目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第249話 魔女との出会い



 私の言葉を聞いて、ヒューゴが感謝するように『えぇ、もし、そうさせて貰えるのならこっちから、お願いしたいくらいです!』と声に出してくれた。


 その言葉にホッとしながら、ブランシュ村から少し離れた森の中に暮らしているというベラさんの元へ薬を届けに行くついでに、私達も一緒にお邪魔させて貰う方向で話が纏まって……。


 ほんの少し、経った頃……。


 ずっとこの場所にいる訳にもいかないし。


 一度は、セオドアやお兄さまとも合流した方が良いだろうということで、私達がおば様の家からおいとましようとした瞬間だった。


 コンコンと、玄関のドアをノックする来客を知らせる音がして。


 おば様が家の中から出てくれると、ベストタイミングでお兄さまとセオドアが私達のことを迎えに来てくれた。


「アーサーに関して、ブランシュ村での聞き込みは粗方終わったが、お前達の薬作りは今、どんな感じなんだ?

 まだ、時間がかかりそうか……?」


 そうして、問いかけるように声を出してくれたお兄さまに向かって。


「いや、薬作りならもう終わったぞ。

 僕達もお前達と合流しなければいけないと話していたところだ。……これから、ヒューゴについて、ベラの家に行くのでなっ!」


 と、アルが私達の事情について、言いたいことから入ってくれるのを聞いて。


 その意味が分からず『どういう事なんだ……?』と首を傾げたお兄さまに、私がヒューゴから聞いたベラさんの話を詳しく説明すれば。


 このブランシュ村の近くに魔女がいて、急遽、その人に会うことになったということに、驚いた様子だったけれど。


 私達がベラさんが住んでいるおうちに向かうことは、2人とも直ぐに納得して了承してくれた。


 私が魔女であることについては、ここにはヒューゴだけじゃなくて、おば様もいる手前。


 誰もそのことに触れたりするようなことは無かったけれど。


 ヒューゴと彼女を除いた、私達の共通認識として。


 魔女と精霊が、密接に関わりがあるということはみんな知っているし。


【もしも、苦しんでいる魔女を手助けするようなことが出来るなら】


 と……。


 お兄さまやセオドアも私とアルの意見には賛成してくれたのだろう。


 わざわざ、お家の外にまで出て、私達のことをお見送りしてくれたおば様にクッキーのお礼と別れを告げて。


 私達は、ヒューゴの案内で、ブランシュ村を出て、ベラさんが住んでいるという森の中に入ることにした。


 ――人里離れた、森の中は。


 人間の手入れもされておらず、もっと、木々に覆われて鬱蒼うっそうとしたような雰囲気があるのかなと思っていたけれど。


 舗装されていない道は、木々の隙間から、木漏れ日が差し込み、想像よりも太陽で明るく照らされていて。


 砂利じゃりや、入り組んだような感じはあるものの、それでも視界がひらけている分、思った以上に歩きやすい道になっていた。


 私達以外の人がいなくなった、そのタイミングで。


 私はセオドアとお兄さまに、ヒューゴに自分が魔女であることが知られてしまったと、伝えておく。


 最初は2人とも、私の能力が他人に知られたことに関して、私を心配してくれて一瞬だけ険しい表情を浮かべて驚いた様子だったけれど。


 バレてしまったのがヒューゴだし、他の誰かに話すようなことはしないと約束してくれて、特に問題ないということと。


 その流れで、ベラさんの話にもなったのだということを話せば、それで納得はしてくれた。


 それから。


 ゆっくりと整備されていない森の小道をみんなで歩きながら……。


「アルフレッド様が色々な知識に詳しいのは知っていましたが……。

 ベラの体調についても診ることが出来るほど、アルフレッド様はそんなにも魔女の知識が……?」


