それから、色々とあったけれど……。
1週間以上かかった旅の日程も終わって、久しぶりに王都へと戻り、慣れ親しんだ皇宮へと帰ってきた私は、お兄様とセオドアとアルと一緒に、休む暇もなくその足でお父様が仕事をしている執務室へとやって来ていた。
「父上、俺です」
短く簡潔に……。
お兄様が代表してお父様が仕事をしている執務室の扉をコンコンと、ノックしてくれると。
「ウィリアムか。……入れ」
という、お父様の声が中から聞こえて来て。
セオドアが全員が中に入ったのを見届けたあとで、話す内容が外に漏れ出ないように、しっかりと扉を閉めてくれる。
お父様は。
私とアルがこの場にいるということに一瞬だけ驚いたように目を見開いたけれど、それも直ぐにいつものような真面目な顔に戻ってしまった。
「珍しいな、アリスも一緒か? いつ、戻ってきたんだ?」
「はい、お父様。……先ほど戻ってきました」
それから、父様の問いかけに、私が答えたあと。
「父上、早速、
と、お兄様がお父様に声をかけてくれた事で。
お父様は、デスクの上で何かの書類にサインをしていたその手を止めて、完全に私達の方へと視線を向けてくれた。
そうして、完全に聞く態勢を取ってくれた所で。
お兄様が、アーサーの行方に関しては、今回の調査では結局分からずじまいで見つからなかったということ。
それから手がかりになるような物として“アーサーが母親に送った手紙”や、“ベラさんに送った手紙”。
“アーサーの母親が親戚に送った手紙”の内容について。
特に重要そうな所を、お父様に要点だけを絞って、説明してくれていた。
因みに、ベラさんのことについては、別荘から帰る道すがらにお兄様とも相談して、“ベラさんという幼なじみがアーサーにいる”ということはお父様に伝えるけれど。
『ベラさんが触れた物を凍らせる能力を持っている魔女』であることは、お父様には伝えないことにしようと、みんなで事前に決めていた。
お兄様曰く、もしも、お父様に彼女が魔女であることが知られてしまったら、恐らくお父様の立場上見過ごす訳にはいかず『能力者である彼女のことは、国で保護をする』という形になってしまい。
強制的にベラさんは
――彼女の命は、その殆どが自身の能力によって削られて、既に危険な状況になってしまってる。
……私は、此処に来るまでの間、帰りの馬車の中でみんなで話した遣り取りを一人思い出していた。
【父上が、もう殆ど命が削られている魔女に対して、国のためにと、無茶な使い方をしようとするとは到底思えないが……。
それでも、必要に迫られたら、魔女の能力に頼るようなことが出てきてしまう可能性は無いわけじゃない。
今現在、本人が、使いたい物のために自分の能力を使っている以上。
限りある人生を、また縛ってしまうような事になってしまうくらいなら、このことは父上には黙っておいた方がいいだろう】
【……意外だな、?
アンタなら、国の為になるんだとしたら、あの能力者を見逃すことはせずに、今回起こったことに関しては、逐一、皇帝に報告するべきだって言ってくると思ったが……】
【……あぁ、そうだな。
お前の言う通り。……以前の俺ならば、迷うことなく、そうしていただろう】
【あの、お兄様がお父様に内緒にしておいてくれるのは、ベラさんの事も考えたら、私は凄く嬉しいんですけど……。
お兄様は、以前と違って、何か心境の変化があったんでしょうか……?】
【あぁ……。……いや、お前が気にすることじゃない】
【……??】
あの時、お兄様は小さく口元を緩めたあとで、穏やかに私の方を見るばかりで。
結局、私にその理由を教えてくれることはなかったけど。
それでも、何にせよ、ベラさん本人の意思が優先されている今の状況は良いことだと思う。
「それから、父上。
アーサーは事件が起きた後、今から約1ヶ月ほど前に、一度ブランシュ村の近くに暮らす幼なじみであるベラの家に立ち寄っています。
その際、“
長年一緒に居たベラが“可笑しいと感じる”くらいには普段と様子が違ったみたいですが、残念ながらそれ以上の手がかりを得ることは敵いませんでした」
そうして、ベラさんが魔女であることは隠したまま。
