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サイドストーリーNo.7 注目のアイドルは、オオカミのぬいぐるみ


 瓜亜探偵事務所に戻る前に、ワタシたちは昼食を取ることにした。




 アーケード街にある牛丼屋。


 窓際のテーブル席についたワタシたちは、それぞれメニューを見て注文した。

 今日はフジマルさんのおごりだから、ちょっと気になったものを遠慮なく注文しちゃおっと。




「……珍しく見えたのか? それが」


 納豆をかき混ぜているフジマルさんは、ちょっと首をかしげていた。


 ワタシが注文したのは、豚丼のランチセット。

 どんぶりの中に居座っている白いご飯の上には、豚肉がタマネギのスライスとともに乗っている。それに加えて、ランチセットのサラダとみそ汁がそれぞれ別の器に入ってお盆の上に並べられていた。


「イザホは豚丼が珍しいから、それにしているんだよ。でしょ?」


 隣でマウがマグロ丼の上にタレを掛けながら説明してくれた。そのとおりだよ。


 ここは牛丼の店だから、最初は牛丼を頼むつもりだった。牛丼の存在は知っていたけど、食べたことはなかったから。

 でも、メニューの中から豚丼の文字を見つけたとき、思わず食べてみたくなっちゃった。

 だって、牛の代わりに豚って、ありそうでなかった考えだったから。


「そうか、まあ納豆定食を頼んでいる私が言える立場ではなかったな!」


 フジマルさんはそういって、ごはんに納豆をかけた。




「別にどうでもいいことだけど……ボクはマグロ丼にイザホは豚丼、フジマルさんは納豆定食……牛丼屋なのに牛要素はまったくないね」




 ……あー。「確かに」











 みそ汁を飲んでいると、ふと窓の景色が気になった。


 その窓からは、ビルに設置されていたモニターが写った。

 たしか、街頭テレビってものかな?


 テレビの映像は、かわいらしい服を着たオオカミのぬいぐるみが、歌を歌っているように踊っている。

 ぬいぐるみには紋章がちらほらと見えていて、少なくともCGではないみたい。


「お、ぬいぐるみアイドルの“ウンルン”じゃないか。イザホ、興味があるのか?」


 フジマルさんに話しかけられたけど……

 ぬいぐるみアイドル? よくわからないのでマウに説明をお願いしよう。


「ウンルンはオオカミのぬいぐるみに人格や知能を埋め込んで生まれたアイドル……今、もっとも注目されていると言っても過言ではないアイドルだよ」


 へえ……アイドルって、人間や動画のキャラクターだけがなるものだって思ってた。ちょっと偏見だったかも。


「ウンルンはかつて、紋章でアイドルを作りだそうというプロジェクトから始まった。最初はマネキンを元に作る予定だったが、人間の姿をした作り物に大衆の娯楽のために命を与えていいのかって、倫理的な話でもめて……最終的にはオオカミのぬいぐるみになった……」


 ……? いきなりフジマルさんが語り始めた。


「フジマルさん、結構知ってるね。ファンなの?」

「いや、曲を1、2曲しかしらないにわかだ。ただ、私の知り合いに熱心なやつがいてな……彼の熱弁を聞いていたら、いやでも耳に残ってしまった」


 へえ……そのウンルンって子に熱心な人とも、なんだかいつか会いそう。

 帰ったら調べて見ようかな?




 ふと、豚肉と白米を箸で持ち上げると、ある疑問点が胸の中をよぎった。


 フジマルさんの話では、人間の姿をしたマネキンに命を与えることでもめたと言っていた。


 それなら、オオカミの姿をしたぬいぐるみなら、大衆の娯楽……みんなを楽しませるだけのために命を与えるのはいいってことになるのかな――




 ――あ、おいしい。

 口の中に入った豚肉と白米で、ウンルンについて考える気が薄くなっていく。

 まあ難しい話は後で考えよう。


 ……ウンルンを作った人も、こんな感じに考えることを後回しにしたりして……そんなことはないよね。




 街頭のテレビの中で踊るウンルンに見守られながら、ワタシは豚丼を完食した。

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