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サイドストーリーNo.12 牛は牛肉を見る


 ワタシたちは、辺鳥へんとり自然公園の管理人に会う前に、ふらばし牧場のレストランで昼食を取ることにした。


 ふらばし牧場は森の中の牧場だから、ここでも木がたくさん見えるし、足元には草の他にも木の枝や落ち葉がある。

 牧場といえば青い空に開放感のある草原を思い浮かべていたから、ちょっと新鮮。牧場にくるのはワタシが作られて初めてだけどね。




 牧場には、牛やニワトリ、もふもふな羊毛を身にまとった羊……

 バフォメットと違って、なんだか愛嬌あいきょうがある羊だなあ……


「……」


 ふと、マウがあるオリの前で立ち止まった。


 そのオリの中にいたのは……ウサギ。

 紋章もなにも埋め込まれていないその白ウサギは四足歩行でマウに近づいている……


 あ、ワタシが近づいたら四足歩行のウサギがオリの奥へと逃げちゃった。


「なんだか、不思議な感覚がするよね……」


 知能を持たない白ウサギを見て、マウは二度うなずいた。


 感情深く、それでいて複雑そうに見えた。




 木製の建物で出来た小さなレストラン。


 そこのテーブル席でワタシたち6人は座り、フジマルさんが代表して注文してくれた。


「そういえばさ……ここ、テツヤさんの所有物でしょ? そんなにお金持ちなら、教師をする必要ってある?」


 料理を待っている間、マウはワタシの横にいるフジマルさんに向けて首をかしげた。


「マウ、なにもお金を稼ぐことだけが仕事の目的ではないぞ。仕事をしている充実感、そして、この愛する街のみんなの役に立っていることこそが……」

「持論が入ってますよ、フジマルさん。私も1カ月前の件でテツヤさんに聞き込みをしたけど、その時にこう言っていたわ。子供たちは自分にないものを持っているって」


 フジマルさんの持論に、向かい側の席に座っているスイホさんが冷静に訂正した。

 それじゃあ……その自分にないものを知るために教師をしているのかな? オカルト好きなテツヤさんならありえるかもしれない。ウアさんの絵にも興味を持っていたのもうなずける。


 ふとスイホさんの横を見ると、ホウリさんがキョロキョロと辺りを見渡している。なにかネガティブなことを想像しちゃったのかな……


 その横では、クライさんがホウリさんを見ている……


 と思うと、急に顔を逸らしちゃった。

 ホウリさんがクライさんの方を向いたからかな? なんだか、今日のクライさんの様子、おかしい……




 そう思っていたころ、店員さんが料理を運んできてくれた。




 ワタシが注文したのは、ステーキランチセット。

 180グラムのステーキに付け合わせのにんじんグラッセにブロッコリー、コーン。それにライスとコーンスープ付き。

 鉄板からはジュー、と肉の焼ける音が鳴り続けている。火は別の部屋で通してくれたから助かった……


 フォークで突き刺し、ナイフで食べやすい大きさに切り、口に入れる……


 肉汁が、肉よりも先に喉を通っていく。

 肉も後を追うように、ワタシのプラスチックの胃袋へと落ちていく。




「ここ……面白いですよね。牛を見ながら牛肉を食べるなんて」




 ホウリさんのつぶやきに、思わず窓を見る。


 森を背景にして、牛がこちらを見ている……




 あの牛も、いつかはおいしいステーキになっちゃうのかな。


 この時代なら、紋章で知能も持って、人間と一緒に仕事だってできるのに。


 あのウサギだって……マウみたいに。




 ふた口目を、口の中に入れた。




 ――うん、おいしい。


 とりあえず、今は食事を楽しもう。

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