淡々と報告を進めるお兄様の言葉にお父様が深く考えるような素振りを見せるのが私からも確認出来た。
今、お兄様からもたらされた色々な情報を、頭の中で整理してくれているのだろう。
「ふむ、成る程な。……お前の話は、
それで、アーサーの言っていた“天使”という存在が誰なのかは分からないまでも。
お前達は、アーサーが母親に送った手紙から十中八九、この国の貴族、それも皇宮で働いているような
それから……。
お兄様が話してくれた内容を元に、状況を直ぐに判断して。
私達に向かって声を出してくれるお父様のその言葉は、私達に質問をしているようでいて……。
殆ど100%に近いような“核心”を、ただ確認しているだけのような物になっていた。
「えぇ。……恐らく他国の人間が絡んでいるかもしれないという線は、今の段階で、ほぼ、捨ててもいいかと思います」
「そうか……。
もしもそうなのだとしたら、今ある状況から見てもアリスの事を嫌っているような人間か。
または、赤を持つ者についても未だに古い慣習に囚われ続けている、差別的な目線を持つ人間が裏にいる可能性は一気に跳ね上がるだろうな」
二人の間で、ぽんぽんとテンポ良く軽快に交わされていく会話に、1を聞いたら10を理解するってこういうことなのかなぁ、と……。
私が、改めてお父様の凄さを感じながら二人の遣り取りを黙ったまま、聞いていると。
「えぇ、そうですね。
ですが、父上……。もし……、もしもの話、この件に万が一“
と、お兄様から淡々とお父様に質問があって、私は首を傾げてしまった。
【……身内が関わっているって、どういう意味なんだろう……?】
咄嗟に、お兄様の表情を見ても、特に何も変わらない、いつものように無表情のままで……。
その顔色からは、どうやっても私にはお兄様の質問の意図を把握することが出来ずに、混乱してしまう。
……それは、お父様も同じだったのか。
「……それは、一体、どういう意味だ、ウィリアム。
身内に近いような“私の側近”が、犯人であるという可能性を示唆しているのか?」
と、ほんの少しだけ眉を寄せて。
いつも以上に難しい顔になったお父様が、珍しくお兄様の質問に“質問”で返していて、お互いに暫く無言で見つめ合うような
張りつめたような緊張感と……。
一瞬だけ冷えてしまったようなこの場の空気感に、思わずハラハラしながら、二人の遣り取りを見つめれば。
最初に動いたのは、お兄様の方で。
「いえ……。そういう訳ではありません。
申し訳ありません、俺自身、自分の考えも碌に纏まっていないのに、この話を父上にしたこと自体が間違いだったと思います。
今の言葉はどう考えても失言でした、忘れて下さい」
と……。
どこか、苦い表情を浮かべながらお兄様がお父様に向かって、声を出したのが聞こえてくる。
「ふむ、お前が自分の考えも碌に纏まっていない状態で、私に質問をしてくるとは珍しいこともあるものだな。
だが、例え私の側近であろうとも、罪を犯した人間を許すほど私は甘くない。
犯した罪の大小に関わらず、定めた法に則って、“国”にとって何が一番大事なことなのかを考えた上で、公正な沙汰を下すだろう」
そうして、はっきりとお兄様だけではなく私達に向かってそう言ってくるお父様は、やっぱり国を護る一国の
巻き戻し前の軸も含めて、私が、一番よく見慣れている表情を浮かべていた。
その言葉に……。
「えぇ、そうですね。……父上ならば当然、そう仰ると思っていました」
と、納得したような言葉を出しながらも。
あまりにも無機質な声色と、全く変わることのない無表情さに。
最近のお兄様は、ほんの少しでも、喜怒哀楽が分かるくらいには表情が変わることが多かったから、逆に私は驚いてしまう。
まるで、自分を律しているみたいなその姿に……。
【もしかしたら、お兄様は、今回の事件の裏にいる人の目星が付いているのかな……?】
と、一瞬だけ思ったけれど。
――もしも犯人が分かっているのだとしたら、お兄様は少なくともお父様には絶対に報告するだろう。
私がお兄様とお父様の遣り取りを見ながら、ほんの少しだけ、思考に時間を割かれてしまっている間……。
「うむ、皇帝よ。
すまないが、諸々、必要に迫られて、やむを得ず道中で“魔法を使う”ことになってしまってなっ……!
