ただの書生だったわたしは、とある大きな屋敷に住んでいる一人の女性が気になっていた。
気になっていると言っても、知り合いでもなければ、会話をした事も無い女性である。
ただ、自分と同じ年頃の女性で、とても可憐な面差しをしているのが、気になっているだけ。ようは、わたしが一方的に好意を寄せているだけである。
彼女はいつも窓から空を見上げていた。
天気や季節、時間に関係なく。一心に空を見上げては、溜め息をついていたり、憂いを帯びた顔をしているのが、とても気がかりであった。
それもあってか、わたしは彼女の事がずっと気になっていた。
何故、いつも空を見上げているのか。
何故、そんな顔をしているのか。
それは、やがて恋慕へと変わっていったのだった。
ある時、空を見上げて何かを乞う姿が、どこか、竹取物語の姫にそっくりである事に気付いた。
それ以来、わたしはこっそりと彼女の事を、「かぐや姫」と呼んでいた。
そんなかぐや姫を毎日見ながら、朝、学校に行き、学校からの帰る夕方に、また見つめてと、繰り返していた。
そんな生活を送る内に、わたしはかぐや姫に関する二つの噂を耳にしたのだった。
一つは、かぐや姫は、ここより、何百年も未来からやってきたということ。
もう一つは、かぐや姫が元の世界に帰る日が近いということ。