食堂から立ち去る前……
テツヤさんが見えなくなると、ワタシの体に埋め込んでいる紋章が魔力を求め始めた。
「イザホ、ここで昼ごはんを食べようよ。ボク、イザホが起きなくてごはんが喉に通らなかったから、もうペコペコだよ」
マウに向かって、提案と謝罪をこめてうなずいた。
一度席を立ち上がり、入り口近くの自動販売機に立つ。この食堂は食券制度だから、この食券の自動販売機で購入する必要があるんだよね。
ワタシとマウは隣の写真と比べてメニューを決めると、対応する食券を購入した。
次にカウンターにいる調理員さんに食券を渡すと、食券の切れ端を渡された。
本当はここに書かれている数字を調理員さんが読み上げたら、このカウンターに戻ってくる必要がある。だけどワタシは左手首の骨がまだ治っていないので、調理員さんに頼んで持ってきてもらえることになった。
食券を受け取ってくれた調理員さんの後ろでは、さまざまな料理を作っている音が聞こえてきた。
ワタシにも、あんな感じに料理ができるようにな――
――コンロからと思われる炎の音が聞こえたので、もうなにも考えないように席に戻った。
番号を呼ばれるまでマウと一緒に待っている間、ワタシは左の手首に目を向けた。
まだ治療の紋章が青色に光っているから、完全には治っていないみたい。
「そういえばイザホ、昔の病院のこと、知りたくない?」
マウが自信満々に鼻を動かすので、食いつかずにはいられなかった。
「昔の病院は骨折などのケガをした時、完全に回復するまでに数カ月かかったらしいよ。今では人間の場合でもひどくて1週間なのにね」
それって、治療の紋章がないからってことだよね。
その分、入院費もかかって大変そう……
「そうそう、イザホの個室、あれ他の人がびっくりしないように、フジマルさんが配慮してくれたんだ。ほぼ全身複雑骨折の患者が、他の患者と同じ部屋だと騒がれちゃうから――」
治療の紋章という言葉が浮かんで、ふと気になることが思い浮かんだ。
スマホの紋章に入力して、マウに見せる。
「なになに……治療の紋章はどこまでのケガなら治せるかって?」
治療の紋章は、あまりにも深いケガに対しては魔力が足りず、効果がない……マウから聞いた話を元に、記入したメモのアプリにはそう書かれている。
だけど、ワタシは体の骨が折れるほどのケガをしても、治療の紋章が埋め込まれた包帯ですっかり回復している。だから、どのぐらいのケガまでならいいのか気になった。
「えっと……イザホの場合は、量の問題かな」
ワタシの場合は、量の問題?
「治療の包帯は魔力が足りなくなると消えてしまうけど、ある程度までは治る。そこからなんども包帯を巻き直すことで、治療することができるよ」
それじゃあ……ワタシじゃなかったら?
「生き物はひどいケガを負ってしばらくすると、そこから腐敗が始まってしまう。切り落とされた腕を治療の紋章でくっつけるのに遅れた場合がわかりやすいかな。治療の紋章はそれぞれ別の物をくっつけることができないように、腐り始めた肉体と生きている肉体は違うものとして、治療ができないんだ」
一息ついて、「イザホは腐敗を防ぐ紋章を埋め込んでいるからだいじょうぶだけど」とマウは付け加えた。
そのころになって、調理員さんが料理をお盆に載せて届けてくれた。
「まさに……ボクの……狙い通り!!」
マウは並べられたお子様ランチを眺めて、目を輝かせていた。
フランスの国旗の描いた旗が刺さったチャーハンに、コーンポタージュ、ハンバーグ、レタスとコーンのサラダ、オレンジジュース……そして、デザートのマンゴーが入った小さなパフェ。
マウはマンゴーが大好き。食べ過ぎないように、1週間に3個までっていうルールを決めているけど、今週はまだ1個しか食べてないからだいじょうぶかな。
「まっててね……マンゴーちゃん……」
マンゴーに目を向けつつ先に他の料理を口に入れるマウを見ていると、
ざるうどんをめんつゆにつけてすするワタシの口は、思わず頬角が上がっていた。