致し方なかったのだが、ウィリアムには僕の正体も、精霊と魔女の関係についても説明しておいたぞ!」
と、二人の話が切れたタイミングでアルがお父様に向かって、さらっと声を出してくれた。
その姿を確認したあとで、お父様は私とアルに視線を向けてから、ほんの少しだけ渋い表情を浮かべながらも。
この場にアルが付いて来ていたということで、どこか予想はしていたのか、小さく頷いてくれるのが見えた。
「……そうでした、か……。
いや、事件の早期解決のためにと、
精霊王様が珍しくこの場にいらっしゃった事を思えば、少なからずそう言った話が出るのではないかと覚悟していましたが、やはり、ウィリアム、お前も知ることになったか……」
「……えぇ、父上。
アルフレッドの件に関しては、誰にも口外するようなことはないと、今この場で誓いましょう」
それから、お父様の言葉にお兄様が声を出して、アルのことを口外することはないと誓いを立てて宣言してくれれば。
難しい表情をしたままのお父様が、一瞬だけ、私の方をちらりと見た後で、お兄様の方に向き直るのが見えた。
「あぁ、精霊王様の正体は、国が隠さなければいけない最上級の秘匿情報だからな。
必要以上に、その情報が他国に知られてしまえば、精霊王様の身柄については、どの国も喉から手が出るくらいに欲しがるだろう。
それに、アリスと精霊王様が唯一無二の契約者であることを知られれば、アリスのことを“正妃”にしたいと望んでくるような国も出てくる筈だ」
――友好のカードとしては、
そうして、お父様が、淡々と状況を説明してくれると。
アルが驚いたような表情を浮かべるのと、お兄様が驚いたような表情を浮かべるのは殆ど同時だった。
更に、普段、お父様の前では……。
私の為に、真面目な雰囲気を敢えて作ってくれているセオドアですら、眉を寄せて一瞬だけ不愉快そうな表情を浮かべたのが見えたんだけど。
みんなのその反応の意味が、一人だけよく分かっておらず、首を横に傾げてから。
私は、おろおろと視線を、みんなの顔へと行き来させながら、その表情を確認するように見てしまう。
「な、なんだとっ……!
僕の正体がバレたら、アリスは他国の正妃にされてしまう可能性があるのかっ!?
おい、皇帝よっ! それは、アリスの意思を無視した、無理やりという訳ではないだろうなっ!?」
「いや、アルフレッド。……この場合、問題になるのはそっちではない。
アリスが魔女である以上、そしてお前と契約している以上、余程我が国とも釣り合いが取れるような大国ではないと、例え、正妃という立場であろうとも、アリスを他国に嫁がせるという選択肢など父上には無いはずだ」
「……うん?
ウィリアム、その説明だと、今一よく分からぬのだが、それなら別に構わぬ、のではないか……?
とりあえず、アリスは無理やり他国に嫁がせられるということは無いのだな?
むっ? ちょっと待てよ、……? ならば、何が問題なのだ……?」
「……つぅことは、だ。
“あの銀髪野郎”と、姫さんが婚約した時点で、その婚姻は“ほぼほぼ、決定的”になっちまうってことだろう?」
そうして、お兄様とアルの会話にそっと割り込むようにして……。
さらっと、今まで全く喋ることのなかったセオドアが吐き捨てるように声を出したことに私は思わずびっくりしてしまった。
「……なんだっ、そういうことか。……まったく、驚かせるんじゃない、ルーカスかっ……!」
そうして、セオドアから見知った名前が出てきたことに、一瞬だけ安堵したような声を出したアルが。
「うんっ……!? ちょっと待てっ、アリスと、ルーカスがっ……?」
と、目を見開いたあとで、驚きに満ちあふれたような声を出してきて。
「オイ、今の今まで、お前は一体、何を聞いていたんだ……?
ずっと、俺たちの間で、その話は何度も出ていたはずだろう……?」
と、お兄様がアルの様子に困惑するという謎の現象が起きてしまった。
お兄様の言葉に、アルが取り繕いながら
「むぅ……っ!
