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第18話(侑希side)

梅雨の季節になった。じっとりした暑さで、制服に汗が滲む季節。私は6月のこの時期が1番苦手だ。

ここ一週間ずっと雨が降っていて、窓の外を見ればどんよりした空が目に入る。

「月宮さん、ため息なんかついてどうしたの?」

昼休憩になってもなんだか食欲が湧かず外を見ていると、友達が私の周りにやってきた。

「雨、嫌だなぁと思って」

「確かに。来週までずっと雨らしいもんね。じめじめしてて、気分まで下がっちゃう」

「ほんとに」

友達が横でご飯を食べていたけど、結局私は食欲が湧かずにお弁当を広げることはなかった。午後の授業もなんだか身が入らず、私はノートをとってるふりをしながら外を眺めていた。

「月宮さん、今日元気ないね」

「え?あ、うん。そうかも」

「明日は土曜日だし、しっかり休みなよ」

様子のおかしい私を心配した友達が、帰り際になって声をかけてくれた。周りからもわかるくらいに、今日の私は調子が悪いらしい。声をかけてくれた友達に「ありがとう」と返して、私は教室を出た。

最近は塾に通い始めて、いよいよ受験勉強に向けて本腰を入れ始めたところ。今夜も10時くらいまで授業があるから、傘をさしながらひとりで塾に向かう。せっかくの週末が塾で潰れてしまうのはなんだかもったない気がするけど、これも受験生の宿命だろう。

それにしても、今日はなんだか体が重い。ここ最近、勉強をしないといけないというプレッシャーで、夜遅くまで勉強していることが多くなった。体力的にも精神的にも、慣れないことで結構疲れてしまったのかもしれない。今日は家に帰ったら、夜更かしせずに早く寝よう。

そう思って、私は塾への道を歩いた。

塾に着いて自習室に入る。7時に始まる授業まではここで勉強する。バッグから参考書を取り出して開いたけど、数問解いたらあっという間に集中力がなくなってしまった。ダラダラと問題を読み返すけど、不思議なくらいに文字が頭に入ってこない。私は諦めて、バックからスマホを取り出して電源をつけた。

いつもの癖でLINEを開く。1番上に、昨日の夜、私が凛に送ったメッセージが表示されている。そのトーク画面をタップしてみるけど、既読はついていない。

いつも通りの、他愛のない会話だ。最近やたら雨が多いから、やる気出ないね、みたいな、そんな特に意味ない会話。いつも凛は、大抵、朝にメッセージの返信をくれる。未読無視をするタイプではないし、遅くても昼休憩には一度くらいはスマホを見ているはずだ。

今朝、廊下ですれ違った時に目があって、少しだけ笑ってくれたから、私が何かしてしまった訳ではなさそうだ。凛だって忙しいんだから、今までなかっただけで、半日既読がつかないことくらい普通にあり得ることかもしれない。

それでも私は、なかなか既読のつかないメッセージがなんだか気がかりだった。

自習室で数時間勉強して、授業の教室へ向かう。廊下の途中でちらっとスマホの通知を確認したが、やっぱり凛からLINEの返信は来ていなかった。

夜の10時。やっと授業が終わった。疲労感がすごくて、頭が働かない。体が怠いし家まで歩ける気がしなくて、私はお父さんに連絡をした。

[ごめん、今塾なんだけど迎えこれる?]

確かお父さんが、今日は早く帰れるって言ってた気がする。私が送ったメッセージに、すぐに既読がついた。

[どうした?]

[体だるくて]

[分かった、今から行く。15分くらいで着くと思うから]

[ありがとう]

そのまま、誰もいなくなった教室の机で頭を伏せた。どこか痛いわけじゃないけど、なんとなく体が重くてしんどい。せっかく、受験に向けて勉強を頑張ろうと思ってる時期なのに、自分の体は思うように動いてくれない。

ブー、ブー、ブー。

机の上に置いていたスマホのバイブレーションが響いて、私は顔を上げた。少しの間、机の上で寝てしまっていたらしい。スマホを見ると、お父さんから[ついたよ]の通知。少し寝れたけど体調は全然良くなってなくて、私は荷物を掴んですぐに教室を出た。

塾の駐車場には、見慣れた黒い車が止まっていて、スーツ姿のお父さんが乗っていた。こちらに気づいたお父さんが手を振ってきて、私は助手席に乗り込んだ。

「大丈夫か?体調悪いのか?」

「うん。なんか、体が重い」

「急に暑くなって、湿度も高いし、熱中症かもしれないな。家に帰ったら熱を測ろうか」

「分かった」

そのまま私は助手席で目を閉じた。少しの間止んでいたらしい雨が、また降り出したらしく、窓ガラスを叩く音が聞こえていた。

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