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第123話 過去を駆け、未来に向かう。





 ワタシはマウとともに、ウアが逃げていった扉の先についた。




 床や壁は、ほこりひとつ落ちていない石造り。

 周りには大きな柱が何本も立っており、同じ石でできた屋根までもホコリが落ちてくる気配はない。


 明かりは天井にぶら下がった、ほのかに光る豆電球の照明だけ。


 目の前には、誓いの言葉を述べる場所である講壇が存在せず、講壇があるべき場所に地下へと続く階段が存在していた。


「城の次は……教会……」


 ここは、教会を再現した部屋。

 ワタシたちがウアの居場所を追いかけた……裏側の世界。


 お父さまが……紋章を削られたことで、停止した……裏側の世界。


 ここに、ウアが逃げてきたはず――




「!! イザホッ!! 足元!!」




 マウの声に、足元に目を向ける!


 ワタシの足元に、羊の紋章が存在していた!!




 ワタシはすぐに前へ倒れ込み、攻撃を回避するッ!




 後ろを振り向くと、上空に向かって長剣を掲げるウアが羊の紋章から出ていた。


 あの長剣の刃は……ヤリで胸を突かれたお父さまのように、ワタシの左胸を狙っていた!!




「……サくHIん……ツクラNAきゃ……」




 ノイズを発し、ウアは長剣をこちらに向ける。


 ワタシはマウとともにスタンロットの紋章を起動させる。

 そして、左手に持ったオノをウアに向け、向かい打つ……!!




「どろぼー」




 !!


 その時、左右のガラスが割れ、


 そこからブリキのネズミたちが、束になって飛び出してくる!!




「作らなきゃ……」




 前方からはウア!!


 左右からはブリキのネズミ!!




「作らなきゃつくらなきゃツクラナキャTUKURANAKYAAAAAAAAAAAAA!!!!」




 ワタシはマウとともに向きを180度変え、地下へと続く階段に向かって駆け出す!!


 今までのように自分の体に電流を流して張り付いてきたブリキのネズミを蹴散らす方法は、ウアが襲いかかってきている以上、危険だ!!










 階段は長く、奥は暗闇に包まれている……


 懐中電灯をつけて、奥を照らさないと……!!




「ッ!! イザホ!! 飛んでッ!!!」




 懐中電灯の光に照らされたものを認識する前に、ワタシはマウの言葉に従って階段から飛んだ。




 光に照らされていたのは、階段で待ち伏せしていたブリキのネズミだったからだ!!









「……ッ!! こんどは学校!?」


 木製の床に着地したワタシとマウは、後ろから迫ってくるブリキのネズミたちから逃げる!!




「どろぼー」「どろぼー」「どろぼー」「どろぼー」「どろぼー」

「どろぼー」「どろぼー」「どろぼー」「どろぼー」「どろぼー」

「どろぼー」「TUKURANAKYATUKURANAKYA!!」「どろぼー」

「どろぼー」「どろぼー」「どろぼー」「どろぼー」「どろぼー」

「どろぼー」「どろぼー」「どろぼー」「どろぼー」「どろぼー」




 後ろから聞こえてくるブリキのネズミと、ウアの悲鳴。


 ワタシたちは振り返ることなく、廊下を走っていく……!!




「!! 階段の方からも音が聞こえるよ!!」




 さらに下に降りる階段を前に向きを変えようとしたワタシは、マウの忠告に従って階段と反対側にある扉に手をかけた!!










 ッッ!! 「わわあッ!?」




 その先に足を踏み入れた瞬間、ワタシの足は摩擦の少ない氷に滑らせ……


 背中を打ったまま、奥へと回転しながら滑っていく!!


 マウも同じように、くるくると体を回転させながらワタシの横を疾走していく!!




 そして、前に顔を向けると、


 進行方向である奥から、同じように背中を氷につけながら滑り、


 こちらに向かってくる向かってくる人影……!!




「ウアだッ!!」

「TUKURANAKYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」




 先回りしていたと思われる、前方から滑ってきたウアの足とワタシの足が接触する!


 その瞬間、ウアは高く飛び上がり、その長剣を下へと向けるッ!!




 ワタシは横にいたマウを抱えて横へと避ける!!




