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サイドストーリーNo.3 自転車代わりのホウキ

 移動用ホウキをバックパックの紋章に仕舞っていた時、ふとこの雑居ビルまで来ていた時のことを思い出した。




「イザホ、その移動用ホウキは新しく買ったのか?」


 大通りの歩道を移動ホウキで走っている中、先行していたフジマルさんがたずねてきた。


「うん、鳥羽差市に引っ越すことが決まってから、イザホのお母さんが買ってくれたものだね」


 声帯のないワタシの代わりにマウが答えると、フジマルさんは「なるほど」とうなずいた。ふと、お屋敷の周りでマウと一緒に練習していた思い出が蘇る。


「しかし、この移動用ホウキもなかなかの優れものになったな。移動用ホウキが開発された当初は、本物の木製のホウキに“ホウキの紋章”を埋め込んだだけの簡素なものだったが」

「あ、知ってる知ってる。重量制限が極端に低いっていう問題があって、今のような丈夫なプラスチック製のものになったんだよね。前のデザインの方が魔女っぽくていいっていう人もいるけど」


 そういえば、以前マウに移動用ホウキの起源について聞いたことがあるような気がする。

 中世の魔女が乗って移動していたと言われている、本来なら掃除につかうホウキをヒントに、ある乗り物の代わりになるものとして開発されていたみたいだったけど……その乗り物って、なんだっけ?


「ここまで移動用ホウキが発達するなんて、昔の私は考えていなかったな。今では自転車はすっかり見なくなってしまった」


 あ、そうそう。自転車だ。


「自転車って昔に普及していた、ペダルを漕いで動かすバイクのことだよね。今となってはマニアしか乗らないけど……フジマルさん、自転車に乗ったことがあるの?」

「いや、乗ったことはないな。というより、憧れていたけど買えなかった」


 憧れていた? 「買えなかった?」


「おっと、見えてきたぞ!」


 商店街の前にたたすむ雑居ビルが見えて、ひとまず自転車についての話は区切りがついた。




 ……今思えば、フジマルさんのあの言葉はどういう意味なんだろう?

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