「そういえばイザホ……マスク、どうしよっか?」
喫茶店セイラムの前でマウに言われて、思わずワタシは口元に手を当てた。
1週間前、ウアの攻撃でワタシの顔は、半分だけ骨が露出するほど肌を削り取られてしまった。幸い治療の紋章を埋め込んだ包帯で、赤みを失い灰色へと変色したものの、骨を覆い隠すほど修復することはできた。
しかし、一緒に付けていたお気に入りのデニムマスクもちぎれ飛んた。飛んでいった半分はそのまま城に置いてきてしまい、炎とともに消し炭になってしまったと思われる。
だから、今バックパックの紋章に入っている半分のデニムマスクは治療の紋章でも治すことはできなかった。もう片方もあれば、つなぎ合わせる形で直すことできたのに。
新しいマスクを買うつもりもないので、ワタシはマウに向かって首を振った。
不思議そうに見つめてくるマウの瞳には、右半分は白色、左半分が灰色というフランケンシュタインの怪物らしい顔になったワタシが写っていた。
このことは、後で考えよう。
ワタシはマウを乗せた移動用ホウキを、発進させた。
……スマホの時刻は、12時30分を刺している。
ワタシとマウが鳥羽差警察署にたどり着き、中の待合室にあるソファーに腰掛けて……10分ぐらいかな。
「イザホちゃんに……マウちゃん……」
すると、エレベーターの方からクライさんが頭をかきながら猫背でやって来た。
「クライさん、待ってたんだよ?」
「本当にごめん……今日使う資料、部下が勝手に資料室に戻しちゃったみたいで……」
ブッブッと鼻を鳴らすマウに対して、クライさんは相変わらずのやる気のなさそうな顔でペコペコとおじぎを繰り返していた。
だけど、心の底から謝っていることは、ワタシでも理解できた。
「でもクライさん、本当に無理しないでね? 最近忙しかったんでしょ?」
「まあ……大したことないよ……後処理がほとんどだったから……しばらくすれば元に戻るよ」
笑うクライさんに対して、マウは呆れるように両手を挙げる。
「ほんとかなあ……事件の前よりも忙しくなりそうだけど……」
クライさんは、事件を追うなかでサバトの存在を知り、接触した。
そのことから、サバトでなにかがあった時の後処理を今後任されるようになったと、以前シープルさんから聞いたことがある。
「それはともかく……ふたりとも、準備はできた……?」
クライさんの確認に、ワタシとマウは互いに顔を見合わせてうなずいた。
「いつでも行けるよ……行こう。イザホのお母さんの家に」
「ああ……10年前の事件を……知らないと……」
クライさんの車に乗り込んで、しばらくたったころ。
後部座席に座るワタシはふと、車の窓に映る景色に義眼を向けた。
森の中、この鳥羽差市に来たころは暗闇で見えなかった全景も、昼間の今では立つビルの数々が見える。
この義眼に見える全景も、ここからでは見えない
今のワタシは、知っている。
あとひとつだけ……わからなかったものを知るために、
ワタシの存在理由を……見つける……
いや、作り上げるために……
ワタシは1度、鳥羽差市から離れる。
バックパックの紋章からマスクの欠片を取り出し、
小さな右手で、握りしめた。