 と、少しだけ、半信半疑で、困惑するような声を出してきたヒューゴに。


「はい。……私のこともいつも、アルが診てくれているんです」


 と、私は声をだして、にこりと自分の口元を緩めた。


 魔女については、この世の中でも、謎のベールに包まれて分かっていないことの方が多く、専門的な知識を持っている人間の方が少ないのは一般常識だ。


 能力者と一口ひとくちに言っても、私達が使える魔法は、本当に魔女によって千差万別だし。


 同じ能力を有している魔女を見つけることの方が困難なのだから、彼女達に対する研究もあまり進んでいないのが現状だ。


 私も巻き戻し前に


【皇族として、もしも自分が魔女の能力を持っていたら、何か役に立てることがあるんじゃないかと……】


 躍起やっきになって一時期、魔女の能力や、反動などについて調べていたようなことがあったけれど。


 得られる情報はそこまで多くなく。


 特に、能力を使用した魔女を治すことが出来る治療法などは確立されておらず。


 基本的に能力を使ってしまった魔女は、ただ、悪戯に命を削っていくしかないということは一般的な共通認識でもあったから……。


 ヒューゴが、アルのそういった知識に対して。


 本当に魔女の状態を診ることが出来るのかと、半信半疑で不安に思ってしまうのも頷ける話だった。


 私達が森の中を進んで行くと、やがて、ブランシュ村にもよく建っていて目にする機会が多かった、わらぶきの小さなお家が見えてきた。


 ――この家が、魔女であるベラさんのお家なんだろうか……?


 ヒューゴが玄関の扉をノックしてくれると、留守だったのか、静まり返った部屋の中からは、特に誰か人の気配があるような感じもせずに私達は顔を見合わせる。


「もしかして、留守なんでしょうか……?」


 困惑しながらも、ヒューゴに問いかけるようにそう聞けば。


「……あぁ。

 ベラの奴、家にいねぇってことは、多分、御貴族様おきぞくの家に行ってるんじゃねぇかな」


 と、少しだけ唇を噛みしめたあと、ヒューゴからそう返ってきて私は首を傾げた。


「それって、ベラさんが能力を使うために契約しているという……?」


 その貴族が、一体誰なのかとか……。


 そんなにも、ここから直ぐに行ける程、この村の近くに貴族が住んでいるのだろうか……?


 とか、そういった疑問が湧いてくる中で。


 問いかけた私に、ヒューゴがこくりと頷いてくれてから。


「この森から少し行った所で、ひっそりと暮らしているんだそうです。

 ベラに聞いても、いつも、契約の内容は秘密だから喋れないっていうばかりで……っ」


 と、言葉を返してくれた。


 ヒューゴからのその言葉に、驚いてしまって、思わず


「その貴族の人は、領主とは、また違うんですよね……?」


 と、聞き返してしまった。


 大体、貴族というのは都心部に住む人が多いものだし。


 自分たちの領内で暮らしていても、その中でも便に住んでいる場合が殆どだ。


 だから、ブランシュ村の近くに住んでいる貴族で。


 しかも、自分たちの領地ではない場所に暮らしている、というヒューゴの説明に、全くピンとこなくて、不思議に思ってしまった。


 避暑地として空気の良い所で、休暇を取って、定期的に静かな森で過ごしたいと、別荘などを所有しているとかならまだ、分かるんだけど。


 普段から、ここに暮らしていると言われると、疑問ばかりが頭の中を駆け巡っていく。


 ――そんな貴族の人がいるんだろうか……?


 もしも、いるのだとしたら。


 一体、どういった目的で、この辺りに暮らしているのだろう。


【自然環境が気に入ったとか、そういう理由なんだろうか……?】


 仮に、そうだとしても、自分たちの領地の経営などで。


 ずっとこの場所に暮らすということは難しい筈だけど、そういった事は全て従者に任せているのかな……?


