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サイドストーリーNo.10 ホウリの占い

 そういえば……さっき喫茶店【セイラム】でホウリさんと席に座ったときに、マウと一緒に占いをしてもらったんだっけ。




 ホウリさんは右手のバックパックの紋章からなにかを取り出し、すぐに仕舞った。


「ホウリさん、それってなに?」


 興味を持ったマウがたずねると、ホウリさんは「ヒッ!」と肩を上げる。


「あ……えっと、これは占いの道具ですが……」

「ああ、そういえばホウリさんって占い師だったよね」


 たしか、占いショップを開いていて、ホウリさんの占いは百発百中なんだっけ。


「……よろしかったら、イザホさんたちも占い、やってみます? 今回は特別に1回だけ無料でいいですけど」


 気分転換になりそうだし、やってみようかな。




 ホウリさんが取り出したのは、小さな赤いクッション、


 そしてその上に居座る、丸い球体のガラス玉……


「水晶玉って、結構王道的だね」

「まあ、アタイの占いって実際は道具に頼っているんですよ。この水晶玉の中に埋め込まれている紋章だって、特注のものですから」


 よく見てみると、水晶玉の中には緑色に輝く紋章が埋め込まれている。

 紋章の形は目の紋章……にしては、まつげの数が多すぎる。ホウリさんの言う通り、普通では手に入らない紋章なのかな?


「この水晶玉は、触れた生き物の記憶から映像を作り出し、それをアタイが見て未来を占います」


 過去を読み取る……そんな紋章があるんだ。




「それでは、この水晶玉に手を……あ、どちらからやります?」




 ホウリさんにたずねられて、ワタシとマウは思わず顔を見合わせた。


「イザホ、お先にどうぞ」


 ……うーん、実際にどんなことが起きるのか見てみるまでは、触れる勇気が出ない……

 ワタシはマウに手のひらを見せた。


 先にやってもいいよ、という意味をこめて。


「いやいや、お先に」


 いやいやいや、先にやってもいいよ。


「いやいやいやいや、お先に」


 いやいやいやいやいや、先にやってもいいよ。


「いやいやいやいやいやいや……って、キリがないや」


 結局、マウはおなかのバックパックの紋章からジャンケンのカードを取り出し、ワタシとジャンケンをして順番を決めることになった。




「えっと……これでいいかな?」


 ジャンケンに勝ったマウが水晶玉に手を当てると、水晶玉の中の紋章が緑色から青色へと変わる。


「もう手を離して結構です」


 ホウリさんの指示に従ってマウが手を離すと、


 水晶玉の中に、映像が浮き上がってきた。




 水晶玉の中に立つ、1匹の白ウサギ。


 その白ウサギの上から、何かが落ちてきた。




 これは……ペットのゲージ?




 そのゲージは、白ウサギを粉々に砕いた。




 粉々になった白ウサギの中から現れたのは……




 ハートを抱えた、白ウサギ。




 そのハートにキスマークがついた瞬間、映像は消えた。




「……ええっと、なにこれ」


 マウが理解できないように瞬きを繰り返す一方で、ホウリさんは理解したようにうなずいていた。


「マウさん、あなたはなにか隠し事をしていますね?」

「いや、別にしてないよ。ね、イザホ」


 うん。マウとは相思相愛だもん。




「その隠し事を話すきっかけは、あなたではなく他人によって引き起こされます。しかし、それがきっかけで、話した相手と真の意味でつながることができるのです……」


「……」




 ホウリさんは真面目な顔で話し終えると、一息ついた。


「まあ、周りでは百発百中と言われていますけど……今の雲の状況から天気を予測するように、アタイは水晶玉の映像から未来を予想しているだけですから、実際には外れることだってあるんですよ」


 マウは「なるほどね」と声をかけると、ワタシの顔に向かって鼻をぷすぷすと鳴らした。


「次はイザホの番だよ」


 ワタシはうなずいて、水晶玉に触れた……











 ……水晶玉は、なにも反応しなかった。


 それどころか、水晶玉の中の紋章すら、色が変わらない。




「……? おかしいなあ」


 水晶玉を手にとって首をかしげるホウリさんを見ていると、ワタシでは反応しない理由が思い浮かんだ。




「……そういえば、ホウリさんにはまだ話してなかったね」




 ホウリさんに聞こえない大きさでつぶやくマウに、うなずく。


 ワタシは人格が宿った死体という名の作り物フランケンシュタインの怪物

 死体は生きているものではないから、生物には含まれない。


 だから、生物の記憶を読み取る紋章に反応しなかったんだ。


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