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サイドストーリーNo.16 ライバル

 そういえば、ホウリさんが立ち去る前に一緒に朝ご飯を作ったっけ……





 キッチンに立ち、ワタシはホウリさんとともに食材を確認する。


「これ……使っていいですか?」


 冷蔵庫からミニトマトを取り出していると、ホウリさんが棚からパスタが入った袋を取り出した。


「そういえばイザホ、まだパスタをゆでたことはなかったよね」


 足元のマウは意見を求めるようにワタシの顔を見上げる。

 ぜひ使ってほしい。正直パスタはまだ自信がないから、どんなふうにゆでるのかをちょっと見たかったから。




 やがて、ダイニングルームのテーブルの上に、朝食が並んだ。


 きゅうりとハムが入ったポテトサラダは、ワタシとマウが作ったもの。


 そして、トマトとたらこのパスタは……ホウリさんの手作りだ。




「んん!! うまいっ!!」


 パスタを口にしたマウが、フォーク片手に高らかに宣言した。

 びっくりして、ホウリさんは肩を上げている。


「……本当……ですか?」

「うん! 柔らかすぎず固すぎない、ちょうどいいゆであがりのパスタ……それにたらことトマトの味がマッチしているよ!」


 ……


「あ、もちろん、イザホの作ったサラダもおいしいよ」


 マウは気遣ってくれたけど……

 ポテトサラダを口に運んでも、正直あまりおいしくない。まずいことはないけど……なんというか、おいしいものが抜け落ちているような感じ。


 ホウリさんのパスタがおいしい分、ポテトサラダの味がいまいちに感じてしまうのかな……




「あの……イザホさん、結構おいしいですよ」




 ホウリさんは口に手を当てて、うなずいた。


「あとはジャガイモの皮をむくタイミングを工夫すれば、もっとおいしくなると思います」

「え? 皮をむくタイミングだけで!?」


 まさにマウと同じことを考えていた。


「はい。パスタをゆでている途中で見た時にはすでにむき終わっていたので黙っていたんですけど……ジャガイモの皮はゆでる前にむいてしまうと、ゆでている間にうまみ成分が逃げてしまうんです」


 そうだったんだ……思わず口を開けてうなずいてしまう。

 スマホの紋章で調べたレシピは1回だけ見て覚えていたから、見落としていたかもしれない。今度からはゆで終わってから皮をむくことにしよう。




「それにしても、料理に関して詳しいんだね。ホウリさんって」

「いえ……父に教えてもらっただけですから……」




 マウとホウリさんの会話を聞きながら、ポテトサラダをもう一口。


 ここからおいしくなる方法を聞いたからか、なんだかさっきよりもおいしく感じる。




 そして胸に埋め込んだ紋章の中で、ホウリさんに対してひそかにライバル心を燃やした。

 ……あくまでイメージだけどね。

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