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第25話 心配



「また、倒れてしまって、みんなにも、迷惑をかけてしまって、そのっ」


 ――ごめんなさい。


 起きたら、やっぱりベッドの上で、あまりの自分の情けなさに、落ち込んで、かかっていたシーツをぎゅっと握りしめる。


 みんなを守りたいのに、私ばっかりがいつもみんなに守られてる気がする。


 しどろもどろになりながら、みんなに謝罪したら、ローラが私の手を握って『そんなことは、気にされなくていいのですっ!』と、声をかけてくれた。


「丸一日、目が覚められなかったのですよっ……!」


 そうして、ローラにそう言われて、驚いた。


 そんなに、目が覚めなかったとは思いもしなかったから、どうりで、みんなに心配そうな顔をさせてしまっている訳だ。


 その表情に申し訳なく思っていると、ロイが……。


「ここまでして、能力を使わなければならないのでしょうか?

 陛下には、皇女様が自力で能力をコントロールすることは出来ないと伝えれば、それですむのではありませんか? この秘密を私達だけで、共有すれば……それでっ」


 と、声をかけてくれる。


 その言葉に、私は『ううん……』と声を出して、首を横に振った。


 自分で能力を使えるようになっておきたいという思いは勿論あるけど、それだけじゃない。


(もしも万が一、皇帝を欺いていたと何かの拍子で公になればそれだけで、みんなが罪を被ることになる)


 ――そんなことは、絶対にさせられない。


 私のその反応に、落胆したように、ローラと、ロイが俯くのが見えた。


「アリス、ちょっといいか」


 そこで、何かを思いついたんだろうか、アルが私に向かって声をかけてきた。


 視線を向けると、セオドアとアルが、目配せしたあとで二人で頷きあっていて……。


「アルフレッドと相談したんだが、姫さんの今の状態は、使う力に見合うだけの放出量じゃなく、もっと、多く力を放出しているらしい」


「うむ、それがアリスの身体の負担になっているのだ」


 と、阿吽の呼吸で、二人が、私の今の状態を説明してくれる。


「だから、使わないに越したことはないというのが、前提にはあるが、アリスが能力を使うこと自体に、僕は反対しない。

 ……少しでも力をコントロール出来れば、それがアリスの身体の負担を抑えることに繋がるからな」


「ただし、能力に慣れさせるためと、身体に負担にならないように、姫さんが能力を使用する日は、アルフレッドが決める。

 姫さんの身体が今、どういう状況なのかを見極められるのはアルフレッドだけだ」


「そこで、だ。

 一度、アリスが住んでいるという城に帰り、また此方に定期的に来るという風には出来ぬか?

 お前はずっと、この場所にいる訳にはいかないのであろう?

 であるならば、許可を取って、定期的に此方へ来て徐々に能力に身体を慣れさせる必要があると思うのだが、どうだ?」


 ……一体、いつからこんなに、二人とも仲良くなったのだろう?


 と、思う程にぴったりと、息が合ったように声をかけてくる二人に思わず驚きながらも、その提案はどこまでも、私の負担にならないようにと、考えていてくれているもので……。


(出来ないことは、ないと思う)


 と、私は、その提案に思考を巡らせながらも、頷いた。


だから、お父様からの許可は、降りると思う」


 そうして、私の溢した一言に、急に、みんな静まり返ってしまった。


 まるで誰かに良くないことが起きてしまったかのように、一気に淀んで暗くなってしまった室内に、慌てて……。


「でも、アルも、セオドアも、ありがとう。

 私のこと、こんなに、いっぱい、考えてくれて……。

 自分じゃ、そんなこと思いつきもしなかったから、本当に嬉しい……」


 と、二人に感謝しながら穏やかに声をあげると、ローラが私の手を更に強くぎゅっと握ってくれた。


「アリス様……」


 それから、もの凄く悲しそうな顔をされて、私はわたわたと焦りながらも、ローラを安心させるために声を出した。


「ローラ……。

 時を戻すなんて使えそうな能力を、皇帝であるお父様も無下にはしないはず。

 流石に能力を使用する頻度や、使い道を考えて慎重になるはずだし。

 余程のことは言ってこないと思う。……だから、そんな顔しないで」


 ――私は大丈夫だよ


 と、精一杯この場の空気を何とかしようと声をあげたけど、みんなの表情はそれを聞いて更に硬くなる。


 心配してくれているのが分かるから、みんなのその思いやりに、申し訳ないと思うのと同時に、心の中が今、じんわりと温かくなっていくのを感じてしまった。


 ……巻き戻す前の軸、私をこうやって心配してくれていたのはローラだけで、その、ローラの表情や思いやりに気づけたのだって、本当に最期、死ぬ間際に『間違えた』と理解した瞬間だった。


 それまでは、誰のことも、自分の事も、省みることすらなかったから……。


 だから、今こうやって大切な人が出来て、誰かから想って貰えているこの状況は私にとって、本当に心の底から特別なものだった。


 それでも、いつまでも、そんな風な顔をみんなにさせる訳にはいかないだろうな、と感じて……。


「アル、この砦にいる間、もうちょっと、能力を自分で使用してみるのはダメかな?」


 と、声を出せば。


「うむ、止めておいた方がいいだろう。

 アリス、お前は一度使った力で、かなり消耗しているのだ。

 ……お前が眠っている間にも、僕の癒やしの力は働くが、どうしても、ゆっくりと時間をかけて治していくことになるからな、今回はもう力を使うのはダメだ」


 と、アルが苦い顔をしながら、私の質問に答えてくれる。


 私はそれに頷いて、みんなに安心して貰えるように、明るくにこりと笑顔を向けた。


「分かった、もう、此処にいる間は、絶対に能力を使ったりしない。

 それより起きたばっかりで、お腹が空いちゃったな……。

 みんなも、もし、食べていないなら一緒にご飯にしない?」


 そうして、問いかけるようにそう言えば、ローラが『承知しました』と言って、目尻に浮かんだ涙をぬぐって、私に微笑みかけてくれると、ご飯の準備をしに行ってくれた。




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