 内心で、色々と考えてみたけれど、どれも自分が納得出来るだけの材料にはならなくて、ますます謎が深まってしまう。


 私と同様に、お兄さまも殆ど同じような考えに至ったのだろう。


 ヒューゴから聞いた情報だけで、もの凄く思考を巡らせてくれているのが、傍から見ても私にも感じ取ることが出来た。


「貴族の方が住んでいるという所に行ってるのだとしたら、ベラさんは今日中に帰ってくることは無いんでしょうか……?」


 とりあえず、留守の状態なら、ずっとこの場所に留まっている訳にもいかないだろう。


 ベラさんがいつも、大体、どれくらいに帰ってくるのか、ヒューゴなら分かるかな、と思って問いかければ。


「あ、あぁ……。

 いや、アイツ自体、どんなことがあろうとも、何日も帰ってこなくて家を空けるようなことは無いはずです。

 それに、もしかしたら、貴族のとこじゃなくて、森の山菜などを採りに行ってる可能性もありますし……」


 と、他にも思い当たるような節があったのか、色々と考えられる範囲のことで、ベラさんが行きそうな場所について教えてくれた。


「それなら、みんなで手分けをして森の中でベラさんを探してみるのはどうでしょうか……?」


 それを聞いて、私はみんなに向かって今自分が思いついたことを提案してみる。


 ここでいつ帰ってくるのか分からないベラさんのことを、ずっと待っているよりは。


【いつもベラさんが山菜などを採るのに行きそうな場所が分かっているのなら。

 そちらに向かって歩いてみた方が遭遇できる可能性も高まるんじゃないかな】


 と、思いながら……。


 二手に分かれて散策した方が良いんじゃないかと、説明すれば。


 みんな、私の意見に賛成してくれて。


 大体、この場所に戻ってくる時間だけ決めて……。


 私とアルとセオドア、それからお兄さまとヒューゴで二手に分かれて彼女を捜すことになった。


 ヒューゴとお兄さまは、ベラさんがよく行っているという、薬草などにも使える葉っぱなどが自生している方へ。


 私達は、更にこの森の奥に『貴族のお家がある』と、ヒューゴに教えて貰った方角へ向けて、歩き始める。


 ――それから、どれくらい経っただろうか……?


 セオドアとアルと一緒に、じゃりじゃりとした砂を踏みながら、ゆっくりと歩き慣れていない森の中を慎重に進んでいると。


 段々と細い道から、開けたような場所へと出た。


 森の中ということで、空気が透き通る程に澄んでいて、豊かな自然を実感しながらも。


 山あいにあるこの道は、3方向に分かれていて。


 私はアルとセオドアと3人で顔を見合わせる。


「……これって、どっちに向かって歩けばいいのかな……?」


「ふむ、ヒューゴが教えてくれた経路があまりにも適当すぎて……。

 ここから先、どこに向かえばいいものなのか、全く分からぬな。

 ……うむっ! ここは一つ、棒でも倒して、神頼みしてみることにしようっ!」


「オイ、アルフレッド、いい加減なことを言うなよな……。

 それで、間違った道に行くことになったら、洒落しゃれになんねぇぞ」


「むぅ……。だが、何か他に良い案があるか?」


 ヒューゴに教えて貰ったのは、大まかな方角だけだった為。


 ここまで、分岐がある道が出てくるとは思ってもいなかった私達は困惑してしまう。


「……とりあえず、貴族が住んでいるお家だったら目立つ、よね……?

