、話についていけていないのを確認して。


 改めて私が、魔女の事について書かれた黒の本についてと、アルの半身であるアルヴィンさんのことなど一通りの事情を説明すれば……。


 全てを理解してくれたお兄様がセオドアと同様、『確かにそれは可笑しい話だな』と、考え込むように黙りこんでしまった。


「アルフレッド、そこに記載されていた名前は確かに、マリア・フォン・シュタインベルクという名前で間違いはなかったのか?」


 そうして、少し思案した後で、お兄様がアルに対して改めて問いかけてくれると、アルはそれを肯定するように、真面目な表情でこくりと頷いてくれた。


「うむ、その名前に、間違いがないということは僕が証明しよう。

 それに、本が作られた年代を見ても大凡おおよそ、100年ほど前だということで既に調べが付いているのでな。

 アルヴィンがこの国の皇女と共に、僕とアリスに魔女の能力について書かれた本を残したのなら、黒の本が皇宮の図書館に置いてあったというのも頷ける話だ」


 それから、更に詳しく説明してくれるアルの言葉には嘘なんてないと思う。


 そもそも、アルは普段から正直者すぎて嘘なんてつけないし、それは私だけじゃなくて、セオドアもお兄様も知ってくれていることだから。


 何の混じり気もない、一点の曇りもない、アルの言葉に……。


 私自身、頭を悩ませながらも。


「もしも、皇女である、マリアさんが一歳の時に死んでなかったのだとしたら、アルヴィンさんと共同で本は作れる、よね。

 この資料に書かれている内容が、間違っているのだとしたら……」


 と、今思いつく限りの範囲で、考えられることを口に出せば……。


「だが、これについては、国が保有している正史が記載されている筈の資料だ。

 基本的に、その内容に関して“間違い”など、どこにもあってはならない」


「だとしたら、ってことか? ……何の為に?」


 お兄様とセオドアから矢継ぎ早に、声が飛んできた。


 確かに、お兄様の言う通り、もしもこれが憶測で書かれていて、国が保管しているような資料じゃなかったのだとしたら、どこかに間違いがあっても可笑しくないけれど。


 国が管理しているものの以上、歴代の皇族のことを記載している書物に嘘があってはいけないというのは正しいことだと思う。


 そうなってくると、セオドアの言うように『敢えてそうしている』という言葉が、途端に現実味を帯びてくるような気がしてくる。


 私も頭の中で、それがどういう意味を持つことなのか色々と考えてみたけれど……。


「それは、まだ分からないが。

 もしかしたら、ということなのかも、しれない」


 ……あくまで、暫定的な推測ではあるものの。


 お兄様の方が、私よりも答えを導き出してくれるのがずっと早かった。


「世間的に、死んでなければ、拙かった……ですか?」


 その言葉が直ぐには、どういう意味を持つのか分からなくて……。


 お兄様の言葉をなぞるように出した、私の問いかけに、お兄様が難しい表情を浮かべながら『ああ……』と一度前置きしてから。


「アルフレッドの半身であるアルヴィンという存在が、黒の本を魔女達と一緒に作ったという……。

 お前達の言っていることが正しいのなら、歴代の皇女の中でもマリア・フォン・シュタインベルクは恐らくだ。

 だとしたら、早い段階で、歴史から……、ことで裏で生きることしか出来なかった可能性がある」


 と、言葉を選びつつ慎重になりながらも、今、思いついたであろう仮説を説明してくれる。


「裏ってのは、国の影とかそういう存在のことか?」


「あぁ、今は近隣諸国とは、殆ど友好条約を結んでいるお蔭で、戦争が起こるようなこともなく平和な世になっているし……。

 父上も魔女の待遇なども含めて長期的な目線で良くしていこうとしているのを感じるが、昔はそうではなかっただろうからな。

 ただでさえ、赤を持って生まれたことで生きづらかっただろうし、魔女や特殊な能力を持つ人間は“利用価値が高い”と判断されてしまいやすい。

 名前を消すことで表舞台から存在自体が消されて、裏で国の為に生きていたようなことは考えられなくもない」


 そうして、セオドアの問いかけに、答えるようにしてお兄様からそう言われて、私は思わず息を呑んでしまった。


 正史として、表向き、生まれて直ぐに死んでしまうような状況が作られることで……。


 実際は、裏で国の為に身を粉にして働いていた皇族の人達がいるんだろうか。


 確かにそれなら、一応の辻褄は合うような気がするけど。


 ――その名前も、もしかしたら国の為にしてきたかもしれない“今までの、活躍”も全て。


 何もかもが消えてしまい、決して表にさえ出てきていないことを思うと、それが、正しいことなのかどうかは、私にはよく分からなかった。


 それと同時に、女性の皇族よりも男性の皇族の方が亡くなった人数が多いのは、魔女が遺伝では生まれてこないのに対して……。


 もしかしたら、お兄様の持っているオッドアイの『太陽の子』という存在は、ノクスの民であるセオドアと同じように、ある程度、血筋や、遺伝が関係しているんじゃないか、と思ってしまう。


 そのことも含めて、以前、私達が話した際に、お父様から『国の暗部として動いている影の情報もある場所だから、おいそれと見せられない』と言われたことが、もしかしたらこの件に関することだったんじゃないか……。


 と、感じてしまうのは、私だけなのかな……?


「ふむ、成る程な……。

 確かに、これまで“赤を持つ者”に対して迫害してきたような、この世の歴史のことを考えれば、有り得ぬ話ではないと僕も思う」


 それから、ほんの少しだけ険しい表情を浮かべながらも、アルがそう言ってくれれば。


「逆を返せば、この時代に、“能力者”を殺さずに生かすことの出来る方法がこれしか無かったとも言い換えることが出来ると思うが……。

 この資料だけでは何とも言えないな。

 父上なら詳しく知っているかもしれないが、恐らくその情報を取り扱えるのは、歴代の中でも“皇帝”というくらいを持つ人間だけだろう」


 と、お兄様が冷静に声を出してくれた。


 それから……。


「どっちみち、これから魔女の資料を見たら、歴代の魔女の情報に関しては分かるだろ?

 確か、お前の半身の傍にいた魔女は“予知能力の魔女”だった筈だよな?」


 と、セオドアが私達に向かってそう言ってくれたことで。


 セオドアが、今、私達に何を言おうとしてくれているのかが、理解出来て、私は……。


「100年ほど前に、この国にいた魔女が、その能力を持っているって資料があれば、マリアさん自身が予知能力の魔女である可能性が限りなく高くなって。

 生きていたことの、実質的な証明になるってことだよね……?」


 と、声を出した。



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