リズさんの教室に向かって走っている最中、ふと4時間目まで外で時間をつぶしていた時のことを思い出した。
「あ、フジマルさん。イザホちゃんにマウくんも」
マウとフジマルさんとともに、依頼の時間までアーケード街で時間をつぶしていると、刑事のスイホさんと遭遇した。
後ろにはクライさんもいる。
「スイホにクライか! ふたりとも、捜査は順調か?」
「いえ、残念ですが、まだ進んでいる手応えはないんですよね……先ほど、
今回は主に中学生の方に関わりがあるから、“中”とつけたのかな。
それにしても、クライさん……なんだか眠そう。
さっきからスイホさんの後ろでなんどもあくびをしている。
朝食を取るのは今からだから、朝早く起きたのかな?
「ねえスイホさん、ふたりはさっきからこのゲームセンターの前に立ってなにか話していたみたいだけど……なにか手がかりでもあるの?」
マウは横にある建物を指さしながらたずねる。
その建物からは、電子の音が大音量で聞こえてきていた。
外からでも中の様子はよく見えていて、いろんな人が機械を操作して遊んでいる。
ここがゲームセンターっていう場所なのかな?
「いや、スイホのことだ。クライに対して一方的に熱弁していたんだろう?」
“熱弁”という言葉に反応するように、クライさんはまたあくびをした。
「フジマルさんには言われたくないですよ」
スイホさんはちょっと不機嫌そうにつぶやいたけど、ゲームセンターのある機械に目を向けて笑みを浮かべた。
その機械には、ゾンビのイラストが描かれていた。
「ねえイザホちゃんにマウくん。ガンシューティングゲーム、やったことある?」
いきなりの質問に、ワタシは思わずマウと顔を合わせた。
「いや……イザホはあまりゲームには興味ないからなあ……お屋敷にいたときは、たまにイザホのお母さんやボクと落ち物パズルはしていたけど」
スイホさんは、1歩こちらに近づいた。
「ガンシューティング、いいわよ」
……なんだか、目つきが変わっているような気がする。
「また暇ができたらさ、一緒にやってみない? 私の彼氏、ガンシューティング本当に下手くそでさあ……クライ先輩を誘ってもああだし……」
クライさんのあくびとともに、スイホさんはまた1歩こちらに近づいた。
「イザホちゃんとマウくんならさ、きっとすぐに上達すると思うのよ。一緒にやってくれない?」
そう言われても、どう答えたらいいのかわからない。
「ガンシューティング、本当に楽しいのよ! 最初は襲いかかってくる敵に慌てて弾を外しがちだけど、慣れてくるとヘッドショットを狙えていくようになる! 敵が大量に襲いかかってくる中、次々と仕留めていく快ッ感ッ!! あああああああ!! 話しているだけでも興奮してきたああっ!!」
…… 「……」
さらに話を続けようとしたところで、「おっと、そこまでだ!」とフジマルさんが間に入った。
「スイホ、ガンシューティングの布教はすべてを終えてからしたほうがやりやすいんじゃないか? あと、鼻血出ているぞ」
スイホさんは慌ててティッシュを取り出して鼻血を拭き取ると、「たしかにそうですね」と一息ついた。
「早くこの事件を解決して、新しいガンシューティング仲間を作る……よし! 今までは事件でナーバスになっていたけど、ここから切り替えていくわよ! クライ先輩! そうと決まったら早く朝食食べに行きましょう!!」
「……ふああ……ん……」
やる気に満ちたスイホさんと、さっきからあくびしかしていないクライさんは立ち去って行った。
というか、クライさんは何回あくびしているんだろう……
「ねえ……いちおうスイホさんって、刑事だよね?」
「それについては心配する必要はないぞ! あくまでもガンシューティングは気分転換の一種だと、スイホはわきまえているからな!」