 それぞれの道に、少し進んだ所で、そういったお屋敷のような家が建っているのか、確認するのが良いんじゃないかな……?」


 2人に向かって、私がそう言えば『確かに現状、それしか無いか……』という空気が、セオドアとアルの間に漂ってくる。


 3人でそう決めて、先ずは右の道を見晴らしの良いところまで少し進んでみようと、私達が歩き始めた瞬間だった。


 遠くに、どんな人なのかは把握出来ないけれど、此方に向かって歩いてきている人影を見つけて。


【丁度良いタイミングで、人影が……】


 と、思いながら、あの人に聞けば、何か分かるかもしれないと前に進めば。


 ――ちょっとだけ、苦しそうな雰囲気で。


 遠くにいる人影が、その場にしゃがんで、うずくまったような態勢を取ったことにびっくりして、私は思わず、今いる場所から慌ててそっちに向かって駆け出していた。


 走って近づくにつれ、その人が段々、どんな状態なのかということは、私の目にも見えてくる。


 フードを目深に被って、俯いてしまっているため、顔が見えないから、分からないことも多いけれど。


 スレンダーで、背の高そうな女性だということは私にも確認出来た。


 胸を押さえて、ぜぇ、ぜぇ、と息を切らしながら、苦しそうにしている雰囲気からも。


 彼女が、何か、病気だったり、辛い状態なのだということは一目瞭然で。


「……あのっ、大丈夫ですか……? 体調が悪いんでしょうか……?」


 と、心配して問いかければ。


 私の声を聞いて、目の前で、顔を上げながら『あぁ、大丈夫です……っ、いつものことなんで……』と、私を見てきたその人が、私を見た途端、驚愕したように、目を大きく開いて固まったのを見て。


 私もびっくりしてしまう。


「……っ! ようせい、ちゃん……?」


「……? ようせい……?」


 そうして、『ようせいちゃん』という謎の単語を声に出されて、首を傾げながら。


 ――その言葉の意味を。


 頭の中で、丁寧に翻訳し直して、もしかして、『妖精ちゃん』って、言われたのかな……?


 と、思ったあとで……。


 アルが妖精って言われたのだとしたら、私達のように親しい人達は、文字通り、し。


 アルの顔つきからも天使みたいな風貌をしているから、そういう意味で言われたのだとしたら、まだ分かるんだけど。


 私が誰かから妖精って言われるのは、全く理解出来なくて、その言葉に困惑しながらも、オウム返しのように問いかけるような声を出してしまう。


 ……そんな私を見ながら。


「あぁっ……。ご、ごめんねっ。

 ……っ、は、ぁ……っ、あなたが、アタシの知っている子によく似てたから。……こんな所に、あの子がいる訳、ないのにね……っ!」


 と、目の前の人から、体調が悪そうで苦しそうにしながらも、どこか自嘲するような笑みが返ってきて、私は目を瞬かせた。


 ここに来るまで気付かなかったけど、よくよく見れば。


 目の前の人が、被っているフードから、私と同じ、赤色の前髪がはらりと揺れるのが確認出来て。


「もしかして、ベラさんですか……?」


 と、私は思わず声をかける。


「……っ、! あなた、どうして、アタシの名前……っ!」


 ピンポイントで、私がその名前を呼んだことに、驚いた様子で顔を上げ。


 此方をまじまじと見つめてくるその人に、『……やっぱり』と、内心で思いながら。


「あの、事情を話せば長くなるんですけど、ベラさんのことは、ヒューゴから聞いて知りました。

 そのっ、ベラさんが魔女だっていうことも……。

 今、丁度、ベラさんのお家を訪ねた後に留守だったので、みんなで捜していた最中で……」


 と、私は声をかけた後で、後ろから少し遅れて駆けつけてきてくれたアルの方へと視線を向けてから。


「あのっ、立てますか……? 能力の反動で動けないようでしたら、無理はしないで下さい」


 と、声をかける。


 刹那、わなわなと目の前で震えるような感じになったベラさんに、やっぱり体調が優れないんだろうと……。


 私がアルに、ベラさんの事を見て貰おうと、自分が今いるこの場所を譲ろうとした瞬間


「……っ、あの野郎……っ! こんな幼子に何の説明してんのよっ!

