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第26話 作家と担当さんのピロートーク ※微エロ※

 爛れた夜の翌朝。

 なんだか動きづらいなと思ったら、隣で夕樹乃さんが寝ていた。床に布団を敷いて僕にくっついてる。めくると敷布団の代わりに毛布を敷いてて、寝心地が悪そうだ。寝違えとかで首や腰でも痛めていなければいいのだが。

 僕は寝袋のチャックを開けて、彼女の布団に半身を侵入させると、彼女の顔に頬を寄せて、腰を抱き寄せた。

 昨晩あんなにいじめられたのに、僕は彼女が愛おしくて密着したくなってしまう。きっと彼女も、さんざん僕に怒られた後、同じ気持ちだったのかな。

「ごめんね……」

 僕は彼女の髪を撫でながら、呟いた。ちょっと言い過ぎた気がして。

「私もごめんなさい」

「夕樹乃さん、起きてたの?」

「貴方がこっち入ってきたときに気づいたわ」

「起こしてごめん」

「ううん」

 夕樹乃さんが僕の胸にひし、としがみついてきた。かわいすぎる。

「夕樹乃さん、今日は何して過ごす?」

「一日中、これでもいい?」

「まさかずっと布団でゴロゴロするの?」

「いや?」

「キミがそうしたいなら、僕はいいけど……」

「玲央さんと、くっついていたい」

「もー。かわいいんだから、夕樹乃さん」

「やだ……恥ずかしい」

 ほほう。夕樹乃さんでも恥ずかしいことあるのか。ふーん。

 普段から羞恥で僕をメッタメタにしてる彼女に、逆襲のチャンスだな。

「今日はみょーに乙女ですねえ~」

「や~ん」

「かわいい~」

「やだぁ」

 恥ずかしがって僕の胸に顔を埋める夕樹乃さん。乙女ですか。

「ねえ、僕にもっとかわいい顔みせて」

 いやいやをして胸から剥がれない。

 きいてる、きいてる。ふふふ。

「あれ~ゆきちゃんどーしたのかな~? おかおみえないよ~?」

「ゆ、ゆきちゃん……はずかし……」

 ゆきちゃん呼びは、かなり恥ずかしいみたいだ。ふ~ん。

 でも、ま、逆襲はこのくらいにしておこう。自分じゃ加減わからないし。

「はいはい。もう言わないよ、夕樹乃さん」

 にゅぅ……と小さく鳴いてる。

 彼女は猫科なんだな。よしよし、となでてやる。

「じゃあ、今日はどんなお話しする?」

「そうね……新作の構想とか」

「こないだ書いたばっかじゃない」

「あれ読み切りでしょう。次は?」

「え……なにもないけど……」

「ないの??」

 僕は彼女をぎゅーっと抱きしめた。

「もー、次回作のことは、いわないで」

 そんなもの、ありえないんだから。

「ごめんなさい。でもアイデア出しくらいなら私でも手伝えるわよ」

「やったことないからわかんない。というか今日は仕事の話は禁止。じゃないと帰っちゃうからな」

「いやいや~~、しないから帰らないで~~れおきゅん~~」

 彼女がホントにいやいやをする。付き合い始めてから、ときどき見るな。

「夕樹乃さんのいやいや、可愛すぎるから反則」

 僕は彼女の下着に手を突っ込んで潤み具合を確認してから、顔を上に向かせて、口を貪った。どのくらいで濡れちゃうのか気になったので、確かめてみようかと。

 最初は濡れてなかったけど……二、三分もしたら洪水に。昨日あんだけ楽しんだのに、ぜんぜん足りないのかな。困っちゃうなあ……。有人みたいな体力が欲しい今日この頃。


 というわけで今朝は僕が主導権を握って致したんだが、怖いので今後も彼女に主導権を渡すのはやめとこうと思う。いや、彼女がリードした方が、僕も体力的に楽だし、彼女も満足できるんだけど、その後に暴走されると怖いんだよね……。それさえなければ。

