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第8話(侑希side)

それからというもの、私の土曜日は、凛と遊ぶ日に変わった。流石にライブ前や、レッスンが長引いた日は遊べなかったが、私たちは結構な頻度で会うようになった。

でもそれは、プライベートでだけ。学校では、私がそこそこ目立ってしまうので、そんな私と仲良くしていることが他の人にバレて、凛が目立ってしまうといけないので、私たちは廊下ですれ違っても他人のふりをしていた。

なんだか不思議な感覚だった。私たちはどんどん仲良くなっていって、きっと親友と呼んでも遜色ないくらいには親しくなっていたのだが、いざ家を出てみれば一瞬で知り合い以下になってしまう。それが私にとっては少し寂しかった。

おまけに、凛のクラスには幼馴染の涼風遥香ちゃんという子がいて、その子と学校でのほとんどの時間を一緒に過ごしているんだから、それが羨ましくてたまらなかった。遥香ちゃんは、すごく可愛くて愛嬌があって、まさに男子にモテる女子って感じの雰囲気だ。うちの学園内でも、1、2を争うぐらいに顔が整っていて、何度も告白されている場面を見かけたことがある。それなのに、彼氏ができたという話を聞いたことは一度もない。

いつも凛にくっついて、トイレや移動教室の時は腕を組んでいるし、凛と話している時の目は心なしかキラキラしているように見える。凛だって、遥香ちゃんと話してる時は楽しそうだし、身長差も相まって、なんというかお似合いの2人なのだ。

私だって、凛と一緒に屋上でご飯を食べたり、帰り道一緒に帰ったりしたいのに。でも、それを本人に伝える勇気はないし、言っても無理なものは無理だろう。

それでも、今週の私は少しご機嫌だった。今週の土曜日は、凛とカラオケに行く約束をしていたから。初めて自分の家じゃなくて、2人で外に出かけられる。たったそれだけで、私はワクワクしながら一週間を過ごしていた。それなのに、

[ごめん。明日、無理っぽいかも]

金曜日の夜。凛と明日の集合時間の話をしようとしたところで、急にそんなメッセージが送られてきた。

[ダンスレッスン、長引きそう?]

[そんな感じ]

[そっか。分かった]

[ごめんね]

しょうがない。向こうはアイドルなんだから。そう分かっているはずなのに、なんだか拗ねたような気持ちになってしまって、私はそっけない返信だけ返して、スマホをベッドに放り投げた。

久しぶりに暇になってしまった土曜日。私は朝の配信を見終わった後、お昼から図書館で勉強することにした。電車に乗って駅2つ分離れたところへ向かう。公表はされてないけど、確かこの辺に事務所があると凛が言っていたのを思い出した。図書館に向かうまでの道をキョロキョロしながら歩くけど、それらしい建物は見当たらない。まぁ、当たり前か。簡単にバレたら、すぐに騒ぎになってファンに出待ちとかされかねないし。

図書館について、参考書を開く。凛はいいな。勉強なんかしなくても、いっつも1番なんだから。私はどれだけ勉強しても彼女にだけは勝てない。凛は結構アホそうに見えるのに、多分要領が良いんだろう。

そんなことを考えながらノートにペンを走らせていると、気づけば数時間が経っていた。窓の外はずいぶん暗くなってきている。集中力が切れた私は、18時くらいに図書館を出た。

本当ならこの時間は、凛と一緒にカラオケ行ってたはずなのに。ため息をつきながら駅の方まで歩く。信号待ちをしているところで、ふとスマホから顔を上げると、道路を挟んで反対側の道に、見覚えのある後ろ姿が見えた。

「え、凛?」

なかなかこちらに気づかないからLINEを送ろうとした時、凛の横に誰かいるのが見えた。あれ、遥香ちゃん?何を話しているかまでは分からないけど、2人で腕を組んで歩いている。そして、しばらく歩いた後に道を曲がって、駅とは別の方向に消えていった。私はそんな2人の後ろ姿をただ見つめていることしかできなかった。

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