目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第7話

「初めまして。こんにちは。若潮千尋わかしおちひろと申します。これからよろしくお願いします」


かぐや姫ーー千尋は、微笑むと頭を下げた。最後に見た時より、やや歳をとったように見えるが、わたし程に老けてはいないようだった。

わたしは驚きで何も言う事が出来ず、ただ目を見開いたまま、頷くことしか出来なかった。

そんなわたしの元に、千尋は先程拾った白色の石を置きにきた。机に近付いた時に、ようやく広げたままになっていた「おせろ」に気づいたのだった。


「あっ! オセロをやっていたんですね!」

「ああ。孫とちょっとな……」

「お孫さんってさっきの男の子ですよね? どっちがお孫さんの色なんですか?」

「黒だ。わたしは白が好きでな。常に白を選ぶんだ」

「私も白が好きですよ!」


間髪入れずに答えた千尋をわたしは見つめたのだった。

千尋は「ふふっ」と笑いながらも、「なぜなら」と答えてくれた。


「命を落としかけた私を救ってくれたのは、白い花だったんです。だから、私も白が好きです」

「……命を落としかけた事があるのか?」

わたしが悲しそうにしたからだろうか、千尋は優しく答えてくれたのだった。

「ずっと昔の話です。今よりも、遠い遠い時代のお話です」

「そうか」


そうして、わたしは千尋から受け取った白色の石を空いていた升目に置いた。

黒色の石が白色の石に変わり、いつの間にか盤面は白色が圧倒的に増えていたのだった。


「これから、よろしくお願いする」

「はい。よろしくお願いしますね!」


花が咲くように朗らかな笑みを浮かべた千尋から、月下美人の花の甘い匂いが、漂ってきたような気がしたのだった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?