目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第51話 (侑希side)

家に帰ってお風呂に入り、今日は早めに寝ようと、ベッドに入ったところで、LINEに通知が入った。

[侑希、旅行終わった?]

凛から送られてきたそれに、すぐに[うん]と返信をする。

[今日、会いに行ってもいい?]

思わず、眠くて細くなっていた目が開いた。私だってちょうど、会いたいなとは思っていたけど…。何も用意ができてない。

[ご飯とか、作ってないよ?]

[もう食べたから]

[泊まり?]

[迷惑じゃなかったら]

[分かった、待ってる]

そう返信して5分も経たないうちに、インターホンが鳴った。


「ごめんね、急に」

「早かったわね」

「今日のスタジオいつものとこじゃなくて、この辺でさ。ちょうど近く通りかかったから」

「そうだったの」

「汗かいたから、先にお風呂借りるね」

「うん」

私はクローゼットを開けて、うちに当たり前に置かれるようになった凛のパジャマや下着のセットを取り出した。そしてそれを凛に渡すと、彼女は急いでお風呂へ向かった。


眠いけど、しゃべりたいことがたくさんある。私は凛がお風呂を上がるまで、寝てしまわないようにベッドの上で身体を起こしていた。


少ししてお風呂を上がってきた凛。髪をタオルでクシャクシャと乾かしている姿がカッコよくて、私はぼんやりと彼女のことを見つめていた。

凛はそんな私に気づくなり、優しく微笑んでこちらに近づいてきた。そのまま彼女の手が私の頭に伸びて、やさしか撫でられる。いつもは強がって拒否するけど、今は眠いからそんな気も起きない。大人しく、凛の手を受け入れた。

「眠そうだね。上がるの待っててくれたの?」

「うん」

「ふはっ、かわいいなぁ。たくさん話そうね」

2人で並んでベッドに座る。

「旅行、どうだった?」

「楽しかった。温泉も気持ちよかったし、」

「温泉?!」

驚いた凛の声に私までびっくりして、ちょっぴり目が覚めた。

「3日目の夜は、温泉街のちょっと良い宿に泊まったんだけど、そこにある露天風呂、ちっちゃい滝みたいなのが流れてたの。すごいでしょ」

「うん、すごい」

「夜ご飯もすっごく美味しかったし、夜みんなで寝るのが修学旅行みたいで楽しかったわ。友達と寝落ちて、同じベッドに寝たりとか」

「ふぅーん」

凛が聞くから答えたんだけど、私が話せば話すほど、彼女は興味なさげに頷くようになった。だからこの話は辞めようとするんだけど、凛はしつこく詳細を聞いてくるから、答えるしかない。

「ホテルのお風呂も一緒に入ったの?」

「1日目は別だったわ。でも、2日目は誘われたから一緒に入った」

「誘われたって、なんって?」

「普通に、一緒に入ろって」

「なんで?」

「なんで、って?え、変なとこあった?」

「知らない」

お風呂の話をすると、凛はついにプイッと顔を背けてしまった。そんな彼女の気を引きたくて、私は声をかける。

「凛、アイス買ってあるんだけど、食べる?」

「いらない」

いつもは絶対飛びつくのに。どうして不機嫌なのか分からず1人であたふたしていると、旅行中に結衣が言っていたことがふと頭をよぎった。

そんなはずないけど、まさか…。

「もしかして凛、嫉妬してる?」

私がそう聞くと、凛はムッとした表情でこっちを見た。

「はぁー?してないんですけどっ」

「だって自分から聞いてきたくせに、お風呂の話であからさまに不機嫌になるし。どうみたって、拗ねてるでしょ」

「拗ねてなんかないし」

「そうなの?」

「……もうねる」

いよいよ布団に潜り込んでしまった凛。うーん。色々考えてみたけど、嫉妬してるんじゃないなら私にはよくわからない。

とりあえず私もベッドまで行き、凛の横に寝っ転がった。


タオルケットに包まってる凛の肩を叩くと、彼女はのそっと顔だけ出した。

「侑希は誰とでも寝ちゃうんだ」

「そんな言い方しないでよ。ただの友達なんだから、別におかしいことじゃないでしょ?」

「じゃあ、大学の友達がただの友達なら、私はなに?」

「凛も…友達でしょ」

「ふーん」

「凛がそれを聞くのはずるいわ。どんな反応をして欲しくて、そんなこと聞いてるの?逆に、なにって答えたら正解なのよ」

「知らない」

あーもう。本当に、凛はなんのつもりなんだろう。

うちにやってきたあの日、友達でいることを要求してきたのはそっちなのに。

私だって、言えるなら言いたい。私の気持ちに名前をつけて、それをあなたが迷惑だって思わないのなら、今すぐに言いたいのに。

私が何も喋らないでいると、凛がタオルケットに包まったままぎゅっと抱きついてきた。

「ごめん。やなこと言った」

「別に、気にしてないわ」

その背中を布越しにさすってやる。私の前で泣いたあの日から、ちょっとずつ弱いところを見せてくれるようになった彼女に、愛おしさは増す一方だ。

「私、ずっとキープしてて。そのくせこんなこと聞くなんて、最低だ」

キープしてるって、自覚はあったんだ。それなら、確かめたいことは一つだけ。

「凛は私のこと、好きなの?」

そう聞くと、少し間が空いた。

「友達として?」

「今聞いてるのがそういう意味じゃないってことぐらい、分かるでしょ」

「…言えない」

言えない、か。

言えないっていうその言葉に、含まれてる彼女の真意が何なのか分からない。友達としてしか好きじゃないけど、私を傷つけないために言ってるのか。それとも、恋愛として好きだけど、なにか言えない理由があるのか。

もし後者だとして、言えない理由っていったい何なんだろう。ただ私に気持ちを伝えるだけで、変わってしまうなにかがあるのか。

全く想像もつかないけど、凛のことだからふざけた理由じゃないことは確かだ。

私は凛に抱きしめられたまま、彼女の寝息が聞こえ始めるまで背中をさすっていた。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?