 アイツ、今日会ったら、タダじゃおかないんだからっ! 怒りの鉄拳を喰らわせてやるっ!」


 と……。


 ベラさんが、どこか、勝ち気な雰囲気を漂わせながら。


 私の心配をしてくれつつ、スクッとその場に立ちあがって。


 ここにはいないヒューゴに向かって怒りの表情を浮かべ、思いっきり拳を握りしめるのが見えて、私は思わずびっくりしてしまう。


 ――ずっと、私以外の魔女がどんな人なのだろう、と……。


 出来れば、会ってみたいと思っていたけれど。


 いざ、実際に会って見ると、ベラさんが凄くしっかりとしたパワフルな感じの人だったことに……。


 ヒューゴの話を聞いていただけの印象しかなかったため、想像していた人と、ちょっとだけ違って驚いてしまったけれど。


 そのままの勢いで、貧血になったように“ふらぁっ”と傾いたベラさんを見れば。


 やっぱり“彼女も魔女なのだ”ということが、どうしようもないくらいに理解出来て。


 内心で焦りながら、慌ててその身体を支えようとした私に。


「……っ、あぁ、ありがとう、ごめんねっ!

 そんな小さな身体でアタシを支えようとしてくれなくても、全然問題ないのよっ!

 ほら、見ての通り、アタシはこれだけ、元気なんだからっ!」


 と、ベラさんがにこっと笑みを溢しながら、そう声を出してくれた。


 確かに、ベラさんのその表情には、やる気に満ちあふれた活力のようなものはあると思う。


 でも、パッと見て、その顔色は青白いままだし、私ももしかしたら能力を使った後は、こんな感じでみんなに迷惑をかけてしまっているのかな、と……。


 一目で分かるくらいのものだった。


 ただ、不思議とベラさんのその発言には、あまり無理をしているような印象は受けない。


 本人的には無理をしているつもりなんて全くないタイプの人なのかもしれない、と……。


 ――そのことが尚更、私の心配を掻き立てた。


「あのっ、ベラさんと同じで、私も魔女なんです。

 だから、能力の反動がどれくらいの物なのかは理解しています。

 もしもベラさんが、これからお家に帰る所なら、良かったら手を繋いで一緒に帰ってくれますか?」


 あまり、彼女の負担にならない程度に。


 迷惑じゃなさそうな範囲で声をかけて、少しでも倒れたりするようなリスクを軽減させようと。


 そっと手を差し出せば。


 驚いた様子で此方を見ながらも、パァァァ、と一気に表情を綻ばせて微笑みながら、ベラさんが……。


「あら、やだ……っ! 滅茶苦茶、可愛いっ!

 ありがとうっ! そんな口説き文句で誘われたの、アタシ、初めてよっ!」


 と、明るい声を出してくれる。


 そうして、私に向かって自分の手を出してくれながら。


「ごめんね、さっき、能力を使ったばっかりだから。

 アタシの手、ちょっと冷たいと思うけど、駄目そうならこの手、離してくれていいからね」


 苦笑しつつ、そう言われて、私はベラさんの手を握りしめた後で、びっくりしてしまう。


 確かに、事前に、そう言われていたけれど……。


 ベラさんのその手は、おおよそ、人間の手とは思えない程に、冷たいと形容できる範囲を超えていて。


 もしや、元気に振る舞っているだけで、その体調は本当に酷い物なんじゃないかと、1人でおろおろしてしまう。


「あ、あのっ……この手……。

 もしかして、ベラさん、そ、そんなに、体調が悪いんでしょうか……?」


 突然のことにどうしていいのか分からず。


 思わず、率直に問いかけてしまった私に対して、ベラさんは快活な笑みを溢しながら。


「あらっ? やぁねぇ、違うのよっ!

 私の能力が触れた物を凍らせる事の出来る能力だから、年中、私の手は大体、こんな感じで冷え冷えで、生気が無いのっ!」


 と、声を出してくれる。


 魔女である自分の能力を隠すこともなく、あっけらかんとしたような物言いに、びっくりするのと同じくらい。


 まるで悲壮感など欠片も感じないくらい、明るい雰囲気のベラさんに。


 同じ能力を持つ者として、尊敬の気持ちが湧き上がってきて、凄いなぁ、と思っていると……。


「あら? 今まで、気付かなかったけど、よくよく見たら、メンズもいたのね?

