そういえば……さっき喫茶店【セイラム】でホウリさんと席に座ったときに、マウと一緒に占いをしてもらったんだっけ。
ホウリさんは右手のバックパックの紋章からなにかを取り出し、すぐに仕舞った。
「ホウリさん、それってなに?」
興味を持ったマウがたずねると、ホウリさんは「ヒッ!」と肩を上げる。
「あ……えっと、これは占いの道具ですが……」
「ああ、そういえばホウリさんって占い師だったよね」
たしか、占いショップを開いていて、ホウリさんの占いは百発百中なんだっけ。
「……よろしかったら、イザホさんたちも占い、やってみます? 今回は特別に1回だけ無料でいいですけど」
気分転換になりそうだし、やってみようかな。
ホウリさんが取り出したのは、小さな赤いクッション、
そしてその上に居座る、丸い球体のガラス玉……
「水晶玉って、結構王道的だね」
「まあ、アタイの占いって実際は道具に頼っているんですよ。この水晶玉の中に埋め込まれている紋章だって、特注のものですから」
よく見てみると、水晶玉の中には緑色に輝く紋章が埋め込まれている。
紋章の形は目の紋章……にしては、まつげの数が多すぎる。ホウリさんの言う通り、普通では手に入らない紋章なのかな?
「この水晶玉は、触れた生き物の記憶から映像を作り出し、それをアタイが見て未来を占います」
過去を読み取る……そんな紋章があるんだ。
「それでは、この水晶玉に手を……あ、どちらからやります?」
ホウリさんにたずねられて、ワタシとマウは思わず顔を見合わせた。
「イザホ、お先にどうぞ」
……うーん、実際にどんなことが起きるのか見てみるまでは、触れる勇気が出ない……
ワタシはマウに手のひらを見せた。
先にやってもいいよ、という意味をこめて。
「いやいや、お先に」
いやいやいや、先にやってもいいよ。
「いやいやいやいや、お先に」
いやいやいやいやいや、先にやってもいいよ。
「いやいやいやいやいやいや……って、キリがないや」
結局、マウはおなかのバックパックの紋章からジャンケンのカードを取り出し、ワタシとジャンケンをして順番を決めることになった。
「えっと……これでいいかな?」
ジャンケンに勝ったマウが水晶玉に手を当てると、水晶玉の中の紋章が緑色から青色へと変わる。
「もう手を離して結構です」
ホウリさんの指示に従ってマウが手を離すと、
水晶玉の中に、映像が浮き上がってきた。
水晶玉の中に立つ、1匹の白ウサギ。
その白ウサギの上から、何かが落ちてきた。
これは……ペットのゲージ?
そのゲージは、白ウサギを粉々に砕いた。
粉々になった白ウサギの中から現れたのは……
ハートを抱えた、白ウサギ。
そのハートにキスマークがついた瞬間、映像は消えた。
「……ええっと、なにこれ」
マウが理解できないように瞬きを繰り返す一方で、ホウリさんは理解したようにうなずいていた。
「マウさん、あなたはなにか隠し事をしていますね?」
「いや、別にしてないよ。ね、イザホ」
うん。マウとは相思相愛だもん。
「その隠し事を話すきっかけは、あなたではなく他人によって引き起こされます。しかし、それがきっかけで、話した相手と真の意味でつながることができるのです……」
「……」
ホウリさんは真面目な顔で話し終えると、一息ついた。
「まあ、周りでは百発百中と言われていますけど……今の雲の状況から天気を予測するように、アタイは水晶玉の映像から未来を予想しているだけですから、実際には外れることだってあるんですよ」
マウは「なるほどね」と声をかけると、ワタシの顔に向かって鼻をぷすぷすと鳴らした。
「次はイザホの番だよ」
ワタシはうなずいて、水晶玉に触れた……
……水晶玉は、なにも反応しなかった。
それどころか、水晶玉の中の紋章すら、色が変わらない。
「……? おかしいなあ」
水晶玉を手にとって首をかしげるホウリさんを見ていると、ワタシでは反応しない理由が思い浮かんだ。
「……そういえば、ホウリさんにはまだ話してなかったね」
ホウリさんに聞こえない大きさでつぶやくマウに、うなずく。
ワタシは
死体は生きているものではないから、生物には含まれない。
だから、生物の記憶を読み取る紋章に反応しなかったんだ。