そもそも僕達精霊には、人間のように生殖するような機能は備わっていないし。
婚姻だの、なんだのと言われても、確かにお前達が何か、込み入ったようなそういったことを話しているなぁとは、思っていたのだが……。
人間同士の結婚については、最近、本で知ったばかりだからっ、その……、今まで、アリスとルーカスとの婚約という物が現実味を帯びているということも、僕は、あまりピンと来ていなかったというか……」
と、珍しくしどろもどろに声を出してくるのを聞いて。
確かに思い返してみると、アルが精霊だということもあるのか……。
そう言った話には、今まで入ってくることも一切無かった気がするなぁ、と私は思ってしまう。
――本人は、あまり、ピンと来ていないまま、今まで色々なことに付き合ってくれていたんだろうか?
そう言えば、以前、私がルーカスさんにデートに誘われた時も、アルだけは一人……。
【うむ、よく分からぬが、チャラチャラしていて、お前は信用出来ぬ。僕もついていこう】
って、言ってた気がする。
そもそも、ずっと森の中に引きこもっていたんだから、人間の生活などに関してアルが詳しくないのも当然のことのように思えるし。
あれが、本当に“デート”という物が何なのか、全くよく分かっていなくて出た言葉だったのだとしたら納得も出来た。
ブランシュ村に行く前に、お兄様が予約を取ってくれて、丘の上のレストランに立ち寄らせて貰った時も、ルーカスさんの話は出たけれど。
私達が当たり前に会話をしている間も、アルはにこっと笑顔でルーカスさんとも一緒に旅行が出来ればいいと励ましてくれただけだったから……。
アルにしては本当に珍しく、根本的な意味ではずっと。
私とルーカスさんが婚約を結ぶということに関しては、その話を聞いてはいたものの、あまりピンと来ていなかったのかもしれない。
私がアルの発言に驚いていると……。
「ちょっと待ってくれ……っ!
精霊王様のことがバレてしまったのはまだ分かる。
だが、ウィリアム。……お前、今、アリスが魔女であるということを、まるで分かっているかのように、ナチュラルに発言しなかったか?」
と、まるで理解が追いつかないといった感じで、待ったをかけるように、お父様から声がかかって。
私はデスクの前の椅子に腰を落として座っているお父様の方へと視線を向けた。
そうして、驚いたような表情を浮かべて、珍しく一瞬だけ狼狽した様子を見せるお父様に……。
「あぁ、まぁ、そうですね。事情を話せば長くなるんですが……」
と、声に出してくれたお兄様が。
私達が調査をする過程で……。
ブランシュ村に住んでいた人達に、領主から、アーサーの家を調査するという事情が、上手いこと伝わっておらず、警戒心を抱かれてしまったということ。
それから、ブランシュ村の住人に顔が利く、アーサーの幼なじみであるヒューゴに出会って。
そこから、アーサーだけではなく、ヒューゴの幼なじみでもある“病気”のベラさんの為に黄金の薔薇探しの為に洞窟に入ったこと。
そこで起きてしまった事件についてなども、順を追って事細かに説明してくれる。
流石に、『自分も特殊な力を持つ“太陽の子”』であるということは、お兄様の瞳のこと自体を、まだお父様に言っていないこともあって。
言うか言わないか、ほんの少しだけ迷うような
それ以外は、ほぼ、全てのことを時系列に沿って話してくれていた。
【自分が、本当は、
特にお兄様は、私とは違って、今まで生まれてきてからずっと……。
その事実を自分の意思とは裏腹に、隠さなければいけないという環境に身を置いていただけに、お父様にそのことを話すというのは、本当に凄く勇気がいることだと思う。
お兄様のその気持ちが、もの凄く分かってしまうだけに……。
ハラハラしながら、内心で、お兄様の心配をしていたら。
みんなの視線が、私の方に向いているということに気付くのが遅れてしまった。
「……??」
――一体、どうしたのだろう?
