少し前、バスの中でマウとホウリさんに包帯を巻いてもらっていた時……
「ねえホウリさん、前から気になったこと、聞いていい?」
マウはホウリさんを見てたずねた。
「どんなことですか?」
「えっと……ちょっと聞きにくいことかもしれないけど……」
至って穏やかな表情のホウリさんに、マウは一度だけ目をそらす。
「ホウリさんって、どうしてサバトと鳥羽差市で性格が変わるの?」
「……」
あまりに直接的過ぎたのか、ホウリさんは戸惑ったように視線をあちこちに向けていたけど、すぐにうなずいてくれた。
「その質問、よく言われるんですけど……アタイ、サバトの方が落ち着くんですよ」
ホウリさんは、まるで居心地がよさそうに胸に両手を当てる。
「……このサバトが?」
「ええ……鳥羽差市では……あまりいい思い出がなくって」
おととい、共に裏側の世界に引きずり込まれた時のクライさんの話が、紋章の中で再生される。
ホウリさんは、10年前の事件で父親を失っている。殺されたわけではなく、責められることに耐えきれなくなって……自ら命を絶ったんだっけ。
たしか、ホウリさん自身もいじめにあって、それであのような性格になっていたとクライさんから聞いた。
「アタイは、このサバトに迷い込んでから……こっちの方が過ごしやすいって思ったんです。陰口でどこから責められるかわからない鳥羽差市より、相手に不快だと思われたらすぐに殺されるこちらの方が、気が楽なんですよ……」
窓の外に映る森を眺めながら、ホウリさんは笑みを浮かべていた。
「……それじゃあ、どうして鳥羽差市で占い師を?」
「ええ……アタイを助けてくれた人が、ぜひそうしろって言われて……よくわかっていないけど、やっているんです。占い師を」
ワタシは、初めてホウリさんと出会った光景を、胸の中で再生する。
――ホウリは疑われることには敏感だが、信用してくれる人に対しては――
――恩義を感じることができるやさしさを持っている――
フジマルさんの、言葉だ。
「……なあ、ホウリ。もうそろそろいいか?」
そのフジマルさんは、まだ向こう側の窓を見ていた。
「ああ……もうそろそろ外の景色も飽きてきたんだが」
シープルさんも、同じ状況だ。
「もうふたりとも、とっくに着替えちゃっているよ!!」
マウのツッコミに、ホウリさんは心からの笑みを浮かべた。