自分の階についたエレベーターを降りて、いつもより音を立てないように注意して鍵を開けると、廊下には電気がついていたが、部屋の方は暗かった。流石に侑希も寝ているんだろう。そう思いそろりそろりと部屋に行き扉を開けると、ベッドサイドの小さな電気をつけて、ベッドの上で侑希は本を読んでいた。
「え、侑希。まさかずっと起きてたの?」
「ええ、そうだけど…」
「ごめんね。てっきり寝てるかと思ってた」
「いや、なんとなく眠れなかったから。待ってたわけじゃないわ。それにしても、だいぶ遅かったわね」
「うん、色々あって」
「あんまり無理しないでね。紅茶淹れるけど、飲む?」
「あ、悪いよ。わたしが、」
「いいの。コートかけて、服着替えなさいよ」
「……ありがと」
キッチンの方へ向かって行った侑希を見送って、私はコートを脱ぐとパジャマに着替えた。しばらくすると侑希がマグカップを2つ持って部屋に入ってきた。
ことんと私の座るソファーの前にそれが置かれ、少しして横に来た侑希の重みで体が少し沈んだ。
「何があったの?」
「えと、」
「言えること?言えないこと?」
「うーん…」
「なんとなく言いたくなさそうね。あまり深くは聞かないわ」
「ありがと…」
「凛、聞いて。言いたくないことなら何も言わなくていいんだけど、私に迷惑かけるとか考えて言わないのはやめてね。私が何も知らないうちにあなたが傷つけられて帰ってくるっていうのが、私は1番つらいから。それだけは分かってて」
そう言うと、侑希はカップに口をつけて中身をひとくち飲んだ。真っ直ぐな言葉をもらって、胸がじんわりと暖かくなっていくのが分かった。この子には助けてもらってばっかりだ。
「ありがと、侑希」
「ううん。もう遅いから、これ飲んだら寝るわよ」
「うん、」
なんとなくずっとこの時間が続いて欲しい気がして、わたしはゆっくりと残りの紅茶を飲んだ。外が明るくなる気配がして、私たちはベッドに潜り込んだ。明日は珍しく仕事が午後からだし侑希も休みだから、昼までは2人でぐっすり眠れそうだ。幸せに包まれながら、私たちは意識を溶かした。