 ウアが氷に剣を指した瞬間、ワタシたちを乗せた氷はガラスのように割れた。








 氷の下の暗闇へと落ちていく中、ワタシはマウをしっかり抱きしめた。


 あの時みたいに……もう離さないから……!!!









 体に床へ落ちた衝撃が走ると、すぐにワタシは懐中電灯で辺りを見渡した。


 ここは、病院の一室のような部屋。


 壁沿いには、引き出しのようなものがいくつも並んでいる。




「ッッ!!!」


 !!

 天井に懐中電灯を向けると、ウアがこちらを見下ろして――




 長剣を、振り下ろした!!




「くっ!!」


 それを受け止めたのは、マウだった!!

 その小さな左手に埋め込まれた盾の紋章による半透明の壁で、長剣の刃を防いだんだ!


 ワタシはすぐに、左足でウアの足を蹴り飛ばすッ!


「GAAッッッッ!!!」


 バランスを崩し、ウアは仰向けに倒れたッ!!!


 すぐにワタシは馬乗りになろうとオノを片手に振り上げる……




「TKURA……ナKYA!!!」




 !!!


 ウアはワタシに向かって、人差し指を突き刺したッ!!


 その直後、ワタシの体に電流が流れてオノを落としてしまう!!




「ッ!! 待てッ!!」


 ウアは奥に見える扉に向かって逃げ出す!!


 体制を整えたワタシたちも、すぐに後を追わなければ!!








 扉の先は……10年前のコテージの内部!!


 ウアは2階に移動しており、吹き抜けから2階の部屋の扉へと逃げ込む姿があった!


「待てッ!!」


 マウはワタシよりも早く、階段へと駆け出す……!!




「あッ!!?」




 突然、窓ガラスが割れ、複数の人影たちが雪崩れ込み……!!


 階段の前にいるマウを、取り囲んでしまった!!




 互いに触れあうほどの感覚でマウを取り囲んだ人影たちは一斉に、マウに向かって手を伸ばす……!!




「……ッ!!」




 マウに……触るなあああああああああああああああああああああああああ!!!!




 ワタシは小さな右手を突き刺し、人影のひとつにスタンロットの紋章による電撃を与えた!


 その電流は、触れていた周りの人影にも伝わっていく!!




 すかさずワタシはお父さまのオノを横に構え、


 前方の人影たちの足を、なぎ払った!!




 バラバラとバランスを崩して倒れていく人影たちは、服を着せられたマネキンたち。


 フジマルさんとともに育った白髪の少女、スイホさんが殺した弁護士、お母さまのひとり娘、ウアの父親、ジュンさんの息子、テイさんの母親……




 そして、マウを抱え上げたワタシを見ながら、体勢を整えているのは……


 テイさん、テツヤさん、フジマルさん、ナルサさん、スイホさん……




 マウを抱えて階段を上がるワタシを、現代の事件の被害者たちは足で、10年前の事件の被害者たちは上半身だけで這いつくばりながら、追いかけてくる。




 ワタシたちはそれを振り切り、ウアが先ほど入っていった扉を開く!!












 扉の先は……時計塔。

 レンガの壁にそって、らせん階段が設置されている。




 その螺旋階段を、ウアは駆け上がっていた!!


「TUKURANAKYA!! TUKURANAKYA!! TUKURANAKYA!!TUKURANAKYATUKURANAKYATUKURANAKYATUKURANAKYATUKURANAKYATUKURANAKYATUKURANAKYA――」

「……キミの作品は、どこか考えさせられるものがある。だけど、その作る方法は……やっぱりナンセンスだよ」


 マウを床に下ろし、ともに駆け上がっていくウアを見る。


 そして、ワタシたちは螺旋階段に足をかける……!!




 階段をかけ上るワタシたちに、壁に埋め込まれたバックパックの紋章から鎖が出てきて、


 ワタシたちを捉えようと、伸ばしてくる!!




 ワタシはそれをオノで切り落として!


 マウはその小さな体でかわしていって!!




 ウアの背中に向かって、走り続ける!!!








 やがて、ウアは螺旋階段の頂上にたどり着き、


 光輝く外へと、体を投げ出した。




 ワタシたちも、後に続くと――








 ――そこは、城の屋上だった。


 積もった雪の足跡の向こう……屋上の端で、ウアはしゃがみ込んでいた。







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