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正式に魔女になった二度目の悪役皇女は、もう二度と大切な者を失わないと誓う
双葉葵
異世界恋愛悪役令嬢
2024年07月21日
公開日
1,555,913文字
連載中
【TOブックス様より書籍1~2巻発売中】
読者の皆様のお蔭で書籍化が決まりました! 本当にありがとうございます!

「――嗚呼、間違えたんだ私は」

【紅色の髪は特殊な能力を持つ魔女。力がなくとも、紅を持つだけで迫害の対象に】

 この世界の常識のせいで忌み子だった皇女アリスは、周囲からの迫害に対抗するため我が儘に振る舞ってきた。

「傷つけられる前に傷つける方が楽だった」
 
敵だらけの毎日の中、冤罪で第二皇子の兄に殺されたあと『過去に戻ってる?』発現した自分の魔女の能力のせいで十歳まで時を巻き戻すことに。

「五歳の餓鬼だってお姫様の存在が偉いんだって分かってるだろ。それだけ偉いはずの人間が、なんだって俺等と同じなんだよ。もっと敬われるべきだろ」

更に、過去には出会えなかったノクスの民、セオドアを護衛騎士にしたことで、同じ紅を持ち蔑まれてきた境遇を持つ唯一の相手として、過保護に護られ始め。

そして……。

「お前が悪い訳じゃない。お前の話を信じられなかった俺に非がある話だ。だからといって、剣の切っ先を俺に向けて来たこの騎士(犬)が、悪くない訳でもないが」

と、巻き戻す前は険悪だった一番上の兄に謝られるなど、一度目の人生を反省して過ごす内に人生が好転するが。

「必要ならば私の影を使う。気紛れかと思えた陛下の寵愛がこれ以上続くようならば、何としてでもあの小娘を野放しにしておけぬ」

かつてと違い、評判が高まるにつれ、継母の皇后が裏で画策したり。

「解っていながら、お姫様の耳をそっと塞いで、いつまでも鳥籠に閉じ込めて大事に守るだけなのは、騎士の務めの範疇を超えてるよ」

「何も知らないくせに、勝手なことを言うなよ。姫さんが今までどれだけ傷ついてきたと思っていやがるっ!」

「公爵家の血が入っている以上、王に相応しいのはお姫様の方なんじゃないかって言ってくる奴が絶対に出てくるだろう。そうなったら、近い将来、殿下との対立も避けられないものになる」

王位継承権を巡る争いにも巻き込まれ。殺害前に、自分を守って殺された侍女のローラや、傍にいることになった護衛騎士との出会いを経て、大切な人を増やしていくアリスが今度の人生は過保護に愛され幸せになっていくお話。


第1話 そして皇女は巻き戻る




 誰かを蔑ろにした上に立っていた。


 誰も私を必要としていないことを、いつだって、分かっていた。


 傷つけられるその前に、傷つけてしまう方が楽だった。


 だから、我がままも言ったし、傍若無人ぼうじゃくぶじんに振る舞った。


 気付いたら、後に残っていたものは何一つ。


 私の手元には何一つ……。


 欠片すら残らずにぼろぼろと。


 ――ただ、零れ落ちては消えていた。



 ✽ ✽ ✽ ✽ ✽



 覚えているのは深紅に染まった、自分。


 心臓をめがけて、剣を突き刺さされたと気付いたのは一瞬のことで……。


 見慣れた金色の瞳と、忌々しげに歪められた唇から、見て取れる憎悪。


(――嗚呼、間違えたんだ、私は)


 そう、悔いたのは、本当に最期のことで……。


 自分の身体が倒れていくのも、まるで『スローモーション みたいだな』と、どこか、他人ごとのような頭で考えた。


「……私は、死んだはず 、では……?」


 薄らぼんやりとした意識が次第に覚醒していく。


 伸ばした指先が、自分の胸をなぞるように往復する。


 怪我など何一つなく、五体満足であることに違和感を覚えながら、周囲を見渡して、此処が、見慣れた自室のベッドであることに気が付いた。


「死ねなかった……?」


 ぽつり、と漏れた言の葉が、存外、重たくて自嘲する。


「……っ! アリス様、お目覚めですか!」


 ――誰かの声が耳を通り抜けていく。


 いや、誰か、じゃなかった。……この声は、酷く聞き慣れた人の声だ。


「……ローラ」


 声のした方へと視線を向けて、ゆっくりと声をこぼす。


「はいっ! アリス様、良かったです」


 ふわりと、穏やかに笑いかけてくるその姿に、そんな筈はないと、混乱する。


 生前、私に仕えてくれたこの侍女は、最期の瞬間まで私に仕えてくれたままで。


(……アリス様、お逃げくださっ……う、ぁっ)


(っ! ……ローラっ!)


