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サイドストーリーNo.14 夢の話

 犬のナースさんが言っていた先生……おそらく担当のお医者さんが来るまでの間。


「そういえば、イザホ……また、夢見てた?」


 マンション・ヴェルケーロシニのことを懐かしんでいると、マウの話で我に返った。

 どうしてわかったの? マウ。


「だってさ……イザホ右腕上げていたんだよ。まるで、引き留めるようにさ」


 きっと、ワタシがお母さまと一緒にお葬式に行った時の夢かな。

 つい無意識的に、ワタシを止めなきゃ……そう、思っちゃったっけ。


 ……ふと、いつかマウに聞いてみようと思っていたことがある。

 包帯の上からスマホの紋章を操作して、文字を打ち込もう。


「なになに……ボクも夢を見たことあるって?」


 ワタシがうなずくと、「もちろん、ウサギだもん」とマウは鼻をプウプウと鳴らした。


「といっても、夢って一度見るとすぐに忘れてしまうものだけどね……いや、待てよ? ふたつだけあった……ような……」


 マウは「聞きたい?」とこちらを向いたので、うなずこう。




「ひとつ目は……ボクが死んだ夢かな」


 ……マウが死んだ!?

 思わず目を見開く。


「死んだっていっても、ボクの夢の中でだよ……!?」


 右手でマウの胸に手を当てる。

 ……よかった。心臓の音が感じる。


「ボクはまだ死なないよ。イザホとお別れするの、悲しいもの」


 マウはなぜか照れたようにもじもじしながら、ワタシに夢の内容を語り始めた。




「ボクは昔住んでいた家で紅茶を飲んでいたらさ、急に体が膨らみ始めたんだよね。風船みたいにプクーってさ。それが家を突き破るほど大きくなって……破裂して死んだんだ」


 夢の中のことだからか、マウは他人事のように話している。


「でも、その後も意識があって……アスファルトから空を見ているような視線だったんだ。それで、人間に担がれて……そのまま直で土層されて……ボクは泣いている人間の顔や覆い被さる土が見えても、まばたきすることすらできずに眺めていることしかできなかったんだ」


 なんだか、不思議な夢……

 死体であるワタシも、そう思ってしまう。意識があることに気づいてもらえないまま、埋められてしまうなんて……




「ふたつ目は、とにかく怖い夢だったよ」


 一息はさんで、マウは話を続けた。


「ボクは追いかけられていたんだ。大きな怪物から……ボクに罵倒を浴びせてくる怪物から……走っても走っても、追いかけ続けて……」


 大きな怪物……


「ボクは転んだ。それを、拾ったのは……」


 そこでマウは、体をぶるっと震わせた。


「怪物だった。今まで叫び散らかして罵倒をしていた怪物が急に、ボクを抱きしめたんだ……ごめんな……ごめんなって……」


 ……


「……という、夢だったけど……イザホ、どうしたの?」


 少し考え事をしていたら、マウに心配されちゃった。

 今回は本当に大したことはないから、首を振って安心してあげよう。


 マウの話が、昨日のバフォメットのことと重なっただけだから。




 それにしても……やっぱり不思議だな……




 ――夢ってさ、自分の記憶を元にして作られるんだよ? 自分が見たことや聞いたことのない未来のことなんて、夢に出てくることはないよ――




 リズさんの言葉を、思い出す。

 夢は自分の記憶を元にして作られる。ワタシが見た夢も、ワタシの記憶そのものだった。


 だけどマウの夢は……とても不思議な夢だ。

 マウの話を聞いても、マウの記憶がよくわからない。




 夢の内容って、そこから読み取れる過去って、


 本人しかわからないのかな?




 隠し事をしているようなマウのあくびが、なんだかわざとらしく見えてしまった。

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