その晩は、初めて夕樹乃さんにリードされる格好でベッドを共にした。
どうして、分かったのかな。姉さんそこまで言ってないだろうに。
彼女は優秀な人だから、断片的な情報から、僕にどう接すればいいのかを導き出したのだろう。たぶん。
ひととおりお楽しみになられた彼女。もちろん僕も。
まあそれは良かったのだけど、問題はその後。
「あう……なんで……」
そして僕は彼女のベッドに拘束されている。
どうしてこうなった。
「玲央くん、実は『受け』だろーなって」
たしかに、姉さんとはそうだったですけども!
けども!
だからってねえ!
「あうううう、そ、そんなこと、いわないでぇ」
やめて恥ずかしい。
りょーじょくされるというやつなのか、これから。
何がどうしてどうなって。
夕樹乃さんに色々されて、恥ずかしくて仕方ない。
「かわよ……れおきゅん」はあ、はあ、と彼女の息が荒い。
「うわあぁん、ひどいよぉ」
何故か僕は女性物の下着を着けさせられている。
それをやってる当の夕樹乃さんは、ガチめに興奮していて正直怖い。
にしても夕樹乃さんまで、きゅん付けだなんて。ホントに流行ってるの?
「そうかしら? それにしてはご立派様がハミ出してるのだけど?」
「だから、いわないでってば」
あー、もう! ホントのこと言わないでってのに! 恥ずかしすぎる!
ていうかこんな小さい下着じゃハミ出すの当たり前でしょ?
夕樹乃さんはもう僕をいじめない、ってのは前言撤回!
違う意味で僕をいじめてる! いじめて興奮してる! たすけて姉さん!
「似合ってるわよ~」
「やだあ、はずかしいよぉ」
「かわよ~。れおきゅんも興奮してる」
変態プレイに興奮してるんじゃない。君がいろいろ刺激するからです!
「やだ! いわないでってば、そんな」
「うふふ、真っ赤じゃない」
夕樹乃さんが僕を……あ、やめやめやめ~~~~っ!
こ、こねくり回したらダメだってば!
「あ――っ」
そして僕はメチャクチャ気持ちよくされてしまった。
気持ちは良かったけど、メンタル的に何か大事なものを失った気がしてならない。
「玲央くん~、ごめん~、怒らないでえ~」
「べつに怒ってないですが」
事後、廊下に寝袋を敷いて潜り込む僕に、夕樹乃さんがハンパな謝罪を繰り返す。ぶっちゃけ怒ってます。ええ。怒りと羞恥でおかしくなりそうだ。
「逃げられて困るくらいなら、あんな辱めを与えなければいいでしょうに」
「あれはちょっとやり過ぎたって反省してるから~」
くるりと背中を向ける僕を、寝袋の外から揺する夕樹乃さん。
しらんがな、もう。ぷい。
「ごめんなさい~~」
「もー……。恋人だってやっていいことと悪いことがあるでしょ」
「ごめんなさい~玲央くん~」
「僕はあまり女性経験ないって言ってるのに、いきなり大人の爛れたプレイをカマすなんて、あんまりでしょうが。ちゃんと反省してる?」
「してます~~、だから嫌いにならないでぇ~~」
僕は夕樹乃さんの方に向き直って、
「嫌いなら最後までさせてませんよ。僕だってこれでも男ですから、拘束を解く最低限の腕力くらいありますって。貴女が大喜びだから付き合ったに過ぎないんだから」
「ううう……。だってぇ~~、ずっと前から大好きな推しを家に連れ込んだらやりたい事だったんだもの~~」
それが女性用下着を装着させた上でベッドに拘束して凌辱の限りを尽くすことですか。
相手が僕じゃなかったら、夕樹乃さんは犯罪者になってるところだぞ。
「その発想がすでにヤバイでしょうが。も~、昔の夕樹乃さんに戻って~」
「隠してただけで最初から何も変わってませんよ」
うわあ……。なんてことだ。そんなケダモノと僕は仕事をしてたのか。
「えええ……逆にこれだけの熱意を四年も隠してた事の方がある意味すごい」
「だからもうガマンできなくて」
「溜まる度合が天元突破してますよね夕樹乃さん」
いつもすぐ、ぐっしょりになってしまうのを僕は知っているから、体力があまりなくて十分に満足させてあげられないのを常々申し訳なく思ってる。だから今日だって彼女の好きにさせてたら……。というね。
「そうよ! ……でもちょっとくらいは気持ちよかったでしょ?」
「むっ。どうすれば男が気持ちよくなるかなんて、夕樹乃さんは経験豊富だからお詳しいんでしょ。どーせどーせ僕は童貞同然な引きこもりの初心な小僧ですよ。オモチャになるくらいでしか貴女を満足させられませんよーだ」ぷい。ぷいぷい。
にゃ~~~ん、とすり寄ってくる夕樹乃さん。これはこれで可愛いんだよなあ。ずーっとスネていようかなあ。
「やっぱり怒ってる~~っ、ごめんなさい、反省してますううう!」
「ホントに反省してる?」
「してます! してます!」
うーん。どうしようかな。可愛い夕樹乃さんを堪能したいけど、疲れてすぐ寝たい気持ちもあってだなあ。
「もう、あんま無理なことしない?」
「しません! 見て楽しむだけにします!」
それはそれで怖い。視姦されちゃうの?
しかしこれではキリがない。
しょうがないので僕は寝袋から這い出して、夕樹乃さんのベッドの脇に寝袋を敷き直すことにした。夕樹乃さんがウキウキしながら、ずるずる引きずった寝袋の後をついてくる。普段のクールビューティーな彼女からは全く想像も出来ないんだけど、これを楽しめるのも恋人特権なんだろうな。くくく。
愛人だからといっても島本にはこんな姿見せてないだろう。誰にも愛されないなんて可哀想な奴だが、自業自得だ。ざまあみろ。夕樹乃は僕のものだ。もう返さないぞ。
「じゃあ、僕もう寝るから。ヘンなことしたら即帰るからね!」
「しません~~。おやすみなさーい」
「はい、おやすみなさい」
くたびれ果てた僕は、すぐ眠りに落ちた。すぴー。
四年間、彼女にさんざん弄ばれてきて、最近ようやく恋人同士になれた。……と思ってたんだけど、まさか物理的にここまで弄ばれるとは予想してなかった。気持ちは良かったけど、すっごい疲れるし、やっぱり僕には刺激が強すぎる……。
まだしばらくはマイルドなセックスでいいです。
マジで。
夕樹乃さん、可愛いけど、こわい。溺愛してくれるけど、こわい。