 可愛い女の子の手のひらをアタシが独り占めして悪いわね、あなたたちっ!」


 と、言いながら、ベラさんが私と繋いだ手をちょっとだけ高く掲げて、何故か、アルとセオドアに自慢するように声をだしてくれる。


 ――私には男の兄弟しかいないから、よく分からないけれど。


 もしも、自分にお姉さんがいたらこんな感じなのかなと、ちょっとだけほっこりしたような、嬉しい気持ちになりながらも。


 さっき、ベラさんが。


【ごめんね、さっき、能力を使ったばっかりだから。

 アタシの手、ちょっと冷たいと思うけど、駄目そうならこの手、離してくれていいからね】


 と言っていたことを、私は思い出していた。


 どう考えても……。


 彼女が今日、能力を使ったことは間違いなくて、ほんの少し前までは本当に、その場に蹲ってしまうくらいに体調を崩していたのだと分かるから。


 彼女の明るくて快活な雰囲気とは裏腹に、どこまでも気は抜けないな、と思う。


【今も、本当は立ち上がるのも辛いような状況で、無理をさせているのだとしたらどうしよう……?】


 と、内心で考えつつ……。


 子供だし、私の歩幅がゆっくりだという事にして、意図して歩くペースを落としながら、ぎゅっと、彼女の手のひらを強く握りしめると。


 私の方を見てくれるベラさんの視線がどこか、温かい物へと変わっていくのを感じて私も表情を緩ませた。


「ヒューゴからは、アンタの体調のことを聞いてきたんだが……」


「うん?

 あら? もしかしてあなたたち、アイツに言われて、アタシのことを探してくれてた訳?

 アイツ、本当に何でもかんでも、大袈裟に言うのが得意なのよっ!」


 そうして、セオドアがベラさんに向かって、控えめに問いかけるような声を出してくれると。


 ベラさんが、大きく口を開けて笑いながらも、ヒューゴの対応には本当に困っているとでも言うような、どこか親しい間柄にある人に向けるような表情を浮かべるのが見えた。


 ころころと自分の感情に合わせて表情が変わるベラさんの顔色は。


 見ていると本当に素敵だなって思えるくらいに全く嫌な雰囲気を感じさせない。


「ふむ、だが……。

 ヒューゴの言うように、その言葉は、決して、大袈裟という訳ではないだろう?」


 そうして、アルがベラさんに向かってそう言ってくれたことで。


 その意味が私にもセオドアにも理解出来て、思わず場の雰囲気が、穏やかな物から一転する。


 アルがここまで言うっていうことは、少なくともベラさんの体調が決して良好なものじゃ無いっていうことだけは確実だし。


 特に、私は、自分が能力を使った時の反動に関して理解している分。


 ベラさんのことを心配する気持ちが、みんなよりも色濃く出てしまった。


「……えぇ……っ? 一体、急にどうしたのよっ、少年……っ?」


 ベラさんだけがへらっと取り繕ったような笑みを溢しながら、困惑したように、私達を見てくるけれど。


 私の心配するような視線で、誤魔化せない、ということを悟ったのか……。


 困ったような表情を浮かべたまま、ベラさんが。


「ま、っ……まぁね。

 確かに、ちょっとだけ、能力を使用する頻度が高いっていうのは自覚があるわよ、アタシだって」


 と、声をかけてくれる。


 その雰囲気はどこまでも、気丈な物だったけれど……。


「あの、ベラさん。本当にちょっとだけですか……?

 もし、今も、能力を使用した反動で苦しいようなら、どうか無理はしないで下さい……。

 あのっ、ここにいる男の子は能力を使った魔女を癒やしてくれる力を持っているんです。

 私が、言うのも何ですが、あそこの木陰で少し休憩して行きませんか……?」


 そうして、森の中に一際目立つ大きな木の下で休憩するように提案すると、ベラさんは少し悩んだ様子だったけど……。


 私達全員に、ぐるりと一度視線を合わせてくれた後で。


 控えめにだけど、こくりと頷いてくれた。



コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?