 ――最期のあの瞬間。


 彼女は私を逃がそうとして、私よりも先に殺されたはずだった。


「……身体はっ? どこも怪我してない?」


 咄嗟にその全身にくまなく視線を走らせ、確認するように声をかければ……。


「……え? ええ、なんともありませんよ?」


 私の言葉が意外すぎたのか、きょとんとするローラに、私の方が驚いてしまう。


(本来なら、死んでいるはず筈の人間が生きている)


 ……だったら、そう、これは未だ、醒【さ】めることのない夢なのかもしれない。


 そうだとしたら、今なら何でも言える気がして。


 『今まで、私に仕えてくれて本当にありがとう』 と、頭を下げて、声を溢す。


 私が、そう口にしたことが、どこまでも意外だったのか、ローラの瞳が驚きに見開かれた。


「アリス様……?」


「もう、我が儘は言わない。

 だから、これからもずっと、可能なら、私に仕えてくれる?」


 その問いかけに、驚きに染まった表情がふっと穏やかな物へと変化するのが見えた。


「勿論です!」


 嗚呼、そうだった……。そう言われることは分かっていた。


 ローラは、生前の私の我が儘にすら、根気よく付いてきてくれていた人だったから、試すような物言いになってしまったことが、恥ずかしくなって、胸がきゅっと痛んでしまう。


 また、私に仕えてほ欲しいだなんて、そんなのあまりにも烏滸がましすぎるのではないか、と。


「…ううん、違うな。

 私に仕えなくてもいい。

 ……時間が許すなら、今度は好きな様に生きてくれていい」


 ゆるり、と口に出した言葉は、いとも簡単に、表へと出た。


 最早、何にも縛られることもなく、私は自由だ。


 それならば、ローラも私に縛られることなく、自由であるべきだと思う。


 私から解放されるべき、だ。


「いいえ、アリス様!

 私は、アリス様がなんと言われようと、あなたに一生お仕えいたします! 

 もしも、誘拐に遭われたことで、未だ、そのお心が傷ついているのなら、まずはその心を癒やすところから始めましょうっ」


「……うん……?

 聞き間違えたんだと思う、今、なんて?」


「そんなっ!

 もしかして、誘拐された記憶が、ごっそりと消えていたりしますかっ?

 ああっ、そんなっ、やっぱりまだ本調子ではなかったのですねっ、直ぐに医者を……」


「……待ってっ!

 ゆうかい、誘拐、……覚えている。

 でも、あれは、私が十歳になったばかりの話で、……っ!」


「アリス様?」


「……ローラ、やっぱり今すぐお医者さんを呼んできて欲しい」


「……っ! 承知しました!」


 バタバタとローラが走り去っていく音がする。


 その足音が、完全に消えたあと、私は今、自分に起こっている現象があり得なさすぎて、手のひらを眺めたあと、布団をまくって自分の足を確認する。


 何度みても、同じだ。……五体満足であることに変わりは無い。


 だけど、どう見ても、手足が小さくなっていることを確認してしまった。


 恐る恐る、ベッドから這い出ることにした。


 どうしても、確認しなければいけないことがもう一つだけあったから……。


 震える足で、よたよたと、自分の部屋の片隅に置かれた姿見に足を向ける。


「……そん、なっ……!」


 絶望の声がぽつり、と零れ落ちた。


 この世界では、忌むべき魔女の姿を鮮明に受け継いだ紅色くれないいろの髪。


 ぺたり、ぺたり、と、どこを触っても。……私は、私だ。


 だけど、あまりにもその姿は『記憶にあるもの』よりも幼かった。


「過去に、戻ってる……?」




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