 夕樹乃さんがスッキリした顔で風呂場から出てきたので、交代で僕も入った。まあシャワー浴びるだけなんだけど、ちょっと髭伸びてきたんで、ついでに剃ろうと思う。剃刀使うの怖いんだけどアメリカにいた頃は電動の髭剃り持ってなかったんで、普通に剃刀で剃ってた。怖いから慣れなくて、しょっちゅう血流してたけど。

 僕が風呂場から顔を出した途端、シャウトされてしまいました。

「きゃー、何があったの!」

 はい、やってしまいました。

「かみそりまけ」

「それ負けたってレベルじゃないでしょ! 消毒するから先にティッシュで血止めてて!」と言うなり、夕樹乃さんが箱ティッシュを投げて寄越した。それから、タンスの引き出しの中をガチャガチャ漁り始めた。薬を探してくれてるのだろう。

 風呂場の鏡を見ると顎の下まで血が滴り落ちていた。さっき風呂場から出るときはそこまでじゃなかったんだけど。

 僕は顔にティッシュをぺたぺたと貼り付けると、急いでバスタオルで体を拭いて風呂から上がった。下着とTシャツは、こないだホームセンターで買ったので、いま下半身はトランクス一丁である。

「こっちきて~」

 夕樹乃さんがリビングの椅子を引いて僕を呼ぶ。ここに座って処置を受けよ、ということみたいだ。ダイニングテーブルの上には救急箱が蓋を開けて待ち構えている。

「はーい」

 ぺたぺたとフローリングの床を歩いて椅子に腰かけると、夕樹乃さんが僕の顔に張り付いたティッシュを剥がし、薬剤で消毒作業を開始した。

 なんか、こないだ夕樹乃さんが車から蹴り出されてケガした時の逆みたいになってる。今思い出しても、あそこまでする必要なかったじゃん、とは思うものの、あれがなければ僕らはこうなってないんで、うーん、と悩ましい事象だった。

「こうしてると、貴方に手当されたこと思い出すわね」

「僕も思い出してた」

「びっくりしたわよ、目の前に貴方がいるんだもの」

「それはこっちのセリフだよ。飲んで帰ってたら落ちてきたんだもん」

「それじゃあ、まるでヒロインね」

「どういう意味?」

「アニメやラノベのヒロインは、上から落ちて来るものなのよ」

「ふーん……」なんだそりゃ。まあ僕が知らない世界の話なので流しておく。

 ティッシュを当ててるうちに、おおむね血は止まっていたようだ。

 消毒薬を傷に拭き付けたら処置は完了。夕樹乃お姉さんに僕は解放された。

 傷跡を鏡で見ると、なんだか猫にでも引っかかれたみたいになっている。夕樹乃さんは猫科だから、まあそんなカンジか。というか未希も猫だな。やれやれ僕の周りは猫だらけだ。

 今日の朝食は、パンケーキとコーヒーだ。夕樹乃さんはご飯派だけど、僕に合わせてカフェのモーニングみたいのにしたと言っていた。彼女の配慮がうれしい。お昼はさんまの塩焼き&栗ごはん定食だって。さんまはここで出てくるんだな。


