「色々とすみませんでした」
「いや、こちらこそせっかく文化祭に来てくれたのに、怖い思いをさせてすまなかった」
葉月は生徒会長に頭を下げた。生徒会長は首を振った。
「それより、何処かに向かうところだったのだろう。案内しよう」
「それなら、あの……月矢お兄様――
「お兄様ということは、君は月矢の妹さんか?」
「はい。上条寺葉月と言います」
「月矢から話は聞いている。小学生の妹さんが家族の反対を押し切って、文化祭に来ようとしていると……そうか、君がその妹さんか」
「わたしのことを知っているんですね」
「こっちにも色々とあってな……剣道部は特別部活棟の一階だったな。案内しよう」
案内してくれる生徒会長に数歩遅れるような形で、葉月は後ろをついていく。歩幅が違うので最初こそ置いて行かれないように必死でついていったが、途中から気付いてくれたのか生徒会長は葉月の歩幅に合わせてくれた。
歩きながら、生徒会長は先程の男子生徒らについて話してくれたのだった。
「彼らも君を怖がらせるつもりはなかったと思うんだ。不快な思いをさせたことは謝る。この高校の生徒が皆んなあいつらのような者ばかりだとは思わないでくれ」
「はい……」
葉月が何か言わねばと思っていると、葉月の名前を呼びながら袴姿の男子生徒が駆け寄ってきた。
「月矢お兄様~!!」
「月矢」
葉月と生徒会長は同時に言うと、月矢に駆け寄った。月矢に抱き上げられてぎゅっと抱き締められているうちにまたしても涙が溢れてくる。
袖でごしごしと目元を拭っている間、生徒会長から詳細を聞いた月矢は、「申し訳ない」と葉月を抱いたまま生徒会長に頭を下げたのだった。
「
「気にするな。こちらこそ怖い思いをさせた」
お前も謝れと、月矢に頭を押され、葉月も頭を下げて謝った。
真響と呼ばれていた生徒会長は、「見回りに戻る」と短く告げると二人に背を向けて立ち去ろうとした。
「あの、あの……!」
葉月は呼び止めると、再度真響に頭を下げたのだった。
「さっきは、ありがとうございました」
真響は葉月の頭を撫でると、そのまま立ち去った。葉月にはそれが、気にするなと言っているように思えた。
葉月は月矢の元に戻ると早速、聞いた。
「月矢お兄様、今の生徒会長さんは一体誰なんですか?」
「真響――
「すごい人なんですね……」
「で、親同士が決めたお前の許嫁。将来の旦那さんだ」
「いいなずけ? 旦那さんというのは、えっとお父さまのことですか?」
「そうだ。大人になったお前と結婚する人だ。もう少しお前が大きくなったら紹介されると思う」
「さっきのお兄さんがですか!?」
月矢の言葉に葉月は言葉を失う。二人の兄には子供の頃から結婚する相手が決まっていたが、まさか自分にもいるとは思わなかった。
(さっきの人がわたしと結婚する人……)
葉月は真響が去った方を見ながら、そんなことを考えたのだった。
――上条寺葉月と常磐木真響。
――これが、この二人の初めての出会いであった。
――葉月の婚約者として真響を紹介されたのは、この六年後のことだった。