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第2話(凛side)

ライブの余韻でなかなか寝付けず、翌日の授業は朝から机に突っ伏して爆睡していた。

ポンポンっと優しく誰かに頭を叩かれる感覚で、私はようやく夢の世界から現実に戻ってきた。

顔を上げると、私の前の席でこちらを向いて微笑んでる女の子と目が合う。彼女は私の幼馴染、涼風遥香。可愛くて優しくてめちゃくちゃ男の子にモテる。しょっちゅう誰かに告白されてるのに、全部断っているから、好きな人がいるのかって聞いたけど、いつも「ひーみーつっ」って言って教えてくれない。

「りんりん、おはよ〜。今日の授業ずっと寝てたね。もうお昼休憩なっちゃったよ?」

「え、もうお昼?!うわぁ、やっちゃった〜」

「先生呆れてたよ笑。放課後呼び出されるかもね」

「まじかぁ。起こしてくれたらよかったのにー」

「ごめんごめん。あんまり気持ちよさそーに寝てたから」

「うぅっ、、私の大事な放課後がぁ〜」

「ふふっ。とりあえずお昼ご飯食べよっか」

「うん…」

2人で机を合わせて、バッグから取り出した弁当箱を開けようとした時、

「この教室に、結城凛って子はいるかしら?」

突然呼ばれた自分の名前に、私は驚いて顔をパッと上げた。

学校ではあんまり目立たないように前髪を下ろして地味な生徒を演じている。そんな私が、誰かに大声で名前を呼ばれることなんて滅多にない。私が慌てて動かした目線の先で、廊下に立ってこちらを睨みつけているのは、昨日、階段でぶつかった女の子だった。

「げっ、昨日の…」

「りんりん、なんかしたの?」

遥香が心配そうな顔でそう聞いてくる。

「ちょーっと、階段でぶつかった、かな?」

「ありゃ、よりによって月宮さんに?」

月宮って確か…。あ、そうだ思い出した。どこかで見た顔だと思ったら、あの子、うちの学園の理事長の娘じゃん。

「凛ちゃん、月宮さんが呼んでるよ?」

なかなか動かない私に、クラスメイトがこっちこっちと、廊下で手を招いている。

「逃げれないよね、これ」

「うん、逃げれないね」

「行ってきます…」

一度開いた弁当箱に蓋を乗せて、私は自分の席から立ち上がった。

月宮さんのところまで行くと、彼女は何かを確かめるようにじっと私の顔を見つめてきた。

「な、なんの用っすか」

「聞きたいことがあるの」

「聞きたいこと?」

「ここじゃ話せないから、あっちの空き教室行きましょう」

「うぅっ、はい…」

ここで下手に逃げれば目立ってしまうから断ることもできず、私は彼女に従って別校舎の空き教室に向かった。彼女は何も喋ることなく、スタスタと歩いて行く。

そんな彼女の後ろ姿を一歩後ろで追いかけながら、私はこれから何を言われるのだろうかとヒヤヒヤしていた。

昨日ぶつかった後に逃げたことを怒られるのだろうか、それとも校則違反のブレスレットのこと?もしかして理事長の娘である権限を使って、退学にさせられたりするのかな?もしそうなったら大人しくアイドル一本でやっていくか。いやぁ、それにしても厄介なやつにぶつかってしまったもんだ。

別校舎は少し古くて、授業でも滅多に使われないため、お昼休憩になるとほとんど人がいない。その中でも1番奥の、絶対に誰も来ないであろう教室の前で、月宮さんは立ち止まってポケットから鍵を取り出した。

「かぎ…」

「どうかしたの?」

「ど、どこから…」

「ここは私のおじいちゃんがつくった学園よ。鍵の場所くらい知ってるわ」

「はぁ…」

月宮さんは鍵を回すと、ガタガタと鳴るドアを開いた。私はなんとなく嫌な予感がしてドアの前で立ち止まっていた。

「入りなさい」

そう言って腕を掴まれて中に引っ張られてしまえば、もう抵抗はできなかった。

教室の中に入ると、月宮さんは私の前に立った。こうやって間近で見ると、やっぱりすごく美人だ。整った顔に感心している私を置いて、彼女はすぐに話し始めた。

「昨日のことなんだけど」

「はい、なんでしょうか…」

「あの服は何?」

「ええっとあれは、その、なんと言いますか…」

彼女は口ごもる私の右腕を取って、袖のボタンを外すと、スッと裾を捲った。あのブレスレットが、光を反射して私の腕でキラッと輝く。

「それにこのブレスレット。これ、誰からもらったの?」

「ですからこれは、死んだおじいちゃんの…」

「ウソついたって無駄よ」

そうピシャリと言われて、私は口を閉じた。もう何を言ったって信じてもらえない。どうしよう、やっぱり逃げるしかない。

彼女の前からゆっくりと後退りをする。

「いやぁ、ちょっと、用事思い出しちゃったなぁー」

「用事?」

「そ、それじゃ、またぁ……うわぁっ」

クルッと彼女に背中を向けてこっそり教室から出ようとドアの前に立った瞬間、突然バンっと耳元で音が鳴った。

「ひぃっ」

自分のものとは思えないくらい、情けない声が漏れる。振り返ればすぐ目の前に彼女の顔。人生初の壁ドンをされて足がすくんで動けずにいると、突然おでこに手を当てられ、そのまま前髪を上げられた。

「あなた、星空蒼、でしょ?」

学校で呼ばれるはずのない私の名前。

心臓が異常な速さでバクバク鳴ってるのが自分でも分かった。自信ありげにこちらを見下ろす彼女の目を、私は吸い込まれるようにただ見つめることしかできなかった。

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