 朝食後、僕は夕樹乃さんのノートパソコンのメンテナンスをすることになった。最近調子が悪いらしいのだが、よくわからないと言う。

 彼女のノートパソコンを起動させて僕は絶句した。スタート画面が僕の写真だったのだ。さすがに壁紙は無地だったものの、あまり外で使って欲しくないな。

「ゆきちゃんちょっと」

「まだその呼び方続けるの?」

「いいから」

「なあに?」

「スタート画面について言いたいことがあるんだけど」

 夕樹乃さんは、あっ、と声を上げると慌てて僕からノートパソコンを取り上げた。

「今さら遅いですよ、夕樹乃さん」

「ああ~~~~、忘れてた~~~~」

「このノートパソコン、外でも使ってるんですよね。さすがにこの画像を使うのはちょっと……」

「だめぇ?」

「僕がイヤなの。キモい」

「ええええ~~~~」

 絶望丸出しの顔でわめく夕樹乃さん。

「もう付き合ってんだから、そこまで僕と一緒じゃなくてもいいでしょ」

「でもおおおお~~~~」

「せめてスマホだけにして下さい。大きい画面は恥ずかしい……」

「でもお……」

「そーゆーこと言ってると、パソコン直してあげませんよ?」

「やーだー」

「じゃあ画像取り換えてくれる?」

「取り換えるから直してぇ~」

 やれやれ。

 ま、彼女のパソコンの面倒を見るのは彼氏の義務だからな。……にしても。

「デスクトップ、ファイルとフォルダだらけで地が見えないんですが」

「なんか増えちゃって~」

 やれやれ。まあ、ありがちだけど。

「じゃー、デスクトップ整理用アプリ入れておくから。ちゃんと整理するんですよ」

「はーい、玲央先生」

 ゴミ屋敷状態のデスクトップを片付けた後、問題の箇所の調査を始めた。僕がパソコンと格闘していると夕樹乃さんがコーヒーを淹れてくれた。

「がんばってね、玲央さん」

 心なしかすがるような目で僕を見る夕樹乃さん。

「ありがと。ねえ、これ結構前から困ってたんじゃない? 昨日今日で出来たゴミや傷みじゃあないよ」

「そんなことも分かるの? 玲央さんすごーい」

「うん、まあ……」PCに多少詳しい人なら誰でも分かるんだけどね。

「助かるわ」

「困ったらいつでも僕に言ってね」

「ありがとう。玲央さん頼りになるわ」

「そ、そうかな」正直、男としてはあまり頼りにならない方だと思ってるけど。

「玲央さん、そこは素直に喜んでいいところよ?」

「また顔でバレた?」

「うん。貴方分かりやすいもの、昔っから」

「えええ……なんかイヤだな。僕だけ知られてる事ばっかで」

「うふふ、まるでサトラレみたいね」

「なに、それ」

「自分の思ってることを他人に知られちゃう超能力のこと」

「うわめっちゃイヤだそれ」

 夕樹乃さんはテーブルの上で頬杖をついて僕に微笑む。

「サトラレってね、神様の能力なんだって」

「そうなの?」僕は訝し気に彼女を見た。

「神様は、自分の言葉を広く広く人間に伝える必要があるから、人が受信しやすいように、想いを発信しちゃうんだって」

「んー……。まあ、神様なら、別に知られても困らないのかな。って僕は神様じゃないんだが。というか神様だったとしても、いちいち頭の中身を知られちゃうのってなんかイヤだよ」

「そうね。うふふ。でも、玲央さんが神様だったらいいなって思うわ」

「なんでさ。僕はイヤだけど」

「だって神様なら、人間のことわりを無視出来るから」

「なるほど……。たとえば?」

「婚姻についてとか」

「ああ…………」

 それ以上は気まずくて、話は途切れてしまった。

 まさか、重婚なんて考えてたりするのかな。

 いやいや。多分違うだろう。

 じゃあ、何なんだろう。当人に聞くのも気まずいし……。

 ――僕が神様だったなら。

 考えたこともなかったよ、そんなこと。

 もしそうなら、父も、その取り巻きも、僕は絶対に許さない。全員、焼き尽くしてやる。消し炭になって、塵になるまで。


 僕がちょっと物騒なことを考えながら作業をしてたせいか、昼食のサンマを夕樹乃さんが少し焦がしてしまった。要らないことを考えるもんじゃないな。マジで僕はサトラレなんじゃないか、と少し思ってしまったり。いやいや。そんなこと、あってたまるか。偶然だよ、偶然。

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