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サイドストーリーNo.5 手のひら決済

 ワタシたちはマンションに戻る前に、尾行中の食料を買っておくことにした。


 瓜亜探偵事務所の近くにある商店街。

 その入り口付近に存在する“スーパーマーケット・フルダ”へと、足を運ぶ。



「ま、まさか……こんなところで出会えるなんて……」


 前から興味を持っていた4色パンを買い物カゴに入れていると、ぷうぷうという鼻息が聞こえてきた。


 横を見てみると、コッペパンを手に取ってヨダレを必死にこらえているように口元を動かすマウの姿があった。

 そのコッペパンの包装紙には、“マンゴーコッペパン”と書かれていた。果物のマンゴーが挟まったコッペパンの写真が載っている。


「ねえ、イザホ……今週はまだ2回しか食べていないからさ……いいよね?」


 もじもじしながらマンゴーコッペパンを差し出すマウに、ワタシは人差し指を立てる。ちょっと待っててね……


 胸に手を当てて思い出そう。

 たしか今日は日曜日……今週、マウが食べたのは月曜日と水曜日……今日はまだマンゴーを食べていないから……

 よし、1日1食、1週間に3食はちゃんと守ってる。


 ワタシがうなずくと、マウはマンゴーコッペパンをかかえてその場でぴょんぴょんとウサギ跳びをした。

 マウにとってマンゴーが食べられることは、ワタシが微糖の缶コーヒーを飲めることと同じ。だからとっても嬉しいんだね。


 レジに向かうと、気になる文章が書かれたポスターが目に入った。


 “ただいま、手のひら決済キャンペーン中!!”


 ポスターの文面を見ると、どうやら手のひら決済で会計をすると、5%の割引になるらしい。


「そういえば最近、手のひら決済を進める店舗が多くなったよね。昔の時代はセルフレジだけでも珍しかったのに」


 手のひら決済か……やったことないなあ。

 たしか喫茶店セイラムにも、読み取るための紋章はあったけど……昨日は疲れていたし、今日はリズさんの話で胸がいっぱいだったから、普通に現金で払っていた。


「ねえ、せっかくだから、この機会にやってみたら?」


 振り向いたマウに向かって、うなずく。ためしにやってみよう。


 セルフレジで商品を読み取ると、レジに取り付けられたモニターが会計を出す。それを確認すると、ワタシはモニターの会計ボタンを押す。

 すると横の機械に埋め込まれた、円マークの紋章が緑色から青色へと変わる。

 それにワタシの左手のスマホの紋章で触れると、モニターの画面に“またのご来店、お待ちしております”と表示された。


 ワタシのスマホの紋章には、あらかじめプリペイド型の電子マネーを入れている。

 マウの話によると、手のひら決済の元になったのは電子マネー決済という。

 昔の小型の機械だったスマホを専用の機械に読み取らせる方法は、今と特に変わっていない。名前が変わったのは、手のひらにスマホの紋章を埋める人が増加したからだ。




「はあ……マンゴーちゃん、待っててね……」

 スーパーマーケット・フルダから出ても、しばらくマウは自身のバックパックの紋章を眺め続けていた。

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