「初めまして。こんにちは。
かぐや姫ーー千尋は、微笑むと頭を下げた。最後に見た時より、やや歳をとったように見えるが、わたし程に老けてはいないようだった。
わたしは驚きで何も言う事が出来ず、ただ目を見開いたまま、頷くことしか出来なかった。
そんなわたしの元に、千尋は先程拾った白色の石を置きにきた。机に近付いた時に、ようやく広げたままになっていた「おせろ」に気づいたのだった。
「あっ! オセロをやっていたんですね!」
「ああ。孫とちょっとな……」
「お孫さんってさっきの男の子ですよね? どっちがお孫さんの色なんですか?」
「黒だ。わたしは白が好きでな。常に白を選ぶんだ」
「私も白が好きですよ!」
間髪入れずに答えた千尋をわたしは見つめたのだった。
千尋は「ふふっ」と笑いながらも、「なぜなら」と答えてくれた。
「命を落としかけた私を救ってくれたのは、白い花だったんです。だから、私も白が好きです」
「……命を落としかけた事があるのか?」
わたしが悲しそうにしたからだろうか、千尋は優しく答えてくれたのだった。
「ずっと昔の話です。今よりも、遠い遠い時代のお話です」
「そうか」
そうして、わたしは千尋から受け取った白色の石を空いていた升目に置いた。
黒色の石が白色の石に変わり、いつの間にか盤面は白色が圧倒的に増えていたのだった。
「これから、よろしくお願いする」
「はい。よろしくお願いしますね!」
花が咲くように朗らかな笑みを浮かべた千尋から、月下美人の花の甘い匂いが、漂ってきたような気がしたのだった。