と、思いながら、何か言わなければいけないと、口を開きかけた所で……。
「アリス、お前、一日に2回も能力を使ったのか……っ? 身体の具合は大丈夫なのかっ!?」
と、お父様から心配そうにそう言われて、私は思わずびくりと肩を震わせてしまった。
そう言えば、今はそんな話をしていたんだった……。
お兄様が“自分の片目”のことを、お父様に言うか言わないか悩んでいることに気を取られてしまって、何とも思わなかったけれど。
洞窟で能力を2回も使ってしまったことがお父様にもバレてしまった所為で……。
みんなの視線がこんな風に私のことを気にかけてくれるような物になったのだということに気付いた私は……。
「はい、でも、直ぐにアルが癒やしてくれたので大丈夫でした」
と、にこりと笑みを溢しながら『今は本当に何ともないのだ』と、しっかりとお父様に説明する。
私の言葉を聞いて、周囲の人達の顔色が、ほんの少し険しいような物へと変化していくのを見て、申し訳ないような気持ちが湧いてくるのを感じながらも。
「あ、あの……っ。
でも、もし良かったら、国が把握している、魔女のデータなんかは見せて貰えたら嬉しいかな、って……。
もしかしたら、その情報と照らし合わせて考えたら、自分の能力が何回使えるかの指針にはなるかもしれない、ので……」
と、お父様に向かって、おずおずと声を出した。
別に自分の事に関しては、みんなが心配してくれるから“
国が把握している今までの魔女のデータに関しては、ベラさんのこともあるから『何か役に立つような情報が得られるかもしれない』と、私にも確認出来るなら色々と知っておきたいと思っていた。
アルの正体が他国にバレてしまうのと同じくらい、各国が有する魔女の詳細なデータに関しては秘匿された情報になる。
巻き戻し前の軸の私は、色々と独自に魔女について調べていたけれど。
お父様に頼んでも“国が有する魔女の根幹に関わるようなデータ”については、絶対に見せては貰えなかった。
――だけど、今なら当事者だし
もしかしたら、見せてくれるかもしれないという淡い期待を持って、私はお父様の方へと視線を向ける。
「……そうだな、魔女のデータか。
見せてやりたいのは山々だが、あそこは、“国の暗部として動いている影”の情報についても置いてある場所だからな。
例え、お前達であろうとも、おいそれと見せる訳にはいかない」
だけど、お父様から返って来た言葉は、半ば自分が予想していた通りの答えだった。
あくまで淡い期待だったから……。
そのことで、落ち込んだりはしないけど、それでも“ベラさん”のことを思うと、今までに、国が保有していた魔女の情報が分かるだけでも。
ほんの少しでも手がかりにはなったかもしれない、という気持ちはどうしても湧いてきてしまう。
私がちょっとだけ俯きながら、お父様の言葉に“それなら、仕方が無いよね”と思っていると……。
「だが、精霊王様に見て頂けることによって、より詳しく魔女に対しての理解も深まるかもしれないだろう?
禁書が置いてある場所へ通す訳にはいかないが、私が見せてもいいと判断した物は、鍵のかかるセキュリティーが万全の部屋でのみ、お前達にも目を通すということを許可しよう」
唐突に、お父様から、思いがけない許可が出て、びっくりしてしまった。
「あ、ありがとうございます……っ!」
その言葉に、顔を上げて、お礼を伝えれば……。
「いや、礼などを言う必要はない。
魔女の詳細な情報が欲しいのは、どこの国でも同じだろうからな……。
精霊王様が来て下さったことで、我が国の魔女についての研究が少しでも進んで、恩恵を得られているというのは事実なんだ」
と言う言葉が、お父様から返ってきた。
「……そういえば、父上。
確か、ソマリアには“魔女について研究している第一人者”がいた筈では?」
「あぁ、ソマリアの第一皇子……。
“好んで赤を身に纏う”と言われている風変わりな、技術屋のことか」
それから……。
お兄様とお父様の会話の遣り取りが耳に入ってきて、私はきょとんとした後で、二人に向かって首を傾げる。
「……ソマリアの第一皇子、ですか……?」
巻き戻し前の軸も、特に聞いたことが無かった人だったので、その詳細な情報を私は知らなくて、二人に問いかけるような形になってしまったけれど。
『
お兄様が魔女について研究している第一人者と言っていることから、その人が“研究者”だと呼ばれているのなら分かるんだけど……。
【“技術屋”と呼ばれているのは一体、なんでなんだろう……?】
私が不思議に思ったことが、二人に伝わったのか……。
「ソマリアの第一皇子は、とにかく言動が破天荒で、自分の事を魔女に関する研究のスペシャリストだと豪語していてな。
その格好も何もかもが派手で奇抜で、“機械弄り”が趣味だという人間だ。
良くも悪くも、国内外問わず、目立っているが、それで、国に役立つような機械を開発しては、若くして色々とソマリアを発展させてきた経歴の持ち主でもある」
と、ソマリアの第一皇子について、お父様から更に詳しく教えて貰えた。