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サイドストーリーNo.2 姿の紋章

 姿の紋章、といえば……

 ワタシはエレベーターを待っている間、1004号室で着替えていた時のことを思い出す。









 クローゼットの中には、真っ白な衣服が並べられていた。


 ワタシの着るワンピースも、マウの着る服の数々も、全部真っ白。


 その真っ白の衣服には、所々にTシャツの形をした紋章が埋め込まれていた。


 この服の形をした紋章は、“姿の紋章”って言ったっけ。




「さて、今日はなんの服にしようかなあ」


 着替える前、マウは真っ白な服を手にとって品定めするように目を細めていた。

 マウの持っている服には、緑色に光っている9つの姿の紋章が埋め込まれていた。

 その紋章の上にはメモ書きのように文字が書かれている。

 確か、マウには他に2着の服があるけど……全部書かれている文字は違ったっけ。


「……よし、これにしよう」


 マウはうなずくと、1番右の姿の紋章に触れた。上には“黄土色のトレンチコート”と書かれている。


 すると、真っ白だった服は姿を変え、


 黄土色のトレンチコートになった。


 触れた姿の紋章は青色に輝いていて、他の紋章は見えなくなっていた。




 この姿の紋章は、埋め込んだものの姿を変えることができる。

 その対象は衣服に加えて、人間の体も含まれている。人間の皮膚に埋め込むことで顔を含めた容姿を大きく変えることもできるんだっけ。

 でも、人間じゃないワタシとマウには関係のない話だけど。


 というのも、姿の紋章は今の技術では人間と衣服しか姿を変えられない。

 鳥羽差市に引っ越す準備をしていた時、ためしにワタシの体に埋め込んでみたことはあったけど……想定外の色になったり、顔が怖いおじいさんになったりしたから慌てて紋章を消したんだっけ。


 ためしに姿の紋章を埋め込んでみた理由は、死体がつなぎ合わせた姿自体、異様に見えるから……

 でも、マウは姿の紋章で変えていると勘違いしてくれるよって言ってくれたから、だいじょうぶだよね。


 そういえば、マウがオシャレさんなのは誰かの影響だって言ってた。

 それがナルサさん……だったっけ。




「ねえ、早く着替えないの?」


 いろいろ考えていたら、マウが首をかしげてこっちを見ていた。

 マウはもうトレンチコートを着ていて、頭にハウンチング帽子を被ってる。

 ワタシも早く着替えなくちゃ。


 ワタシの服には、姿の紋章はひとつだけ。

 その紋章に触れると、真っ白だった服は黒色のワンピースに姿を変えた。




 その後玄関の扉を開けて、ナルサさんと鉢合わせたんだよね。

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