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第6話

「で、じいちゃんの番だよ」

「ああ。そうだったな」


孫に促されて、わたしは皺くちゃになった手を伸ばして、白色の石を摘まんだ。

どこに置こうかと考えていた時だった。病室の扉が控えめに開いた。


「あれ? 父ちゃん、母ちゃん? もう話しは終わったの?」


病室に入ってきたのは、わたしの息子と義理の娘であった。二人はわたしが上半身を起こすベッドに近づいてきたのだった。


「義父さん、遅くなってすみません」


「コイツがうるさかったでしょう」と義理の娘は、孫の左耳を引っ張った。孫は「いたたたた……」と呻いていたのだった。


「お父さん、さっき、退院後にお父さんの事をお願いする施設のケアマネジャーさんと顔を合わせてきたんだ」

「そうか」


わたしは、退院後も一人で生活出来るから介護を要らないと言ったのだが、息子達は頑として譲らなかった。

高齢者向けの介護施設に入居するか、週に何度か通いのヘルパーに来てもらうか、選ぶように言ってきたのだった。

心配してくれるのは嬉しいが、わたしはまだ妻との思い出が残る自宅から出たくはなかった。

それでわたしは仕方がなく、通いのヘルパーに来てもらう事を選んだのだった。

ただ、わたしは介護認定を受けていなかった。

これから申請はするが、術後の経過次第で決まるとの事だった。

そのように、先日、申し込んだ施設側から息子が言われたらしい。


「それで、お父さんのことをお願いする施設のケアマネジャーさんが、是非、お父さんに会いたいって言っているんだけど……。これからいいかな?」

「今すぐかい?」

「ああ。もう、そこの扉の前で待っているんだ」


息子が指したのは、病室の扉の事だった。

そうなら、先に言ってくれれば良かったものの……。

わたしは内心で溜め息を吐いたのだった。


「わかった。呼んできてくれるかい」

「ああ、自分達は一度退出するから、また後で」


そうして、息子達三人はーー孫はまだ「おせろ」が途中だと騒ぎながら引き摺られて行ったが。病室から出て行ったのだった。

息子はドアから出た時に、ドア近くに居た人に声を掛けていた。耳を済ませて受け答えを聞いていると、どうやら若い女性のようであった。その人が、わたしと会いたがっているというケアマネジャーさんだろうか。

女性はドアをノックすると、「失礼します」と元気に挨拶をしてから病室に入ってきた。


その女性を見た時に、わたしは驚きで大きく目を見開いて固まってしまう。

手に持ったままになっていた白色の石が床に落ちて軽い音を立てたが、指一つ動かせなかった。

代わりに女性はわたしが落とした石を拾い上げてくれたので、その顔をじっと見つめる。

その顔は、かつてわたしが恋をしたかぐや姫と同じ顔だったのだ。

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